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解けた糸を、結び直す  作者: Kanon


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14/21

今度こそ、背中を預ける

 黒い城門の前。

 そこには、すでに三つの影が立っていた。風が止まり、空気が重く沈む。

 アネモネが小さく呟いた。


「……待ち伏せね」


 その中央。黒いローブの男が拍手した。

 パチ、パチ、と乾いた音が響く。


「いやぁ」


 軽い声だった。


「思ったより来るのが遅かったね」


 男が一歩前に出る。細身。紫色の瞳。楽しそうな笑み。


「改めて自己紹介を。四天王」


 軽く頭を下げる。


「ムラクだ」


 隣で女がくすりと笑った。長い黒髪に白い肌。指先に紫の魔力が絡みついている。


「私はシュラ」


 ゆっくりと言う。


「死霊術師よ」


 そして三人目。何も言わず、ただ立っているだけの存在。なのにこの場では最も存在感を放っている。

 身体は鎧で固められており、頭から伸びる一本のツノは漆黒だった。背中の巨大な大剣はシオンよりさらに大きい。呼吸すら聞こえない。だが――空気が歪んでいる。

 リコリスが静かに言った。


「……ゼルガ」

「知ってるの?」


 アネモネが眉を上げる。

 リコリスは短く答えた。


「バハムートの直近の部下だった男だ。当時一緒に封印してやったのだがな…」

「どんな奴だ?」

「魔王軍最強の前衛とでも考えろ」


 その言葉にシオンが盾を握り直す。

 ムラクが楽しそうに笑う。


「さすが元魔王、情報が早い」

「貴方たちが遅かったからこっちで色々準備しちゃったわ」


 シュラが指を鳴らした。

 地面が、ゆっくり揺れ始める。

 城門の奥から、巨大な影が現れた。腐った翼。露出した骨。巨大な顎。空洞の目に紫の炎。

 リナリアが息を呑む。


「……ドラゴン」


 シュラが嬉しそうに言う。


「正確には」


 指を立てる。


「ドラゴンゾンビ」


 シュラが笑う。


「わざわざ聖属性のドラゴンから作って聖女一人で簡単に倒されないように」


 肩をすくめる。


「特別に準備しておいたわ」


 ドラゴンゾンビが咆哮する。腐った翼が広がり、地面が揺れる。

 アネモネが低く言う。


「……趣味悪いわね」


 シュラがにやりとする。


「従順で良い子なのに」


 ゼルガが初めて口を開いた。低い声。


「勇者」


 短い一言。剣を抜く。巨大な刃が地面を擦る。ギィィィ……俺は剣を抜いた。

 前に出る。


「……なるほど」


 ドラゴンゾンビを見る。


「四天王三人にドラゴンゾンビ、潰す気満々ってか」


 ムラクが笑う。


「そういうこと」


 俺は少し笑う。


「四天王はしばらく任せててもいいか?」


 シオンが盾を地面に叩きつける。


「マキア様」


 俺は振り返る。


「信じてもいいんですね?」

「あぁ。もう置いていかない」

「なら、時間稼ぎは任せてください」


 シオンが盾を構える。


「約束、守ってくださいね?」


 アネモネは俺に笑いかける。


「あいつは任せたわよ?」


 リナリアも言う。


「絶対倒して」


 俺は頷いた。


「任せろ」


 シュラが楽しそうに笑う。


「君が」


 ドラゴンゾンビを見る。


「一人で?」


 ムラクも笑う。


「無理だろ」


 俺は剣を構える。


「残念なことにドラゴン相手はもう」


 走り出す。


「予習済みだよ!!リコリスのせいでなぁ!!」


 ドラゴンゾンビへ。巨大な咆哮。

 同時に後ろで戦闘が始まった。

 四天王が同時に動く。後ろでは鍔迫り合いの音、魔法の飛び交う音が聞こえてくる。

 仲間に背中を任せて俺は跳んだ。

 ドラゴンゾンビの翼へ。腐った肉を踏み抜く。首の付け根に辿り着く。


「久しぶりの活躍の場なんだ!」


 剣を握る手に力を込める。


「大人しくくたばれ!!」


 剣を振り下ろす。抵抗もなく剣が通る、が倒れない。


「……あー、そうかゾンビだもんなぁ」


 ドラゴンゾンビの頭が振り上がる。巨大な顎が開く。噛みつきにかかって来た。


「ねぇ対処法やっぱわかんないんだけど!?」


 俺は跳んで避ける。牙が地面を砕く。

 そのまま翼の骨を蹴る。

 さらに上へ。


「まだだ!」


 ドラゴンゾンビが咆哮する。腐った翼が振り払われる。空気が裂ける。

 俺は剣を地面に突き刺して踏ん張る。その瞬間。黒いブレスが吐き出された。


「腐った体でも打てんのかよ!?」


 毒の霧。避けきれない。だが――

 体が軽くなる。


「補助か!」


 遠くでリコリスが叫んでいた。


「そう長くはもたんぞ!!」

「助かる!」


 俺は翼を駆け上がる。骨。腐肉。崩れそうな足場。だが止まらない。

 頭へ到達する。


「頭潰せばどうせ止まる!!」


 剣を突き立てる。骨が割れる。だが――倒れない。ドラゴンゾンビが暴れる。

 体が振り回される。


「頭でもダメなの!?」


 振り落とされる。地面へ落下。衝撃。肺の空気が抜ける。


「ぐっ……!」


 顔を上げる。ドラゴンゾンビがこちらを見ていた。次の瞬間、突進してきた。


「嘘っ!?」


 横へ転がる。地面が砕ける。その時――遠くから叫び声。


「マキア!!」


 リナリアだった。

 常に湧いてくるアンデッドの処理を片手間に叫ぶ。


「多分心臓に魔石が組み込まれてる!!」


 説明を続ける。


「魔石から魔力を心臓に送って、全身に循環させることで体を動かしてるだけ!!」

「なるほどな!狙うべきは心臓か!!」


 俺は立ち上がる。

 ドラゴンゾンビが再び咆哮する。翼が広がる。飛ぶ気だ。


「逃がすか!」


 走る。岩を蹴る。跳ぶ。翼に掴まる。さらに跳躍。首の上。


「これで!」


 剣を両手で握り、刃を下に向ける。


「終わりだ!!」


 振り下ろす。刃は身体を貫き、骨を砕く。そして、心臓に届いた。

 ドラゴンゾンビの巨体が止まる。次の瞬間。崩れ落ちた。土煙が舞う。

 俺は息を吐いた。


「……よし」


 振り返る。その瞬間。


「マキア!」


 アネモネの声。

 ムラクが魔法をこちらに放っていた。

 俺は死を覚悟したが、直前に大楯が弾く。


「マキア様は殺させません!!」


 俺は笑った。


「悪い助かった!!」

「結局ドラゴンゾンビも命懸けだったじゃないですか!!後で説教です!!」


 改めて剣を構える。


「待たせたな」


 アネモネが魔法を展開。リナリアの光が広がる。リコリスが笑う。


「では」


 拳を鳴らす。


「第二ラウンドだ」

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