君が、望むなら
新婚旅行という名のくいだおれin神奈川。
「亮さんと来てよかったぁ」
ご機嫌の新妻はぷはーっとビールを飲んでいる。コレ食べたいけど胃袋の都合が……という悩みの大半を僕が解決したからだ。
無限に食べることはできる。こんな使い方されるとは思わなかったけれど、悪くはない。
おいしかった、たのしかった、あした海はいるの? 海、きらきらだったね、とこしょこしょ話を初めた末端も浮かれている。
誰かと旅行に行ったことはあるが、それはどこか緊張を伴うものだった。正体の欠片でも見せるわけにもいかず、泊まりでというと始めてだ。寝ぼけてうねる髪を見て悲鳴をあげられることもない。
おお、かわいいね、ともう一度寝かしつけそうなくらいだ。
「今度は可愛い触手ちゃんとも来ようね」
「……まあ、そのうち」
あれは留守居の守りとして一匹残してきた。建前だ。
本音は新婚旅行にもう一匹いるのは嫌だ。薄っすら察していたのか、最後までごねていたがお土産山盛りと高級ポテチで我慢してもらった。
これでこの世には千円を越えるポテチが存在すること、キワモノの果物系もあるということを知った。
そして、元本体よりネット情報に詳しいんじゃないかという現代っ子に育ちそうだなというのも。
フリック操作でスマホも操れるらしい。SNSでの発言はおとなになってからとお約束していると陽葵が言っていた。
すでに子持ち気分である。
「みんなで家族旅行だよ、絶対だよ」
「二人でも良くない?」
「子供の頃病弱で家族旅行したことないの。元気になった頃には兄がいないという。
まあ、あんな兄ではあっても家族なので」
あんな兄とは言うが、縁切りしたわけでもなく、付き合いはしないわっ!といいつつ月一に生きてる?と連絡しているらしい。
返答は大体、簡単なスタンプ済まされるそうだ。
なに言われても腹立つから良いチョイスだと言っていたのがほんとによくわからない。
「明日も朝早く起きて、朝日を拝んで朝食堪能して、海岸をぷらっとするのだ!」
おーっと末端が応じた。
……自我、生えてるな。そのうちにぶった切ってやらないと。なにかを察したのか私髪の毛ですよという態度をとっているが、もう遅い。
「じゃあ早く寝たら?」
末端を寝かしつけつつそう言う。自我が出てきたとなると寝ている間に勝手をされる可能性がある。知らない間に伸びて部屋を出て探検されては困る。
罪もない旅館が心霊スポットになる件は避けたい。
「新婚旅行ですよ、旦那様?」
へべれけが笑う。悪ふざけ的にはだけた浴衣が全然色っぽくない。なぜ、陽葵が色仕掛けと考えるときは全く色気がでないのか。
はいはい、ちゃんと着てね、と直してやりたくなる。
要するに子供っぽい。
「新婚ですよぉ」
「よく言うよね。新婚」
「嬉しいから言う。すごく嬉しい」
「結婚できたのがそんなに嬉しかったんだ?」
よほど苦労したんだろうなと同情するところがある。
と僕は思ったんだが、陽葵が黙った。
「そう思ってたの?」
不穏な声の低さだった。陽葵の機嫌は声に出る。
「私は、亮さんと結婚して、とっても嬉しかったの!」
大変な失言をしてしまった。
しらなぁいとちょっと怪しげな足取りで寝室の方に向かってしまった。
「あれは、まずいな」
つぶやいたが相槌を打ってくれる端末は黙ったままだ。……あ、寝かせたんだったな。
こんな、化物といっしょにいて嬉しいと思う人が存在する、というのがまだ飲み込めない。
そういう感覚は彼女にはわからないだろう。言えば、亮さんは怪異かもしれないけど、大事な旦那様でと言い出す。
だから、怪異を大事な旦那様にすることがおかしいって話なんだが、伝わる気がしない。
ほっといていい案件ではないので、その後を追いかけた。
「べつにぃ、亮さんは結婚しなくても良かったんですもんねぇ」
完全に拗ねている。頭まで布団を被って顔も見たくありませんという態度だ。
「根負けして、なんか、絆されたんですもんねぇ」
「そう思われるのも心外」
「じゃあ、私のこと愛してるっていうの?」
言ったことなかっただろうかと記憶を探った。
あ、あれ?
「…………ごめん。言ったことなかった、と思う」
「ほらほら、私のことなんて」
「今まで言わなかった分、受け取ってくれるよね?」
「へ?」
「君が、欲しがったんだから、需要と供給は釣り合う」
「え、そういう話だっけ?」
そういう話ということで押し切ることにした。
少々、夜ふかしか寝れないかもしれないが仕方がない。
「新婚なんだから、いちゃいちゃして、溺愛して、いいんだよね?」
「そ、そこまで言ってな……」
ひとまず、苦情は唇を塞いで黙らせることにした。
翌日、大変申し訳ございませんでした、次は勘弁してくださいと涙目で訴えられることになる。




