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「お祖母ちゃん、行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
「仕事終わったら、すぐに帰るからね。ご飯は、先に食べてていいよ」
「わかった」
雷落下事件のあと、避雷針うんぬんを言い合って、その後、なぜかビールを飲んだ。あては、そこらへんのもの。いわゆる、漬物とか、らっきょうとか、冷凍のタコ焼きとか、チョコレート。
うぷぷぷとビールを飲みながら、孫が笑う。
「変な笑い方」
「えええ、お祖父ちゃんの笑い方の真似やのに。お祖母ちゃんも一緒になって笑ってたで」
「信じられへん。うぷぷぷ、やて」
「ほら、できるやんか」
「こんなこと、できたかって」
「何にもならへん」と言う言葉は、飲み込んだ。
目の前に、年齢を重ねた吉沢君の幻が現れ、孫と一緒になって、うぷぷぷと笑ったからだ。
幸せそうに、目を細めて、笑っている。
吉沢君は、面白くもなさそうに、カカカカと笑う人だった。
「変な笑い方」と私が言うと、「自嘲的だろう」と言った。
ことばの意味がわからなかったので、家に帰って辞書を引いた。
それが、楽しそうに、幸せそうに、孫と一緒になって、うぷぷぷと笑っている。
良かったなあ、吉沢君。幸せに笑えるようになって。
良かったなあ、そっちの世界の私。
吉沢君と一緒に、うぷぷぷやなんて、笑えるようになって。
うぷぷぷやて。
「あれ、お祖母ちゃん、泣いてる?」
「泣いてへんわ。何で泣けるん。うぷぷぷぐらいで」
「わかってるって。お祖父ちゃんを思い出したんやね。うぷぷぷて笑いながら、よく泣いてたもんね、お祖父ちゃんが亡くなった後」
「そうなんか」
いや~、何か知らんけど、よく分かりすぎる。
うぷぷぷて笑いながら泣くって。分かりすぎる。
吉沢君が幸せになって、良かった系の世界やな。
こっちの世界では、何か不幸そうやった、吉沢君。
年上の女性に憧れて、一時はうまくいっているように見えた、吉沢君。
私は、陰ながら、吉沢君の幸せを祈った。
陰ながら……まだ、十八だったのに……
その愛する女性は、自分よりも年上の男性の所に行ってしまい、吉沢君は旅に出た。
私? 私は……
私は、クモのように、巣を張って、吉沢君が旅から帰って来るのを待っていた。
恋する女には、強力なアンテナがある。
別名、ストーカーアンテナ。
別名、巨大アリ地獄アンテナ。
なぜかわかる、吉沢君の来る方角、いる方向。
映画やドラマのすれ違いは、あり得ない、と見る度に思う。
近くにいれば、わかる、感じる、気づくはずだからだ。
「お祖母ちゃん、わかる、わかる」と孫に肩を叩かれて、ハッと我に返る。
わかる訳がない、と思う。
わかるはずがない。
マグマのように、過去から伸び続けている、細い細い道が。
途切れることなく、まだ伸び続けている、十八歳の恋心が。




