表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/15

アプローチ


 放課後になって、俺は魔法植物園へと足を運んでいた。

 理由はもちろん、クエストである。


「じゃあ、水やりお願いね」

「はい」


 この植物園の管理を担当している教師から、専用のじょうろを受け取る。

 転移魔法陣が組み込まれた、水の減らない優れもの。

 しかも、内部の水には魔力が溶けた魔力水となっている。

 この専用の水でしか、この園の植物は育たないらしい。


「さて、やるか」


 植物園の端から順番に、魔力水を与えていく。

 その過程で虫食いや病気の兆候、異変がないかをたしかめる。

 これもクエスト内容になっているからだ。

 現状、コインには困っていないものの。

 油断しているとすぐに消えてなくなってしまう。

 金銭とはそういうもので、だからこうしてクエストをこなしている。

 詩織も、いまは魔道図書館でクエスト中だ。

 なにやら詩織がクエストを始めると、その日だけ客が増えるらしい。


「……試験の相手、どうしたもんかな」


 単純作業の繰り返しをしていると、どうにも別のことが脳裏を過ぎる。

 ナンバーズに入るという目標を掲げたものの、その初めから躓いてしまった。

 出鼻を挫かれた感が否めない。


「明日にでも虱潰しに声を掛けてみるか」


 そう考え事をしながら機械的に水やりをしていると、不意に足下に気配を感じた。

 ふとそちらに目をやると、屈み込んだ生徒の姿が目に入る。

 見るからに小柄な、ショートカットの女子生徒。

 植えられた魔法植物を観察しているのか、こちらには気づいていない様子だ。

 それにしても、その姿にはどこか見覚えがあるような気がした。


「たしか――」


 記憶の引き出しを探ってみると、思い出す。


「ルナ・メイルシスカ」


 クラスメイトだった。


「――ん」


 口を突いて出た名前に、どうやら間違いはないらしい。

 彼女はぴくりと反応して、こちらを見上げた。


「あなたは、転校生の」


 そう呟くようなか細い声で言葉を話し、ルナは立ち上がる。

 やはり彼女は小柄なようで、立ち上がっても俺の視線はさほど上がらない。

 見下ろすようにして改めてみたルナは、まるで人形のようだった。

 人形のように、表情がうすい。


「天道司だ」

「はい。私もそう記憶しています。……驚きました」

「驚いた?」


 彼女の表情をみるに、驚いた様子は微塵もないけれど。


「私の名前を知っているとは思いませんでした」

「あぁ、それで」


 たしかにルナと話したことはない。

 俺が彼女の名前を知っていたのは、転校生という立場だったからだ。

 はやくクラスに馴染めるようにと、クラスメイトの名前を全員分憶えてある。

 今回は、その甲斐があったようで何よりだ。


「あなたで三人目です。クラスで私の名前をきちんと呼んでくれたのは」

「三人目?」

「はい。先生と、委員長です。私はどうやら影が薄い人種のようで、なかなか名前を憶えてもらえません。ですから、とても嬉しかったです」


 そう言って、ルナは薄く微笑んだ。

 無表情ばかりだと思っていたけれど、そんな顔もするんだな。


「そいつはよかった。ところで、ここで何してたんだ?」

「魔法植物の形状を記憶していました。今度の試験、舞台は森林です。この植物の生息域でもあります。なので、予習を」

「なるほど。勉強熱心なんだな」


 森林に生息する魔法植物の予習か。

 魔物ばかりに目が行っていたけれど、植物のことも知識として必要か。

 魔法植物は種類によって多様な特性を有している。

 毒を持つもの。近くの生物を襲うもの。怪我の治癒に役立つもの。食べられるもの。などなど多岐に渡る。

 すべてをとても憶えきれないが、ある程度は頭に叩き込んでおくべきだろう。


「もう試験を見据えてるってことは、パートナーも決まっているのか?」

「パートナー……いえ、特には。先ほども言ったように、私は影が薄いので。いつもクラスであまった人と組むことが多いです。今回も、そうなると思います」


 淡々と、ルナは告げる。

 抑揚のない声からは感情を読み取ることは出来ない。

 けれど、その無機質さが、彼女の孤独を現しているようにも思えた。


「そっか。なら、俺と組まないか? ルナ」

「え?」


 よほど俺の言葉に驚いたのか、ルナの無表情が崩れた。

 目を見開いて、戸惑ったように、俺を見ている。


「ちょうど探していたんだ、次の試験のパートナー」

「……ですが、貴方にはすでに相手がいるのでは?」

「うん? あぁ、詩織のことか?」


 そう聞くと、ルナは小さく頷いた。


「貴方と東雲さんはいつも一緒にいます。なのに、どうして」

「まぁ、色々と事情はあるけど、とりあえず今回は別行動なんだ」


 あんな噂が流れなければ、詩織と組んでいただろうけれど。

 たまには詩織以外の生徒と組んでみるのも悪くないと思っている。

 新しい発見とか、未知の体験とか、そういうことが出来るかも知れないし。


「でも、どうして私なんかを」

「理由か? そうだな」


 自身の思いを言語化するため、すこし思考を巡らせてみる。


「まだ試験まで日数があるのに、真面目に予習しているところを見たから、かな。きっと誠実な人なんだろうなって、そう思った。だから、誘ったんだよ」


 そう告げると、ルナはうつむいてしまった。

 恐らく、組むかどうか考えているのだろう。

 ほとんど初対面の男子生徒に誘われたんだ、そうなるのも無理はない。


「まぁ、いま直ぐに返事をくれとは言わないさ」


 こういうのは焦ってもしようがない。

 結局のところ、決めるのはルナなのだから。

 無理強いをしても、うまくはいかないだろう。

 気を長くして、返事を待つとしよう。


「……わかりました」


 しばらく時間が掛かると踏んでいたけれど。

 その予想はすぐに打ち壊された。


「このような熱烈なアプローチを受けたのは初めてです」


 熱烈?


「ですから、私は貴方の誘いを受けます」


 すこし首を傾げそうになったが、どうやら受けてくれたらしい。

 その証拠として、ルナは俺に手を伸ばす。


「よろしくお願いします。天道さん」

「司でいいぜ、よろしく」


 ルナの小さな手を取り、握手を交わす。

 こうして懸念事項だったパートナー探しは、あっさりと解決した。

 出鼻を挫かれる思いだったが、意外と幸先はいいのかも知れない。

 この調子で、試験本番もうまくいくことを願おう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