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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第二節:とある山の小さな村でのこと]

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67話:新しい服

 ◆


 お昼が過ぎて、おばあちゃんの料理の仕込みも終わった頃。わたしたちは厨房の裏方でのんびりしていた。おばあちゃんはソファに腰を掛けて編み物をしていた。

 シャナもおばあちゃんと一緒に編み物をしている。その姿は孫とおばあちゃんのようにしか見えなかった。

 わたしたちもその隣で新しい装飾品を作っていた。同じようなネックレスのチェーンをたくさん作って、色んな形のエンドパーツを取り付ける。雫型や長方形、星型なんかも作ってみる。

 けれど、いくら形を変えたって同じことの繰り返しのようなものだ。一日中作っていれば飽きてしまう。こういったものづくりは時々やるから楽しいものなんだ。

 わたしは既に飽きを感じて、おばあちゃんの肩を揉む。

 

「ねぇ、おばあちゃん」


「どうしたんだい。労ってくれるのかい」


「ちょっと違うかな。わたしたちってなにをすればいいの?」


「なにって……なんだい? 仕事かい?」

「お嬢ちゃんはイイコだねぇ……でもそうだね……ちょいとばかし難しいかねぇ……」


 本来の意味とは違うけれど、働かざる者食うべからずって言うし、部屋を借りるだけ借りて何もしないというのは気が引ける。店の手伝いができないなら、せめて外くらいは自由に歩きたい。わたしはリラとエフェリアと一緒に色んなところを見たいんだ。


「外を自由に歩いて回りたいんだけど、たぶんあんまりよくないよね?」

「なんかこう……服とかってある?」


「服かい? 服ならまぁ……おばあちゃんのでいいならいっぱいあるよ」

「そういえばお嬢ちゃんたち、靴も履いてないね」

「靴は……町まで行かないと買えないねぇ……今度連れて行ってあげよう」


 今までまったく気にしていなかったけれど、靴の存在を忘れていた。もう裸足でもなんの違和感も感じない。慣れは怖いものだ。

 服はおばあちゃんやシャナが着ている、白いシャツに赤いスカート、黒いエプロンが一般的な服装であるなら、何着か作っておきたい。かわいいしリラにも着てほしいんだ。それに、人の生活に溶け込むためにも今ある服以外のものがほしい。


「おばあちゃんの部屋までおいで。ほら、そこのお嬢ちゃんたちもおいでな」


 おばあちゃんはリラとエフェリアに手招きをして、私室へと向かっていく。杖と床の、木と木の奏でる音痴な音楽が廊下に響く。

 おばあちゃんの部屋は一階にあるようだった。ベイクハウスは一階が店、二階が住居となっているものが多いらしいけれど、足腰の関係もあるのかもしれない。背筋は伸びているけれど杖を突いているし、あまり負担はかけられないのだろう。

 部屋に入るとあの少し懐かしいような匂いと共に、染み付いたパンの匂いが鼻をくすぐった。

 おばあちゃんがクローゼットを開くと、同じような……いや、まったく同じ服が何着も入っていた。スカートの色や柄は幾つか種類があるけれど、結局のところはどれも同じだ。リラとエフェリアは興味津々に覗き込んでいたけれど、同じものしか見つからず少し不思議がっていた。

 その服はいわば制服のようだった。この世界はオシャレに疎いか、あるいはまだ衣服に革命が起きていないかのいずれかだろう。


「まぁこの服を着ていればおばあちゃんたちの家のコだってことはわかるんじゃないかい」

「そしたら手を出すようなバカもいないだろう」

「じゃあええと……どれくらい必要かねぇ……洗濯も考えると足りないかねぇ……」


 村の中でも大きいだろうおばあちゃんの家は、やはりそれなりに有名なのだろう。身元がわかっているなら怪しむ人もいなければ、疎む人もいなくなるというワケだ。


「おばあちゃん、わたしたちは魔法が使えるから一着あれば大丈夫だよ」


 わたしはクローゼットから一式を取り出して身体に当てて、唸っているおばあちゃんに咲い掛けた。

 服からはバターや小麦の匂いと共に、田舎のおばあちゃんの懐かしいニオイがふわりと広がった。


「あら、そうなのかい? 便利なんだねぇ」

「じゃあお嬢ちゃんのと、こっちのお嬢ちゃんのと……ちいさなお嬢ちゃんのはどうしようか」

「新しく編み終わるまで待っていてくれるかい?」


「アタシ? それなら自分で作っちゃうわ?」


「あらあら……お嬢ちゃん器用なんだねぇ……ちょいと楽しみが減っちまったねぇ」


 おばあちゃんはエフェリアの服を編むのを楽しみにしていたらしい。お人形さんの服みたいになるのだろうか。わたしもそんな服を着ているエフェリアを見てみたいと思った。


「アラ、アナタが作ってくれるのン?」


「おばあちゃん、ありがとう」

「後はわたしたちで採寸するね」

 

「おばあちゃん、わたしからもありがと」


 リラはそう言うと、おばあちゃんの頬にキスをした。おばあちゃんは突然のキスに驚いて目を剥いていた。そしてリラの純粋無垢な笑顔にやられて、苦笑交じりに顔を振った。


「参ったねぇ……いやぁ参った……これは敵いそうにないねぇ……」

「ほれ、もう戻ろうか。お嬢ちゃんたちもやりたいことがあるだろう」


 わたしたちはおばあちゃんに促されて部屋を出た。リラはペタペタとかわいらしい足音を鳴らして、木製の廊下を軽やかに駆けていく。新しい服と心を踊らして、一緒になって回っていた。

 

「ふふっ、はやく行きましょうよ」


 リラとエフェリアはわたしがおばあちゃんと一緒にゆっくり歩いていることに気が付いて振り返る。置いて行かずに、一緒に行こうとするのがかわいらしい。それだけ気にかけてくれているのだと思うとなんだかむず痒いけれど、とても嬉しく感じるんだ。

 おばあちゃんもわたしたちのことを目を細めて、愛おしそうに見つめていた。


 

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