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「お邪魔しまぁす……」


最終手段というか奥の手というか。

私はメイドたちの目を盗んでエスティアナ家を抜け出し、ドルシェのご自宅である王宮に潜入していた。

見張り? えぇもちろん居りましたとも。

だが幾重にも及ぶ浮気調査をしてきた私にかかればそんなのないのと同じ。

よって至極簡単に王宮へ侵入することに成功した私は、ミレイユの記憶を辿り目的地までの廊下をさっさと歩いた。


「へぇ、立派なお部屋ね」


忍び込んだ部屋の中は真っ暗で、冷たい月明かりだけが辺りを照らしていた。

今日この部屋の主人は会食だか祝会だかで一晩中留守なのはあらかじめ調べがついている。


だだっ広い部屋の中央に、キングサイズのベッド。ロココ調デザインのそれには上から天蓋がかかっていて、ミレイユはその隙間からすべてを見たのだった。


「白のテールランプに毛足の長いカーペット……ドルシェは見た目より少女趣味だったのかしら。いや、これはパルシアの趣味? それとも……」


灯りがなくとも、ミレイユの目は夜の暗がりをよく写す。紫の瞳で周囲を見渡しながら私はドルシェの部屋のひとつひとつを観察した。

探偵の本分といえば現場調査・張り込み・証拠集め、そしてそれらをもとにした推理である。

市街調査で得た情報とミレイユの記憶を組み合わせながら部屋の中を歩き、私はある一点で足を止めた。


「鍵……?」


部屋の片隅に置かれた、大理石のチェスト。

そこの二段目の引き出しにだけ、鍵がかけられていたのである。

重要書類や装飾品の管理は杜撰もいいとこなのに、明らかな違和感を感じる。

何か見られたくないもの隠してますよと言っているようなものだ。

となれば。


「てってれ〜! ピッキング〜!」


鍵がなければこじ開ければいいじゃない、というのはよく言ったもので、探偵時代はヘアピンだとかクリップだとかによくお世話になったものだ。

残念ながらそれらは手に入らなかったので今回はドレスの裾から引きちぎったワイヤーを鍵穴に差し込む。

日本のカルチャー猫型ロボットのテーマ曲に乗せてしばらくガチャガチャいじってやれば、やがてカチン!と軽い音がして鍵は簡単に開かれた。


「さーて、ドルシェ様はどんなお宝を隠してるのかしら」


ドキドキ高鳴る胸を抑えながら、私は引き出しをそっとあける。

そこには無数の封筒がひしめいていた。


「えーなになに“わたしの愛しい白馬の王子様へ”?……うわぁ、砂糖吐きそう」


おそらくパルシアと送り合った秘密の手紙だろうか。

別に男女の文通自体は禁止されていないが、婚約者がいる男がそれをしているとなると何かと体裁が悪い、ということでここに保存していたのだろう。

まぁドルシェとパルシアはそういうスリルを楽しんでいた節もありそうだ。

すごく、本当にすごーくどうでもいいけれど、一応は不貞の証拠として取っておくことにする。


「ここもハズレかぁ……」


項垂れて、開けたことをバレないように手紙を元に戻していた時だった。

ガコン、と引き出しの底板が動いたのである。


「……?」


コンコン、とノックすると空気がこもって跳ね返ってきた。つまり、下は空洞なのだろう。

グッと底板を押し込めば、それは簡単に外れた。


「これって……」


外した板の下には、手の中に収まりそうなサイズの紫色の小瓶が2本、綺麗に並べて隠してあった。

そう、ミレイユがこれを使って皇太子を殺すようにと渡された毒瓶である。

持ち上げて月光に透かせば、黄緑色の液体がたぷん、と揺れた。


「物的証拠、みーつけた♡」


一本は実行用、そしてもう一本は何かあった時の予備だろうか。

いずれにせよこれが皇太子殺害の凶器であると考えて間違いないだろう。

これだ。私が探していたのは、これだった。


一本だけをミレイユの記憶を頼りにあらかじめ作っておいたフェイクの小瓶とすり替えて、引き出しに鍵をかける。

これで目的は達成である。


しかし私にはこの王宮でもう一つだけ、やらなければならないことが残っていた。

最後の仕上げ、とでもいうのだろうか。


「……急がなくちゃね」


相変わらず暗闇の中でもはっきりと物を写す紫の瞳を光らせながら、私は足早にドルシェの部屋を後にしたのだった。


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