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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第三節:とある湖の小さな町でのこと]

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109話:幌馬車の揺れに身を寄せて

 ◆


 わたしたちは星の花が咲く展望台の前で、気が済むまで休憩をすることにした。なんでもないような時間であっても、どこか楽しさを感じていた。おしゃべりをするわけでもなく、そよ風に吹かれながら過ぎていく人や景色を眺めている。みんなゆっくりと歩いていて、この時間が終わってしまうのを名残り惜しく感じているようにも見えた。

 蹄が地を踏み締める音が多くなり始めて、それが夢の終わりを告げているようでもどかしいとさえ思ってしまう。わたしは今日という日が終わってしまうのを寂しく感じているのだと気が付いて、ワザとらしく鼻で笑ってみせた。

 でも、そう考えてしまうくらいとっても楽しい時間だったんだ。

 リラやエフェリアに感じてほしかった幸せを、余すことなくやりきった日であったように思う。オシャレをして、お友だちとお出かけをして、一緒にお昼を食べたり遊んだりする――こんな毎日を過ごしていたい。こんな毎日を過ごしていてほしい。人生の余分とも言える、なんの功績にもならないような時間の数々。たとえそれに意味がなかったとしても、その余分があるほど心は豊かになれる。

 ちょっとしたことで嬉しくなれて、ちょっとしたことで哀しくなってしまうことだってあるかもしれない。

 でも、灰色のつまらないキャンバスなんかよりはずっといい。こどものようにめちゃくちゃな色遣いで、好きなように彩ってほしい。わたし以外の誰かと幸せを分け合って、とびっきりの笑顔でいてほしいんだ。わたしだけでは教えてあげられない幸せを、シャナやエリアーヌ、受付嬢さんたちが教えてくれた。そのことがとっても嬉しかった。

 

「――ここの展望台はね、夜が一番キレイなのよ。お星さまが湖に映ってお空も、湖もぜんぶキラキラになっちゃうの。星見の丘にぴったりでしょ」


「そうなんだ。見てみたいな」


 そうは言っても、ギルドに帰らないとお母さんお父さんが心配してしまうし、なにより夜道は危険がいっぱいだ。この町では安全かもしれないけれど、女の子だけで歩き回るなんてことはしない方がいい。

 受付嬢さんはそんな気持ちを感じ取ってくれたのか、わたしの前に小指をさし出した。


「それじゃあサフィちゃん、お約束しましょ。さっきは私がみんなの村へ遊びに行くお約束をしたから、今度はサフィちゃんたちがまた、この町に遊びへ来るお約束」


 そのときはみんなで夜空を見よう。そう言って、わたしたちは指を交わしたんだ。受付嬢さんはシャナやエリアーヌにも同じように約束をしていた。みんなが約束をしているのを羨ましく思ったのか、リラとエフェリアも受付嬢さんに約束をせがんでいた。

 

 これはある一種の契約なんだ。為された約束は必ず果たさなければいけない。結ばれた縁が切れてしまわないように、わたしたちは糸を結んだんだ。そんな気がした――。


 ◆


 お出かけの帰りは町が運営している幌馬車(ほろばしゃ)に乗って帰ることにした。

 日は既に山の後ろに隠れてしまっていて、ギルドに着く頃には夕方になっていることだろう。

 お転婆で元気がありあまるみんなもさすがに疲れていたのか、馬車の揺れが心地よくいつの間にか眠りに就いていた。

 シャナとエリアーヌは肩を寄せ合って、気持ちよさそうにしている。わたしの肩にはリラが頭を預けて舟を漕いでいた。安心して眠れるように身体を支えて膝の上に寝かせてあげると、少し咲った気がした。楽しい夢を見ているのかもしれない。

 わたしはリラの頬に掛かった髪を耳に掛けてあげると、魔氷晶のイヤリングが光を反射した。そういえばわたしの耳にも着けてもらったんだった。と、わたしは自分の耳を触ってみる。お揃いであることを確かめたらなんとなく嬉しさが溢れてきて、リラのその温かくて柔らかい頬を撫でた。少し赤みがかった……健康的な頬というのだろうか。思わず食べてしまいたくなるような、かわいらしい頬なんだ。

 エフェリアも同じようにわたしの膝の上で眠っている。

 大きなあくびをして、目を擦ると甘えるようにわたしにすり寄ってきてくれた。わたしのことを信頼してくれている証拠だろうし、なにより甘えてきてくれたのが嬉しかった。

 エフェリアはなんとなくお姉さんでいようと張り切ってしまっているような気がするから、わたしの前では甘えていてほしいと思ったんだ。

 エフェリアが落ちてしまわないように身体に腕を添えると、エフェリアはそれを抱き枕にする。エフェリアの息が掛かって少しくすぐったかったけれど、なんとか我慢していた。

 そしたらわたしの横に座っている受付嬢さんが少し身体を寄せてきた。

 

「みんな寝ちゃったわね。サフィちゃんは寝なくて大丈夫?」


「うん。わたしは大丈夫だよ。みんなお眠りさんだ」


 わたしははにかんで、かわいい妹たちにどこからともなく取り出した毛布を掛けてあげた。

 受付嬢さんには彼女の分の毛布と、シャナとエリアーヌの分の毛布を渡して掛けてもらった。眠り姫を膝に乗せているわたしは動けないからね。

 

「……イドニア、今日はありがとう」


「あら、急にどうしたの? 私もとっても楽しかったからいいのよ」


「昨日の今日会ったばかりなのに、なんだか変な感じ。ずっと前から友だちだったみたい」


「そうね。そう思ってくれたのなら、私も張り切った甲斐があるわ」


「ギルドに戻って、明日になったらお別れなのが寂しいね」


「本当にね。エミーも、サフィちゃんたちも町に引っ越して来てよ。そしたらいつでも会えるのに……」


「イドニアが引っ越して来てくれても良いんだよ。お母さんやおばあちゃんならきっとお店で働かせてくれるよ」


「それもいいわねぇ……ちょっぴり悩んじゃうじゃない」

 

 みんなを起こしてしまわないように、静かに咲いあった。

 わたしたちはなんとなく、本質からズレた会話を続けている。表面上は敬意を示し合う、お世辞のような会話だ。

 

 沈黙が訪れて、緊張が走る。受付嬢さんは何かを迷っている。そんな気がしていた。

 わたしから話を振れば話してくれるのだろうか。それとも、そっとしておいてあげた方が良いのだろうか。わたしは心を決めることができないでいた。


「ねぇ、サフィちゃん」

 

「なぁに?」


「ちょっとだけ、ぎゅってしてもいいかしら」


 わたしはひとつ息を吸って「うん」とだけ答えた。それで受付嬢さんが少しでも楽になれるなら、わたしはそうされるべきだと思ったんだ。身を寄せられると柔らかく、温かな布の感触を背に感じられた。母が赤子を抱くように優しい手付きで、お腹に手を回される。

 ふと、バラの優雅な香りが鼻をくすぐる。

 わたしの膝の上にはリラとエフェリアが穏やかな寝息を立てて眠っている。むやみに身体を動かすわけにもいかず、受付嬢さん……いや、イドニアを抱き返してあげられないのがもどかしかった。わたしは気持ちだけでも寄り添おうと、お腹へと回された手に片手を被せた。あやすように撫でれば、女の子特有の柔らかな感触が伝わってくる。

 

 少しでもイドニアの不安が紛れてくれればいいなって思ったんだ。



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