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吉沢あきら、と聞いた私の脳は高速回転し始めた。
私達には、そのう、吉沢君と私には、男の子が生まれ、その子が結婚したから、孫の名前が、吉沢あきらになった。
「あのう、お祖母ちゃん、ご飯は?」と台所を見渡しながら、あきらが言った。
「僕の分は、ほか弁買ってきたけど」
そうか、男の子が生まれたのか、私と吉沢君には。
その子の子供なのか、あきらは。孫なのか、彼と私の。
「ええと、お祖母ちゃんの分も買って来よか?」
「あきらか~」
「うん。のり弁でいい? ハンバーグ弁当は重いやろ。それともサケ弁?」
「あり合わせのもんで食べる」
「そんなんアカンて、栄養が偏るし。僕、何か買ってくるわ」
「いらん、いらん。それより、お父さんの写真ある?」
「あるけど」とスマホ登場。
うわ。
めっちゃ太ってる……顎ないし……
こんなに太ってしまったら、誰の子かわからへんやないの!
「うちのお父さん、お祖父ちゃんの子供やのに、うぷぷぷて笑われへんで、ぶぶぶぶになってしまうねんで」
何やて、と私は、太った平行世界の息子の横にいる、その妻を見た。
いや、その妻を見ても仕方がない。ただの普通のおばさんだ。
息子を産んだ私に責任がある。はずだ。
まっさか、吉沢君以外の男の子供を産んだなんてことはないよね。
ないないない。
けど、この世界の私と違って、敵は望みを叶えた系の女。
まさか~、ととたんに悲しくなってくる。
「ややや、お祖母ちゃん、大丈夫か?」と孫が心配してくれる。
「待っときや、お祖母ちゃん、僕、何か買ってくるから。その間に、ハンバーグ弁当、食べとき。人間、おなかがすくと、情緒不安定になるねんで」
ふえ~ん、と思いながら、孫の弁当を開ける。
孫が何か買って来るのを待っとかな、と思うのに、箸を割って、なぜか、ガツガツとむさぼるように食べている私。おなかがすいていた? だけ?
「のり弁しか残って無かった。あ、お祖母ちゃん、全部食べれたんやね、良かった」と孫が帰って来る。
「おいしかった~」と私は、うぷぷぷと笑う。
あっちの世界の私への不倫疑惑はキレイに消え去っている。
「僕もいただきま~す」とあきらは、のり弁を食べる。
あきらに、微かに吉沢君の面影が宿るのは、デブお父さんが吉沢君の子供である証拠だと思って、嬉しくなる。嬉しくて、うぷぷぷぷと笑う。
「こっちのお祖母ちゃんも、うぷぷぷぷと笑うようになって良かったわ」とあきらも、うぷぷぷぷと笑う。
すると、吉沢君の幻も現れて、一緒になって、うぷぷぷぷと笑う。
なんて幸せなシーンなんだろう。
なんて、幸せなんだろう。
いつまでもいつまでも、続いて欲しい幸せな日々。
そういう日々が積み重なったある日、あきらが言った。
「お祖母ちゃん、僕、もう一人で生活できると思う。今まで本当にありがとう」
えええええええ!!!!!
永遠に続くものなど何も無いと知ってはいたけれど。
永遠に続いて欲しいと思っていたことにも、気が付いていなかった。




