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解けた糸を、結び直す  作者: Kanon


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13/21

増えた約束、変わらない誓い

「想像より酷いな」


 リコリスは腕を組んで呟く。

 シオンはようやく三人に気づいた。涙を拭いながら立ち上がる。


「……お久しぶりです」


 少しだけ頭を下げた。


「アネモネ。リナリア」


 そしてリコリスを見る。


「あなたは……」

「リコリスだ」


 短く名乗る。


「マキアの仲間だ」


 シオンは一瞬だけ目を細めたが、すぐに頷いた。


「そうですか」


 それだけ言う。そして俺を見る。


「マキア様」

「はい」

「床は冷たいので椅子に戻ってください」

「戻りたくないんだけど!?」


 アネモネがため息をついた。


「とりあえず」


 腕を組む。


「事情を聞きましょうか」


 数分後。俺は椅子に再拘束されていた。


「なんで!?」

「逃げるので」

「逃げないって!」


 シオンが無言で壊れた椅子を指差す。


「……」


 反論できない。アネモネがこめかみを押さえる。


「頭痛い」


 リナリアが小声で言った。


「勇者だよね?」


 リコリスが頷く。


「たぶんな」


 俺は叫ぶ。


「疑うな!」


 俺は表情を引き締めた。


「シオン」

「はい」

「聞いてくれ」

「ダメです」

「まだ何も言ってない!」

「言わなくとも先程の行動が全てです」

「頼む話を聞いてくれ!!」

「イヤです」


 俺は深呼吸する。


「でも」


 言う。


「時間がない」


 シオンの眉が動く。


「魔王軍」

「……」

「今もあいつらが暴れているかも知れない」


 部屋が少し静かになる。アネモネも真顔になった。

 俺は続ける。


「三日」

「?」

「三日も動けていないんだ」


 リコリスが頷いた。


「確かにいつこちらが特定されてもおかしくはないな」


 俺は言う。


「だから」

「……」

「行かなきゃいけない」

「ダメです」


 即答だった。俺は天井を見上げた。


「だめだこの子」


 リナリアが俺に疑問を投げかける。


「そもそも私たちが最初に見たあの光景はどういうことがあったの?目覚めちゃったの?」


 俺は仲間への弁明のためにも説明する。

 彼女たちが俺の所に来る前のことだ。シオンは買い出しに出ていた。俺は椅子に縛られたまま考えていた。

 ……さすがにまずい。三日動いてない。四天王がこちらの場所を特定するには十分な時間だ。


「……」


 俺は腕に力を入れる。ギシッ。椅子が鳴る。

 もう一度。ギシギシッ。背もたれが軋む。


「……ふむ」


 さらに力を込める。バキッ!!背もたれが折れた。縄が少し緩む。


「いける」


 体を捻ると縄が外れた。俺は立ち上がった。自由だ。……いや。


「シオンとしっかり話さなくちゃいけないな」


 俺は呟く。


「じゃあどこで待っとこうか「ギィ…」な?」


 扉が開いた。

 シオンが立っていた。沈黙。壊れた椅子。自由になっている俺。全部見られた。

 シオンの手から袋が落ちた。


「……」


 顔が見えない。俯いている。そして。小さく言う。


「やっぱり」


 震える声。


「また」


 ゆっくり顔を上げる。目が赤い。


「置いていくんですね」

「違う!」


 即答した。でもシオンは笑った。空っぽの笑顔だった。


「知ってました」

「シオン」

「知ってました」


 笑っているのに。涙が落ちている。


「私は」


 小さく言う。


「護れなかったですから」


 胸が痛んだ。


「違う」

「だから」


 シオンは続ける。


「今度こそきっと」


 震える声。


「護らなくちゃ」


 そして。


「なのにマキア様は結局……」


 顔を上げる。


「もういいです」


 決意を固めた目だった。


「絶対に逃しません」


 俺は一歩踏み出す。


「シオン」


 その時。バンッ!!

