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朝にコルが押しかけて来たその日の夕方。
高校から帰る道を歩きながら、私はため息を吐いた。
宇宙人がホームステイするとか、正直意味わからないし、断っても監視されるとかなんなの?
そんなわけで学校でも一日中気が重かった。
相談? 出来るわけない。
ただでさえ宇宙とかSFくさい無いようなのに、公安とか国が関わってくる案件に自分がまきこまれてるとか、頭おかしいって言われるのがオチでしょ。
宇宙人より国の方が身近な分なんか怖いし。
平均的な容姿とステータスだからって選ばれたけど、そこに宇宙人がホームステイするって内容が加わったら明らかに平均じゃなくなるから今から新しい平均になった人のところに移ってくれないかなぁ……。
はぁ。
と、ため息とともに玄関で笑顔を浮かべて手を振るコルの姿が脳内に再生される。
旦那を送り出す新婚の嫁さんかよ。部屋だって「アタシが住めるように夜夢ちゃんが学校行ってる間にちょっとだけ改造するけど、見た目は変わらないから許してね」とか不安な事言っていた。
一歩一歩、歩く毎に、帰路は終わりに近づいていく。
そしてその終わりはいつものように、今日は夕焼け空が切れる頃。
遠目に家が見えてきた。
遠くから見た限りじゃ見た目は変わっていない。
一歩、また一歩。
「なんだ、とりあえず大丈夫そうじゃん」
玄関前まできて、ほっと一安心。
宇宙人が改造する――言葉にすればこれだけだけど、何がどうするか分からないうえに宇宙人のセンスが地球人と一緒なんてこと無いだろうから無茶苦茶なことになっていなくて本当に良かった。
「ただいまー」
「夜夢ちゃんおかえりー」
帰宅した私を出迎えてくれたのはわくわくした表情のコルだった。
「尻尾を振って玄関で待ってるって、あんた犬? 耳も尻尾もそれっぽいし」
「犬じゃないよ!?」
「いや行動がさ、それっぽくて」
「犬っていうより狐だよ! 地球の生物なら狐が一番近いの!」
「そこなの!?」
確かに小麦色のきれいな尻尾だけど、ゴールデンレトリバーとかの尻尾って言われても私には見分けがつかないんだよなぁ……あ、でも耳は違うか。
自分の中でそう納得する。
「ところでお母さんは?」
「おじいちゃんとおばあちゃん連れてお買い物いってるよ」
「じゃあ今この家にいるのはコル一人?」
「いぇあ」
「ちょっとお母さん!?」
私は今この場にいない人間に向かって届かないツッコミをした。
防犯意識ゆるゆる過ぎない? 初対面の(宇宙)人に留守番任せるとか正気か! しかも部屋を改造するって公言してるのに。
「まあまあ夜夢ちゃん、落ち着いて」
「一応言っとくと諸悪の根源あんただからね」
「夜夢ちゃんヒデェ」
コルは私の言葉にも動じずケタケタと笑っていた。
きっと鋼の心臓持ってる人はこういう性格なんじゃないだろうか。
「それじゃあ夜夢ちゃん、二階に来てよ」
「二階……ああそう、部屋改造したのね」
「いぇあ!」
コルはいい笑顔でサムズアップ。
外観変わってないから安心してたけど、やっぱり不安だ。
変な事になってないといいんだけど。