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お祖母さんと謎の孫  作者: まきの・えり


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4


「お祖母ちゃん、行ってきます」

「うん、行ってらっしゃい」

「仕事終わったら、すぐに帰るからね。ご飯は、先に食べてていいよ」

「わかった」


 雷落下事件のあと、避雷針うんぬんを言い合って、その後、なぜかビールを飲んだ。あては、そこらへんのもの。いわゆる、漬物とか、らっきょうとか、冷凍のタコ焼きとか、チョコレート。

 うぷぷぷとビールを飲みながら、孫が笑う。


「変な笑い方」

「えええ、お祖父ちゃんの笑い方の真似やのに。お祖母ちゃんも一緒になって笑ってたで」

「信じられへん。うぷぷぷ、やて」

「ほら、できるやんか」

「こんなこと、できたかって」


「何にもならへん」と言う言葉は、飲み込んだ。

 目の前に、年齢を重ねた吉沢君の幻が現れ、孫と一緒になって、うぷぷぷと笑ったからだ。

 幸せそうに、目を細めて、笑っている。


 吉沢君は、面白くもなさそうに、カカカカと笑う人だった。

「変な笑い方」と私が言うと、「自嘲的だろう」と言った。

 ことばの意味がわからなかったので、家に帰って辞書を引いた。


 それが、楽しそうに、幸せそうに、孫と一緒になって、うぷぷぷと笑っている。

 良かったなあ、吉沢君。幸せに笑えるようになって。

 良かったなあ、そっちの世界の私。

 

 吉沢君と一緒に、うぷぷぷやなんて、笑えるようになって。


 うぷぷぷやて。

「あれ、お祖母ちゃん、泣いてる?」

「泣いてへんわ。何で泣けるん。うぷぷぷぐらいで」


「わかってるって。お祖父ちゃんを思い出したんやね。うぷぷぷて笑いながら、よく泣いてたもんね、お祖父ちゃんが亡くなった後」

「そうなんか」

 いや~、何か知らんけど、よく分かりすぎる。

 うぷぷぷて笑いながら泣くって。分かりすぎる。


 吉沢君が幸せになって、良かった系の世界やな。

 こっちの世界では、何か不幸そうやった、吉沢君。

 年上の女性に憧れて、一時はうまくいっているように見えた、吉沢君。

 私は、陰ながら、吉沢君の幸せを祈った。

 陰ながら……まだ、十八だったのに……


 その愛する女性は、自分よりも年上の男性の所に行ってしまい、吉沢君は旅に出た。


 私? 私は……

 私は、クモのように、巣を張って、吉沢君が旅から帰って来るのを待っていた。

 恋する女には、強力なアンテナがある。

 別名、ストーカーアンテナ。

 別名、巨大アリ地獄アンテナ。


 なぜかわかる、吉沢君の来る方角、いる方向。

 映画やドラマのすれ違いは、あり得ない、と見る度に思う。

 近くにいれば、わかる、感じる、気づくはずだからだ。


「お祖母ちゃん、わかる、わかる」と孫に肩を叩かれて、ハッと我に返る。


 わかる訳がない、と思う。

 わかるはずがない。

 マグマのように、過去から伸び続けている、細い細い道が。


 途切れることなく、まだ伸び続けている、十八歳の恋心が。


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