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「お義父様、お帰りなさい」
「ベルロア伯爵、お邪魔しております」
「エルセット君、久しぶりだな。いつ領地から出てきたんだ?」
「三日ほど前に王都へ到着しました。せっかく王都に来たので今日はシシュカの顔を見に寄らせていただいたのです」
「兄のエルセット君の顔が見られてシシュカも一安心だな」
「伯爵、王都に来てからよからぬ噂を耳にしたのですが、ジルベール君は大丈夫なのでしょうか?」
「君の耳にも届いたか。残念ながら状況はあまり良くはない」
義父は疲れた顔でそう言った。
「お義父様、どういうことですか?」
「リアーヌ王女はやはりシシュカを捕えようとしていた。私が代わりに行ってよかったよ」
……まさかそんなことって。
義父も捕らえられる危険性があったかもしれない。
そう思うと怖くなってくる。
「シシュカ、心配しなくていい。リアーヌ王女がシシュカを連れてこいと喚いていたが、その時にシャル王子が現れて、リアーヌ王女を止めて下さったんだ」
「お義父様は大丈夫でしたか」
「大丈夫だ。だが、リアーヌ王女はシャル王子に止められてもなお、文句を言っていたが。王女の話を折るように、シャル王子が私に下がるように言い、私は戻ってこられた」
カイル殿下は第一王子で王妃様の息子だ。
第二王子のシャル殿下と第三王子のリモンド殿下、第一王女のレノーラ様、第二王女のグレース様は側妃様の御子なの。
少し年が離れて王妃様がリアーヌ王女を産んだ。リアーヌ王女が生まれてからカイル王子の妹溺愛が始まったと言っていい。
王様も同じでリアーヌ王女を溺愛している。
王家の内情は色々と複雑らしい。王妃様は、とても美しい人なのだが、政務は得意ではない。
王妃様の政務はほぼ側妃様が担当しているの。第一王子のカイル様は既に成人だが、凡庸なため、未だ王子のままだ。
私やサラ様たち同様、第二王子派の貴族も多い。
シャル王子はとても優秀で貴族たちの信頼も厚いが、側妃様の爵位が低いため、カイル殿下が王太子になるか、シャル殿下が王太子になるか意見が分かれている状況なのよね。
「ジルベールがリアーヌ王女に興味がないせいでリアーヌ王女が執着するきっかけになっている。なんとも言えない問題だな」
「伯爵、王女が隣国へ行く時期を早めることはできないのですか?」
「余程のことがない限り難しい。反対にリアーヌ王女が問題を起こせば、婚約も破棄されかねない。そうすれば陛下のことだ、難癖つけてジルとシシュカを離縁させ、王女をこちらに押し付けてくるだろう」
「……最悪だ」
兄は渋い顔をしながらそう呟いた。
「子供が生まれるまで内緒にしておいた方がいいと思っていたけれど、お義父様の話を聞いて私の妊娠を早く公表した方がいいのかも」
「確かにそうだが、ジルベールに執着している今、リアーヌ王女からの襲撃があるかもしれん」
「私がここから出なければ問題ないんじゃないですか?」
「……だといいのだが」
「我が子爵家でも万全の準備をしておきます」
「シシュカ、すまないがエルセット君をこのまま借りてもいいか?」
「私は構いません。お兄様、またお茶をしましょうね」
「シシュカ、すまないな」
義父と兄は立ち上がり、執務室で話し合うようだ。
私はマティと一緒に自室に戻った。
ジルは相変わらず忙しいみたいだし、どうなるのかしら……。
あれから義父と兄は話し合い、両家とも襲撃を恐れ、護衛を増やして厳戒態勢を取ることになった。
伯爵やジルベールの方から陛下や王妃陛下、シャル王子に、リアーヌ王女が私を狙わないよう話をし、約束を取り付けた。
陛下は宰相に促され、渋々返事をしたと言っていたわ。王女は今、隣国のマナーや王子妃教育を行っていて男を侍らせる時間もないみたい。やれるだけのことはやったと思うの。
でもジルはリアーヌ王女なら誰に止められてもやるんじゃないかと心配しているの。
まさか「自分の婚約を潰してまで上位貴族の夫人を襲撃するなんてことはない」と、思いたいけれど、今までのことを考えるともしかしたら、起こりえるのかもしれない。
「シシュカ様、本日の書類と伯爵家宛てに来ている手紙です」
「目を通すわ」
私はサロンで開封された手紙を一つ一つ読み、確認していく。
「シシュカ様、馬車が邸に入ってきました。訪問客でしょうか」
「どうかしらね」
マティはたまたま窓の外を見ていて気付いたようだ。
しばらくすると、扉がノックされた。
「シシュカ様、よろしいでしょうか」
「いいわ。入って」
ノック後にエドが部屋へと入ってきた。
どうやら我が家に来たのはカインディッド公爵家の使いの者だった。彼は家紋の付いた馬車ではなく、家紋なしの辻馬車でやってきて玄関ホールで待っているようだ。
一体どうしたのかしら。
「シシュカ様、カインディッド家と名乗る者から手紙を預かっております。どうもシシュカ様に読んでもらってすぐに回収したいと言っておりますが」
エドが使いの者から直接手紙を受け取っていた。
カイディッド家といえばモア様の家よね?
一体どうしたのかしら。
私は心に引っかかりを覚えた。手紙の印はカインディッド家が使う物に見えるけれど、私はモア様と手紙のやり取りをしたことがないので正直分からない。
「使者はすぐに返事を欲しいと玄関ホールで待っています。どうされますか?」
「少し待たせてちょうだい。この手紙をお義父様のところで開くわ」
「それが賢明かと。私の方で使者の対応をしておきますので、シシュカ様はそっと移動をお願いします」
「ファーティは?」
「現在、義父の執務室にいるかと」
「なら急ぐわ」
エドと頷きあい、私は義父の執務室へと急いだ。




