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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第三節:とある湖の小さな町でのこと]

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108話:湖光煌めく星見の丘で

 ◆


 お母さんと受付嬢さんのお話を聞いていたら、いつの間にか展望台に辿り着いてしまっていた。ふたりのお話はもう少し聞いていたかったから残念だけれど、また聞ける機会もあるだろうと思うことにした。


「お話していたらあっという間だったわね。みんな、疲れてない?」


 お転婆娘のわたしたちは、口々に全然疲れていないことを元気よく伝えた。みんな、今にも走り出して展望台の探検に出ていってしまいそうな勢いだ。

 けれど、憧れの大人のお姉さんである受付嬢さんが一声かければみんなおとなしい子ガモに早変わりする。初めてのものに目を奪われて辺りを見渡すけれど、受付嬢さんの近くから離れていってしまうなんてことはなかった。


 観光の人かどうかはわからないけれど、展望台にはそれなりに人がいた。湖の町を観望できる人気の場所なのだろう。


「ねぇサフィ、みんな、とっても楽しそう」


 リラが展望台のデッキから町を眺めている人たちを見て、自分のことのように咲っている。わたしたちも他の人たちと同じようにデッキへと足を運んだ。

 その先には丘の上のお店で見たときよりもさらにキレイな絶景が広がっていた。より高い位置から町を見下ろすことで、その町並みは視界に収まってしまいそうだった。それでも広大な湖は収まりきらないようで、どこまでも続いているように見えている。その先に薄っすらと見える対岸には、もうひとつの町が見えたんだ。


「みんなちっちゃくなっちゃったわ? アリさんよりもちっぽけね」


 エフェリアはデッキに乗り出して柵の上に座っていた。シャナはエリアーヌを抱き上げて、よく見えるようにしてあげていた。お姉ちゃんみたいだ。


「それにしても、こんなに高いところまで歩いてきてたんだね。町もこんなに大きかったんだ」


「近くで見ているとわからないことや気がつけないこともあるわよね。私も初めて来たときはそんなことを思ったものよ」


 独り言のように呟いたつもりだったのだけれど、受付嬢さんが答えてくれた。いっぱい歩いたけれど、高台にいるせいか穏やかな風が吹いていて気持ちが良かった。眼下に広がるお花の香りも運んできてくれているようで、とっても心が落ち着く。


「イドニア、このお花畑のお花はなんて言うお花なの?」


「ナルシスのお花よ。このお花は春の雪って呼ばれていてね。今がちょうど開花時期なのよ。みんないい時期に来てくれたわね」


 ナルシス――たしか、水仙のことだ。それらが一面を覆い尽くすほどのお花畑になっていた。この時期は見どころのお花が多いのか、たくさんのお花を見て楽しむことができている気がする。


「ナルシスのお花畑には入れないけれど、近くにアストランティアってお名前のお花のお花畑があったはずよ。そっちはもっと近くで見られるから、行ってみる?」


 受付嬢さんはウィンクをしてちょっぴりかっこよくポーズをとってみせていた。彼女も幸せな雰囲気に当てられたのか、少し気分が上がっているようだった。

 みんなは餌を求める雛鳥のように受付嬢さんに群がって、連れて行くように催促した。


 展望台の脇にあるそのお花畑は、白色や淡桃色の小さなお花が咲いているかわいらしいお花畑だった。わたしはクローバーのお花に似ていると感じた。けれど、よく見るとひとつのお花にさらに小さなお花が幾つも集まって咲いている、不思議なお花だったんだ。

 近くでしゃがみこんでまじまじと観察していたら、受付嬢さんが声を掛けてくれた。


「なにか見つけた?」


「ううん。ただ見てただけだよ。不思議なお花だなって思って」


「そうなの。サフィちゃんはエミーと気が合いそうね。そういうお話、したことなぁい?」


「そう思うと、あんまり話したことなかったかも。お母さんお父さんとも仲良くなりたいし、今度話してみるよ。ありがとう」


「どういたしまして。それじゃあこのお花のこともお姉さんが教えてあげましょうか」


 受付嬢さんはそう言ってイタズラに咲うと、わたしの頬をつついた。

 すぐ近くのベンチに腰掛けて、お花を見るのに夢中になっているみんなを呼ぶ。受付嬢さんを真ん中に、みんなで取り囲むようにして座ると彼女のお花の授業が始まった。


「お花のお名前はさっきも教えた通り、アストランティアよ。お星さまみたいだからそういうお名前が付いたんだって。花言葉も星に願いをっていうのがあるのよ」


「ロマンチックなお花なのね」


 受付嬢さんはここの展望台が星見の丘と呼ばれている由来も、このお花が咲いていたからだと言う。

 シャナはエリアーヌを膝の上に乗せて、受付嬢さんのお話に耳を傾けていた。それを見たリラが真似をしようとわたしの膝の上に乗ってこようとするものだから、窘めるのが大変だった。

 誰も見ていないところなら良いけれど、外で身を寄せすぎるのは少しばかり恥ずかしい。それに、女の子なんだからスカートの中が見えてしまわないように少しくらいは気を使ってほしいとも思ってしまった。

 あからさまに残念がるリラを見ていると、いたたまれなってしまって、腕に密着されることで許してもらった。リラの頭が肩に預けられて体温が腕に伝わってくるんだ。それを見ていたエフェリアも一緒になってくっついてくる。かわいい妹たちだ。


「みんな仲良しさんね。羨ましいわ」


 なんて、受付嬢さんが零すと、それ聞いたリラとエリアーヌがイタズラな笑顔を浮かべて受付嬢さんのくっつき虫さんになりに行った。


「イドニアとも仲良しさんよ♪」


「あたしも仲良し~♪」


「あら、いいのぉ? ふたりとも離してあげないわよ」


 受付嬢さんもイタズラな笑顔を浮かべると、くっつき虫さんになったリラとエリアーヌをくすぐった。笑い声を堪えきれずに黄色い声を漏らしている三人を見ていたら、同じように微笑ましく見守っていたシャナと目が合った。そしたらなんだかおかしく思えてきてしまって、くすぐったくないのにわたしたちも咲ってしまっていたんだ。

 そんなわたしたちを見て、エフェリアも楽しそうに咲っていた。幸せな気持ちは伝染するように、星見の丘には笑顔が溢れていた。

 温かくて、くすぐったくて、どうしようもなく笑顔になってしまう。いつの間にかみんなで受付嬢さんにくっついて、くっつき虫さんになっていた。ベンチは広いのに一箇所へ集まって、ミツバチみたいにお団子になっている。みんなイドニアというお名前のキレイなお花の蜜を求めているようで、いつまで経っても離れようとしなかったんだ。

 だから、受付嬢さんは笑い疲れて一息ついたあと、みんなで身を寄せ合ったまま休憩をすることにした。

 熱を持った身体に穏やかな風が当たって、頭を撫でていく。

 めいっぱい息を吸い込むと、澄んだ空気にお花の匂いが混ざっていて心を落ち着かせることができた。

 たまにはちょっぴり子供っぽく騒いでしまうのも悪くないかな。そんなことを思ったんだ。


 

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