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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第二節:とある山の小さな村でのこと]

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66話:お礼をさせて

 顔を洗ってさっぱりした表情になったわたしたちは、おばあちゃんの待っている厨房までやって来た。

 

「おばあちゃんおはよ」「おはよっ♪」「おはよう」


 リラとエフェリアが元気よく挨拶をして、それにわたしも続く。おばあちゃんはわたしたちの顔を見て、嬉しそうに頷きながら挨拶を返してくれた。

 テーブルには既にパンとスープ……クロワッサンとクリームシチューが用意されていたけれど、まだ湯気が立っていた。どうやら冷めてしまう前には来ることができたらしい。

 けれど、リラはテーブルの料理には目もくれず、おばあちゃんが捏ねているパン生地の様子に魅入っていた。


「おや、どうしたんだいお嬢ちゃん。パンは食べなくていいのかい?」

 

 リラは用意されているパンとスープを見て、首を傾げた。精霊は食事を摂らなくても、魔力があれば生きていける。もちろん、食べることはできるし美味しいと感じることはできる。けれど、絶対に必要なことではないんだ。


「リラ、おいで。一緒に食べよう」


 わたしとエフェリア、シャナがテーブルに着いてリラのことを手招きする。そうすれば、リラも咲ってわたしたちの隣にやってくる。


「これ、食べても良いの?」


「そうよ。あなたたちのために用意したものだもの」

 

「人は基本的に、朝と昼と夜にご飯を食べるんだよ」

「わたしたちには必要ないかもしれないけど、美味しいでしょ?」


 リラは嬉しそうに頷く。身体を揺らしながら、美味しそうに食べるんだ。一口食べるごとに幸せそうな顔をして、脚が尻尾のように振られている。

 エフェリアは小さく切り分けられたクロワッサンと、ティーカップのソーサーに盛られたクリームシチューを食べている。それでもエフェリアにとっては多いけれど、おばあちゃんのその気遣いが嬉しく感じた。

 盛られている量が少ないから冷めやすいけれど、エフェリアにとってはそれもちょうどいい温度になっているようだった。


 リラは食べ終わるとわたしが食べている様子を目を細めて、幸せそうに眺めていた。わたしも食べ終わって、『ごちそうさま』をした。リラとエフェリアが不思議そうに見るものだから、同じようにするように促した。手を合わせて、軽くお辞儀をする。これは祈りとも似ているように見えるけれど、根本的な考え方のまったく異なるものだ。

 祈りとは即ち神に捧げ感謝するもの。人は過ちを正当化するため、目を背けるために神へ祈りを捧げる。

 けれど、これはその命そのものに対してわたしたちができるせめてもの弔いなんだ。


「ねぇねぇ? これにはなンの意味があるのン?」


「今食べたパンやスープ、わたしたちの生きる力になってくれる命に感謝をする言葉だよ」


「ステキな考え方ね」


 シャナはわたしの言葉を聞いてそう言った。確かにこの狩りや食事を神聖化せずに、ありのままの感謝を口にするのは珍しいかもしれない。

 

「そうだ、シャナ。受け取ってほしいものがあるんだ」


 わたしは身体の裡からリラとエフェリアと一緒に作った装飾品を取り出して、ふたりに手渡した。


「これ、わたしたちからの贈り物。その……シャナのためを想って作ったからさ」

「着けてくれると嬉しいな」


 わたしたちはシャナに向かって手を広げて、魔氷晶で作ったキレイな装飾品をよく見えるようにする。シャナは両手で口元を覆って元々大きくてキレイな目を更に大きく見せていた。


「それじゃあ今から着けてあげるわねっ♪」


 エフェリアがシャナの耳元へ飛んで行って、イヤリングを取り付ける。リラもそれに続いて、向かいにいるシャナの後ろに回って腕にブレスレットを着けた。わたしも同じようにシャナの首に手を回してネックレスを着ける。


 シャナは驚きで言葉を失ったまま、わたしたちの顔を見ようと後ろを振り向いたり、腕や胸元を見たりしていた。その姿がかわいくて、わたしたちは咲ってしまっていた。


「えっ……あっ……い、いいの!?」

「こんなに貴重なもの……」

「ううん……その……ありがとう」


 シャナは友だちからの贈り物を拒否するのはよくないと思ったのか、言葉を飲み込んでお礼を言ってくれた。そうしてしばらく、手を明かりに翳してキラキラと光を反射している様子に見惚れていた。


「ねぇねぇ? シャナはアタシたちからの贈り物は気に入ってくれた?」


「うん……大切にするね」


 リラとエフェリア、シャナは仲良く戯れていた。せっかくだからオシャレになった姿を見ようと、姿見を探しに駆け足で部屋に戻っていった。

 わたしはみんなについていく前に、おばあちゃんにも贈り物を渡すことにしたんだ。


「おばあちゃん」


「おや、どうしたんだいお嬢ちゃん」


「これ、おばあちゃんにも」


 わたしはシャナにも渡したネックレスと同じようなものをおばあちゃんにも手渡そうとした。

 けれど、おばあちゃんは明るく受け答えてくれるだけで受け取ってはくれなかった。手が小麦塗れのせいだろうかとも思ったけれど、そうではなかった。

 

「あらぁ……ありがとうねぇ。けど、おばあちゃんには似合いそうにないよ」

「それに、その贈り物に見合うことだってなにもしてないからねぇ……受け取るにはちょいとばかし勇気がいるね」


 おばあちゃんはなるべく明るく、わたしが傷つかないように断った。けれど、わたしだって引き下がる気はないんだ。


「じゃあ着けてくね」


「えぇ~? いやねぇお()しよ! おばあちゃん、受け取れないって!」


 おばあちゃんはそう言うものの、わたしを引き剥がすことはしない。つまり、わたしがむりやりにでも贈りつけてしまえば断れないんだ。


「ふふっ、いい感じだよ」


「あぁあ、まったくもう……困ったお嬢ちゃんだねぇ……参ったよ」

「まぁなんだい、ありがとうねぇ」

 

 おばあちゃんは苦笑しつつも、わたし()()からの贈り物を受け取ってくれた。わたしはおばあちゃんの笑顔を見届けて、シャナが照れているだろう姿を見るために二階へと上がっていったんだ。



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