 扉が開いた。


「マキア!!」


 アネモネだった。リナリアにリコリス。三人が立っている。全員状況を見た。壊れた椅子に外れた縄。泣いているシオン。

「……ということなんだ」


 リナリアが言った。


「……タイミング悪くない?」


 俺は叫んだ。


「俺は本当に逃げる気は無かったんだ!!」


 アネモネが腕を組む。


「でしょうね」


 シオンを見る。


「でも、この子にはそう見えない」


 俺は頭を抱えた。


「詰んだ」


 リコリスが小さく笑う。


「勇者」

「はい」

「頑張れ」

「他人事!?」


 リコリスは窓際にもたれたまま肩をすくめた。


「これはお前の問題だ」


 アネモネも腕を組む。


「そうね」


 リナリアも頷く。


「うん」


 三人とも完全に見物モードだった。


「薄情すぎない!?」


 俺は叫んだが、誰も助けてくれない。仕方なくシオンを見る。

 シオンは俺をまっすぐ見ていた。その目はまだ揺れている。怒りと、不安と、恐怖。全部混ざった目だった。


「……シオン」

「ダメです」


 即答だった。


「まだ何も言ってない」

「言わなくてもわかります」


 静かな声。


「戦いに行くんですよね」

「……ああ」

「ダメです」


 迷いがない。

 俺はため息をついた。


「なあ」

「はい」

「聞いてくれ」

「ダメです」

「……シオン!」


 俺は少し声を荒げ、無理矢理話を聞かせる。


「俺さ」


 少し笑う。


「会ってすぐの時にも言ったけどさ。前世の記憶、ほとんどないんだ」


 部屋が静かになる。


「勇者だったことやお前と仲間だったことは断片的にしかわからない」


 頭をかく。


「どうやって戦ったとか、何を考えてたとか、そういうのは何一つわからない。リコリス曰く、魂と脳の間である無意識に全て行っちまったみたいだ」


 シオンが黙る。

 俺は続ける。


「でもな」


 真面目に言う。


「一つだけ、わかることがある」

「……?」

「たぶん前世の俺も」


 少し肩をすくめる。


「今の俺と同じだ」

「……??」

「えっと、つまりだ」


 リコリスが横から言う。


「馬鹿だ」

「おい」


 アネモネも頷く。


「馬鹿ね」


 リナリアも言う。


「うん、馬鹿」

「満場一致やめろ」


 俺は咳払いした。


「だからさ」


 シオンを見る。


「そんな馬鹿だから死なないためのストッパーがいるだろ?」


 シオンの目が揺れる。


「スラムで子ども拾ってさ。俺のこと護る盾になれとか言って、前世の俺はめちゃくちゃ適当なことを言ったんだと思う」


 シオンの唇が少し震える。


「……でも」


 俺は言う。


「それでもお前はうちに来た」


 シオンは小さく言う。


「……はい」

「なんでだ?」


 シオンは少し俯いた。


「それは……勇者様が」


 言葉を探す。


「必要としてくれたから」


 俺は頷いた。


「だろ?」

「……」

「だからさ」


 少し真面目な声になる。


「今回も同じだ」


 シオンを見る。


「俺は、お前が必要だ」


 シオンの呼吸が止まる。


「俺一人じゃ止まれないし、きっとそう遠くないうちに死んでしまうかも知れない」


 シオンの拳が震える。


「じゃあ戦わなかったらいいじゃないですか!!」

「シオンの言う通り、戦わなければ俺は死なないのかも知れない」


 ゆっくり言う。


「だからこそ言わせてほしい」


 静かな言葉だった。


「俺を護ってくれないか?シオン」


 沈黙。長い沈黙。

 シオンは俯いたまま動かない。

 やがて。


「……信じられません。もう置いて行かれたくないです」

「もう置いていかない」

「でも……」


 シオンと目を合わせる。


「頼む。もう一度だけ、信じてくれ」

「……それは命令ですか?」

「いや、お願いだよ」

「……ずるいです」


 小さく言った。


「何が」

「そういう言い方」


 涙が落ちる。


「断れないじゃないですか」


 俺は少し笑った。


「そうか?」

「そうです」


 シオンは目を拭く。そしてゆっくり顔を上げた。


「条件があります」

「なんだ」


 シオンは真剣だった。


「絶対に」

「はい」

「絶対に」

「はい」

「一人で突っ込まないでください」


 俺は頷く。


「わかった」

「勝手に死なないでください」

「善処する」

「死んだら私も後を追います」

「……努力する」


 シオンは少しだけため息をついた。


「……護ります」


 小さく言う。


「今度こそ」


 俺は笑った。


「頼んだ」


 アネモネが肩をすくめる。


「決まりね。シオンの盾はもう買っといたから」


 リナリアも笑う。


「うん」


 リコリスが窓から外を見る。


「では」


 静かに言う。


「目的地を確認しよう」


 俺は言った。


「魔王城」


 シオンが眉をひそめる。


「魔王?」


 リコリスが軽く手を上げる。


「元だ」

「……?」


 シオンの頭の上に疑問符が浮かんでいた。

 俺は苦笑する。


「説明は道中でな」


 椅子の縄を解く。


「行こう」


 勇者。魔法使い。聖女。魔王。そして、ガーディアン。

 勇者パーティは再び歩き出す。

 目指すは――魔王城。

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