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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第二節:とある山の小さな村でのこと]

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64話:それが普通の反応

 ◆


 わたしたち以外のヒトたち、シャナやおばあちゃん、女の子にお母さんお父さんはお店の方に出払ってしまっている。

 こういったなにもない時間にはなにをしていたっけかな。そんなことを思い返す。

 部屋の明かりに目を向ければ、燭台の代わりに光る魔法の石が取り付けられたカンテラのようなものが淡い光を灯していた。

 橙色の優しい光だ。太陽はすっかり沈んで大地の毛布の中へ眠りに付いたというのに、充分な明るさを保っていた。

 部屋は暖炉と(かまど)の役割を担っている煉瓦(レンガ)造りのソレのおかげで温かい。身体もパンとスープで内側から温められて、リラとエフェリアは夢の海で船を漕いでいた。


 そっか。いつもなら日が沈んだら寝ていたもんね。夜の気配も感じなければ、いつも眺めていた星も見えないから忘れてしまっていた。

 わたしはリラとエフェリアをお姫さま抱っこして、部屋へ運ぶことにした。

 あまえんぼさんになったふたりはとてもかわいい。小麦の袋よりも軽い身体を持ち上げて、ゆっくりと階段を上がっていく。こうしてお姫さま抱っこをするのは初めてかもしれない。


 ふわふわにしたベッドに優しく降ろして、魔力で編んだ布団を掛ける。わたしも寝てしまおうかと思ったけれど、なんとなくシャナたちと話すことがありそうだと思って部屋を出たんだ。


 そうして、厨房の裏手に戻って、みんなの仕事が落ち着くまでしばらく暇をしていた。

 お店の方からは色んなヒトの笑い声が聞こえてくる。小さな村ではあるものの、お客さんは多そうだった。パンだけでなく、食堂や宿としても経営している。結構大変そうだなぁ。と思う。そうでもしなければやはり稼ぎだとかが充分にならないのだろうか。()へも出かけているようだし、生きるのって大変なんだ。そんなことを拙いながらも感じていた。


 ◆


 夜降(よぐだ)ちの空はラピスラズリの絵の具のように細かな光を見せていた。

 お店から戻ってきたみんなはこれからご飯を食べるのだろう、テーブルにパンとスープを運んでいた。女の子はもう眠っているのか、姿は見えなかった。

 まぁ、子供は寝る時間だよね。と、思いながらも、全くすれ違わなかったことを少し残念に思う。


「お仕事、お疲れさま」


「あら、まだ起きていたの? 寝ていてもよかったのに。どうぞ座って」


 シャナが椅子を引いてくれたから、わたしはお礼を言って素直に座った。わたしもパンとスープを食べるか訊いてきてくれたけれど、もう食べたことを伝えて断った。

 シャナとおばあちゃんは特に驚かなかったけれど、お母さんとお父さんと思しき人はわたしを見て目を剥いていた。


「この仔がさっき伝えた精霊の仔のお友だちよ。他の仔はもう寝ちゃった?」

 

「うん。今まで日が沈むときには寝てたからね」

「お母さんとお父さん……ですよね。よろしくお願いします」


 少し他人行儀な挨拶をすると、ふたりもしどろもどろに挨拶を返してくれた。おばあちゃんはそれを見て、情けないと笑っていた。

 でもまぁ、ふたりの反応が普通なんだろうとは思うんだ。

 

「シャナちゃんもだけど、本当にもう月のようなコなのねぇ……ねぇあなた?」


「あ、あぁ、うん。そうだな」


「はっはっはっ、なんだいあんた、お嬢ちゃんに惚れちまったのかい?」


「おいおい、よしてくれよ、母さん。そんなんじゃないって」

 

 お父さんは咳き込んで気まずそうにそっぽを向いた。それにはシャナやおばあちゃん、お母さんも笑っていた。


 ◆


 みんなが食事を終えた後、リビングに移ってわたしたちは談笑していた。

 

「それにしても突然のことで驚いてるよ。どんなことがあってここに来たのか、訊いてもいいかい」


「シャナちゃんにはおばあちゃんが小さい頃からずっとお世話になってるって聞いてたけど、今までは何を言っても村には住んでくれなかったものね。いったいシャナちゃんにはどんな心変わりがあったの?」


 お父さん、お母さんはわたしたちに興味津々だった。おばあちゃんもこのことについては聞いてみたいらしい。シャナは恥ずかしがりながらも、わたしたちの出会いをポツポツと話していった。


 先日の激しい雨の日に出遭ったこと。

 オオカミの背に乗って、風のように駆けて村まできたこと。

 人の住む所で一緒に生きたいというわたしたちの願いに応えて、シャナも一緒に過ごすことにしたこと。

 そしておばあちゃんを頼ろうと思ったら、流れでそのまま住むことになったこと。


 そう思うと、中々に濃い日々を過ごしているようにも思う。

 お母さんお父さんには無断で決めてしまったことは悪いと思いつつ、おばあちゃんには感謝してもしきれない。わたしたちだけではどうやって家を立てたり、暮らしていったりすればいいのかわからなかった。


 みんなはわたしたちの計画性のなさに驚いてばかりだ。わたしもそう思う。こればかりは反省しないといけない。

「女の子だけで」とか「雨の中移動を」とか。危機感が足りていないのはその通りなのかもしれない。でもまぁどうしようもないじゃない? わたしたちには頼れるヒトなんていないワケなのだし。

 道行く先に親切なヒトがいることを信じて取り敢えず行動に移すしかない。それでこうして、おばあちゃんたちの元へやってこられたのだから問題ないよ。うん。

 大丈夫。わかってるって。リラやエフェリアの安全の為にも次からは気を付ける。


 ◆

 

 そうして話し込んでいるうちに、夜はすっかり更けてしまってみんなも眠たげな顔をしている。


「さ、もうおばあちゃんたちも寝るとしようか。明日も仕事はあるからね。身体に響いちまうよ」


 おばあちゃんが思い立ったように立ち上がり手を叩いた。みんなもそれに賛同して、おやすみの挨拶をして各々の部屋へと帰っていった。

 シャナとわたしも二階へ上がり自分たちの部屋へ戻ろうと、真鍮製の取手に手を掛けた。


「ねぇ、サフィ」

「その、ね。ありがとう」

「うん。それだけ。それじゃあ、おやすみなさい」


 わたしは微笑み返した。

 

「うん。おやすみ、シャナ」




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