62話:感謝の気持ちを込めて
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勢いでおばあちゃんたちの家に住むことが決定してしまった昼下がり、ミルクやバターの香る厨房でお手伝いをしているシャナは思い出したように顔をあげた。
「――あぁ、そう! おばあちゃん、お母さんとお父さんはどこ?」
「住まわせてもらうなら挨拶しないと」
リラやエフェリア、わたしはパンが焼き上がる様子を見守っていた首を仲良くおばあちゃんの方に向けた。おばあちゃんは椅子に腰を掛けて優雅にお茶を嗜んでいた。
「今日はちょうど町まで買い出しに行ってるよ」
「スープの具材やら、小麦やらね。あとは保存の利くバゲットを中心に、パンも売りにね」
「馬車を出すのも、荷物を運ぶのもおばあちゃんたちには酷だからねぇ……申し訳ないけど頑張ってもらってるよ」
「まぁ、夕方には帰ってくるよ。お嬢ちゃんたちもそれまでゆっくりしておきなさいな」
シワの入った硬い手でカップを傾ける。その姿が様になっていて、なんとなく憧れてしまう。時間があるというなら、シャナへの贈り物を作ってしまおうか……時間があればおばあちゃんたちへのお礼の贈り物も作りたいと思った。
「じゃあちょっとやることがあるから、わたしたちは部屋に戻ってるね」
わたしはリラとエフェリアに目配せして、贈り物を作ることを伝えた。
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わたしたちは部屋に戻ってベッドに腰を下ろすと、心を踊らせながら会議を開いた。作るものは耳飾りに首飾り、腕飾りと決めたけれど、まだどんな形にするかは決まっていない。
「あんまり目立たない方が良さそうだよね」
「でもでも、見えなかったらオシャレする意味なんてないンじゃなあい?」
「せっかく作っても、身に着けて貰えなかったらちょっぴり哀しいよね」
悩んでいても良い答えは出そうになく、取り敢えず手を動かすことにした。わたしが作ることになった首飾り……ネックレスは大人っぽい雰囲気の方がいいだろうと思っている。魔力の糸で括って、小さな宝石のような魔氷晶を付ければいい感じに仕上がるかもしれない。それくらいの大きさの魔氷晶なら、家宝として一般的な家庭でもひとつは持っていることだってあるだろう。
そうなると気軽に身につけることはできないかもしれないけれど、それはまた別の問題だ。
糸にも極小の粒を通して華やかにしたいところだけれど、それだと見た目が悪いし華美過ぎる。チェーンのように反射を増やせる構造がいいとは思うものの、少し難しい。
そういえば魔氷晶と魔力の糸って構造的には同じ物だよね。同素体っていうものなのかな。
そんな関係のないことを考えている。
そして、そんなことを考えているうちに手の中ではネックレスが完成していた。きめ細やかな反射をするチェーンの先に、一粒の真珠のような魔氷晶をあしらったものだ。菱形にアレンジしたり、ハート型にアレンジしたりしてもいいかもしれない。
それをシャナとおばあちゃんのふたつ分作った。お母さんお父さんと、女の子には……まだ早いかもしれないし今は作らなくてもいいかな。そう思った。
リラは腕飾り……ブレスレットを作っている。魔力で編んだ糸に極小の魔氷晶を通していって、ひとつだけひと回り大きいものをあしらっていた。リラは作るのが早い。糸を通すのさえ難しそうな小さな穴に難なく通していっている。自分の腕に試着してみて、出来栄えを見ていた。
エフェリアはわたしの耳を勝手に使って耳飾りを作っていた。耳たぶを触られる感触が少しくすぐったい。
「エフェリアどう? いいのはできた?」
「うーん、もうちょっと。サフィは動かないで?」
わたしは苦笑して、エフェリアの姿は見えないけれどその方向へと目を向けていた。リラはエフェリアの耳飾りを見てかわいいと褒めていた。自分だけ見ることができないのは少しもどかしい。
魔力感知に頼れば視られることを思い出して、少し使ってみた。
エフェリアが作っていたのはイヤリングタイプの耳飾りだった。真珠のように丸くした花芯に、星形の花びらをあしらっている。山で見かけた、エーデルワイスに似た花だった。
「うーん、ちょっぴり目立っちゃうかしら」
「やっぱりまぁるいのだけの方がいい?」
「ふたつとも作っちゃえばいいんじゃない?」
「でもでも、そしたらひとつは付けてもらえないじゃない? それは寂しいわ?」
「サフィはどっちの方が好き?」
「わたしは……耳飾りなら小さい方が好きかな。重くないし、痛くならないから」
「じゃあじゃあ、リラはどっち?」
「わたしはお花の方がかわいくて好きかな? もう少し小さくするか、別のお花にしてみたらどうかしら」
エフェリアは大げさに腕を組むようにして悩んで見せると、平たくした金平糖のような花のイヤリングを作った。簡単にしたさっきの花かな。エフェリアの中には譲れない花の形があったらしい。誇らしげに手を腰に当てて、満足そうに頷いている。
そうやって贈り物を作っている間に日はすっかり落ちて来ていて、夜の帳が降りかかっていた。それでもまだ琥珀色の光が部屋の中を仄かに照らしていて、窓の外のグラデーションがキレイに見えた。村の大通りにも仕事から帰ってきたのか、人の影がちらついている。時間が過ぎていくのにも気が付かないほど、つい夢中になって作ってしまう楽しい時間だった。
「そろそろ夕飯の時間かな」
窓の外を眺めながら、そんなことを呟いていた。精霊になってからというもの、食事と言えるものはそう摂っていない。なにせ泉の水を朝に一杯飲むだけで充分に活動できてしまうから。それはそれでとてもありがたいのだけれど、美味しい料理を口にしたいという欲は消えていなかったようだ。
生命活動の上では必須のものではないけれど、精神的な幸福を得るためにも食事というものは捨てがたい。リラやエフェリアもお昼に食べたパンとスープは気に入っていたみたいだし、これからは美味しいものも食べさせてあげたいなと思ったんだ。




