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太陽の昇らない朝

本編後、ユリアンと結界修復の旅中。

 夢の中の彼は、いつも少しだけ若い。

 王子であり、友人であり、まだ何者にもなりきっていなかった頃の顔で、テオドールの方を振り返る。


「テオ」


 呼ばれた瞬間、胸の奥が焼けた。

 分かっている。これは夢だ。

 そう思ったのに、夢の中のテオドールは歩き出していた。


「ルキ」

「テオ」

「ルキウス……ねえ、僕」

「ほら、行こうぜ」

 

 あの日に戻れるはずもないのに。

 戻ったところで、救えるはずもないのに。


「テオ、俺達は親友だろ」


 ルキウスは笑う。何も知らない顔で。

 全部知っている顔で。


「……当たり前じゃないか。そんなの、わかってるよ」


 そうだ、分かっていたのに。

 信じていれば良かったのに。

 信じていたはずだったのに。

 

 ルキウスが伸ばした手を、テオドールが取ろうとして、ふっと消えた。

 指先に温度だけが残る。


 ——ああ、まただ。

 

 あの日壊してしまった全てが、目の前に広がる。

 崩れた城壁と、鉄の匂い。

 無くなっていく体温。閉じないまぶた。

 

 もう、昇らない太陽。


「——ルキ……っ!」


 目が覚めた瞬間、テオドールは寝台から転がり落ちた。

 硬い床に身体が叩き付けられ、喉の奥がひきつる。

 息を吸うより先に胃が反転した。


「ぅ、えっ」

 

 床に手をつき、吐いた。

 何も入っていない胃から、胃液だけがせり上がる。

 苦くて、喉が焼ける。


「……テオドール様」

 

 隣の寝台から、ユリアンの声がした。

 しばらくして、布を絞る音がする。


「水です」


 差し出された杯を、テオドールは受け取れなかった。

 指が震えている。

 仕方なく、ユリアンが床に膝をつき、杯を支えた。


「……ごめん」


 テオドールの声は掠れていた。


「大丈夫ですか」


 それは問いではなかった。確認でもなかった。

 テオドールは答えない。

 代わりに、もう一度えずいた。


 吐くものなど、もうない。

 それでも身体は、何かを外へ出そうとしていた。

 罪か。記憶か。あの声か。

 何ひとつ、出ていくはずがないのに。


 ユリアンが黙って背をさする。

 テオドールはそれを拒まなかった。

 拒むほどの力も、残っていない。


 夜明け前の宿は冷えている。

 薄い壁の向こうで、誰かの馬が小さく嘶いた。


 美しかった国はもうない。

 王宮も、魔術師塔も、あの庭も。

 

 それでも夢の中では、ルキウスが笑う。

 テオ、と。

 何度でも。何度でも。

 

「……ユリアン」

「はい」

「まだ、ルキは許してくれてないよね」


 ユリアンの手が、ほんの一瞬だけ止まった。

 それから、また背をさすった。


「はい」


 短い返事だった。

 テオドールはそれを聞いて、安堵したようにひとつ咳をする。


 朝が来る。君がどこにもいなくても。

いやあ、ほのぼのを書くとしんどいのが書きたくなりますよね


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