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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第二節:とある山の小さな村でのこと]

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75話:ぽかぽかした夜

 ◆


 部屋へ戻る前に、おばあちゃんにおやすみなさいの挨拶をした。もう寝るのかと驚かれたけれど、シワの入った優しい笑顔でおやすみなさいを返してくれた。


 部屋に戻るとリラはまっすぐベッドへ向かい、隣に座るようにわたしを誘った。出窓からは淡い月明かりが射し込んでいて、リラの髪を艷やかに照らしていた。わたしはリラに誘われるまま隣へ座って背を向けた。

 リラがわたしの髪を少し掴んで、丁寧に梳いてくれているのがわかる。わたしはその間に当たり前のように膝の上に座っているエフェリアの髪を梳いていく。

 やっぱりエフェリアはお人形さんみたいで、ふとしたときに壊れてしまいそうで少し触れるのが怖い。お風呂からあがったばかりであるせいか、指に触れているエフェリアの身体がいつもより温かく感じる。

 エフェリアの髪は白っぽいけれど、仄かに色が付いている。それは若葉のように活き活きとした黄緑色のようにも、琥珀色をした蜜のようにも見える。見る角度によって彩りが変わるエフェリアの髪は宝石のようにキレイなんだ。月明かりに照らされたエフェリアの髪はサファイアやアメジストのように見えていた。


「エフェリアの髪はキレイだよね」

「この前伸ばすって言ってたっけ。楽しみだね」


「うん。とっても楽しみ♪ 早く伸びてほしいなぁ」


「魔法で伸ばすことってできないの?」


「できるかもしれないケド、それじゃあつまらないじゃない」

「まだかなっ、まだかなって待っているときが楽しいの!」


 その気持ちはわかるかもしれない。いつか訪れる未来に期待を寄せている時間は結構楽しい。もし花を育てることに例えるなら、種を蒔いて一瞬で咲き乱れてくれるのも嬉しいけれど、愛を込めて接した末にそのかわいらしい(かんばせ)を見せてくれた方がキレイに見える。たとえ結果が同じでも、その過程が重要だということは巨万とあるんだ。

 わたしはエフェリアの言葉に同意を示して、そのかわいらしい頬を指の背で摩すった。


「サフィ、終わったよ」


 リラがわたしを後ろから抱きしめて、頬擦りしてきた。わたしはリラが手に持っている櫛を受け取って、リラの方を向いた。


「ありがとう」

「じゃあ、今度はリラの番ね」


「うん♪ エフェリアはわたしのお膝の上においで」


 エフェリアはリラに誘われて、素直に構われに行った。わたしはふたりが談笑しているのを後ろから聞いて、微笑みながらリラの髪を梳いていた。


「エフェリアはお風呂気持ちよかった? わたしはずっと入っていたいって思っちゃった」


「えぇ、とっても♪」

「ねぇねぇサフィ? ニンゲンは毎日お風呂に入っているのン?」


「どうだろ……入っている人もいれば、入ってない人もいるよ」

「もしエフェリアが毎日お風呂に入りたいなら、毎日一緒に入ろうね」


「いいのン? 嬉しい♪」


「ふたりともズルいわ。わたしも一緒に入るんだから」


「ふふっ……もちろん一緒だよ」


 ふたりとも、お風呂を随分と気に入ってくれたみたいでよかった。ひとりで静かに入るのもいいけれど、どうせなら一緒に入った方が楽しいと思う。他にもお風呂上がりのミルクだとか、アイスだとか。ちょっぴり贅沢な楽しみも教えられたらいいなって思うんだ。


 柔らかなシングルベッドに、リラとエフェリアも一緒になって入り込む。少し狭いけれど、今までずっと一緒に寝ていたせいか、リラとエフェリアのふたりの身体がくっつく、このくらいの距離がとても落ち着く。

 お風呂上がりの身体はまだ火照(ほて)っていて、布団に身を包むと自然と眠くなってきてしまった。

 細目で出窓から僅かに見える星空を見ていると、リラがわたしの頬に手を添えて愛でるように撫でた。


「どうしたの」


「ふふっ……なんでもないわ」


 リラの咲う顔に視線を向ける。その顔はいつかふっと消えてしまいそうなくらい儚くて、リラが夜に溶けて消えてしまうかもしれないと少し心配になる。

 リラはわたしから誤魔化すように顔を背けて上を見上げた。


「温かいけれど、お月さまやお星さまが見えないのはちょっぴり残念ね」


「そうだね」

「やっぱり落ち着かない? 朝も随分と寝坊しちゃったし」


「ふふっ、リラは弱っちいものね? 怖くて眠れなかったンでしょ」


「もう、エフェリアのイジワル……そういうわけじゃないもん」

「そんなことを言ったら、エフェリアだってお眠りさんだったじゃない」


「えへ」


 エフェリアはリラの胸の上で両肘をついて足を遊ばせる。いつも一緒に寝ていたはずなのに、今はなんだかパジャマパーティーをしているみたいで楽しかった。

 今度、時間を見つけてトランプを作ってもいいかもしれないなって思ったんだ。シャナも一緒に誘って、オールドメイド(ババ抜き)をしたり、メモリー(神経衰弱)をしたりしよう。少しお行儀は悪いけれど、枕投げもしてみたい。

 みんなとはやりたいことがいっぱいある。少しずつでもいいから、全部叶えていきたいと思ったんだ。なんでもないような日々の、ちょっとだけ特別な思い出。そんな小さな幸せをリラとエフェリアと一緒に作っていきたい。


「ほら、ふたりとも。イイコにして寝ないとまた起きられなくなっちゃうよ」


 リラとエフェリアは言い合いっこをやめて、素直に布団に入り直した。リラはわたしを抱き枕にしようと寄ってきて、わたしもそれを受け入れる。

 わたしは横を向いて枕に肘をつき、リラとエフェリアが小さなかわいらしい寝息を立てるまで頭を撫でていた。ふたりとも眠りに就くまでが早くて少し羨ましく思ってしまう。

 でも、なかなか眠りに就けないことだって悪いことばかりじゃない。こうしてふたりのかわいらしい寝顔を見守りながら夢の世界へと落ちていけるのはそれなりに幸せなんだ。

 大切な家族がわたしに身を寄せて、安心しきった顔で穏やかに眠ってくれている。これ以上に幸せなことはないだろう。

 わたしもふたりの幸せそうな顔を見ていたら、だんだんと眠くなって、やがて共に温かな夢の泉へと溶けていったんだ。



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