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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第三節:とある湖の小さな町でのこと]

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106話:赤い花の咲く丘で

 ◆


 しっかりお金を払って店員さんにお礼を言った後、わたしたちは展望台を目指して通りを歩いていた。道端には住宅街の出窓にも飾られていた小さな赤いお花が咲き乱れていて、視界を彩っている。

 この寒さが落ち着いて暖かさが全身を包んでくれる季節は、花たちもかわいらしくお化粧をしてお出かけを楽しみたいらしい。彼女たちはみんな身体を揺らして風と踊っていたんだ。

 お昼を食べて元気いっぱいになったエフェリアやエリアーヌも一緒になって踊っていた。わたしたちと両手を繋いで、腕を掲げて宙に浮く。その度に黄色い声を出して、どのお花にも負けないくらい眩しい笑顔を咲かせていた。

 受付嬢さんはお転婆娘たちの無邪気さを見守るように一歩後ろから咲っていた。この一本道では迷ってしまう心配はないから、みんなの姿がよく見える後ろの方が好きなのだろう。

 わたしも、先を行くより後ろからみんなの姿を見ている方が好きだから、なんとなくわかるんだ。

 誰かが楽しんでいる姿を見ると、自分もその輪に入って一緒に咲っている気持ちになれる。


 でも、それは一種の線引でもあるんだ。自分はあの輪の中に入れない。一緒になれないという諦めがある。わたしたちはみんなお転婆娘で、エリアーヌ以外は妖精や精霊といった人に似て非なる存在だ。受付嬢さんはそんな、太陽のように眩しくて月のように手が届きそうにないわたしたちとの間に壁を作っているように感じたんだ。

 わたしは後ろを歩く受付嬢さんに一瞥を投げかけた。どこか諦めたような哀しい笑顔に見えたのは、気のせいじゃないのかもしれない。


 大人になってしまった自分が無邪気に咲うのははしたないと思っているのだろうか。わたしは受付嬢さんがそんな笑顔を見せたのならば、きっと恋をしてしまうに違いないと思った。

 大人の魅力をまとう彼女が子どものように花を咲かせる。それのどこが魅力的じゃないと言うのだろうか。

 

 石畳の道に靴の音が疎らに響く。ひんやりとした無機質な音は陽射しの中へ溶けるように吸われていく。わたしはみんなと繋いでいる手を離して後ろに振り向くと受付嬢さんに手を伸ばした。


「イドニア、一緒に歩こうよ」


 受付嬢さんは一瞬固まって、その大きな目を見開いた。その後すぐ誤魔化すように咲って遠慮したけれど、わたしはむりやり手を取って中に引き入れた。

 受付嬢さんはバランスを崩して慌てたように地を蹴って踏み鳴らすと、わたしの身体を掴んで自分の身体を支えていた。

 いつも美人で澄ましたお顔をしている受付嬢さんが慌てる様子はなんだかおかしく感じてしまって、わたしはちょっぴりイジワルをしたくなったんだ。

 少し先を行くリラやシャナ、エリアーヌを呼んで、受付嬢さんを取り囲む。前も、後ろもみんなして受付嬢さんのくっつき虫になって、身動きが取れないようにした。


「ちょっと! これじゃあ歩けないじゃないの」


 受付嬢さんはちょっぴり怒ったように声を荒げてみせたけれど、全然怖くないんだ。むしろどこか嬉しそうに、諦めたような笑顔でわたしたちお転婆娘のイタズラを窘めていた。

 人通りが少ない丘の道で、贅沢に横に広がってゆっくりと足を踏み出す。わたしはいつもなら他の誰かの邪魔にならないよう隅っこへ寄る(たち)だけれど、たまには自分を優先することがあっても良いのかな。なんてことを思った。

 受付嬢さんを真ん中に、そのキレイな手を奪い合うように身体を寄せながら歩いていた。


「あら、イドニアったら人気者ね? ママみたい」


「もぉ……エフェリアちゃん、助けてよぉ」


 エフェリアは受付嬢さんの肩に座って、からかうように頬をつついていた。受付嬢さんも「助けて」なんて言うけれど、身体を左右に揺らして楽しそうにしていたんだ。

 やっぱり、みんなと一緒の輪に入れるならその方が良いに決まっている。みんなの楽しそうな姿が映る思い出もいいけれど、その記憶にみんなの笑顔は映っていないんだ。どこか遠くて、小さくて、ぼやけてしまっている。思い出そうにも思い出せなくて、いつしか楽しかった記憶は消えてしまう。

 なら。

 その腕を引っ張って、一緒に咲ってしまおう。隣で咲っていた大好きなみんなの笑顔を忘れてしまうなんてことはないはずだから。


 受付嬢さんは出会ったばかりの知らない人だったかもしれないけれど、そんな記憶は遠い昔のことのようで、ずっと、ずっと前からお友だちだったような気がしてくる。

 それくらい、とっても楽しくて充実した時間を過ごしていたんだ。今日という日もまだまだ終わりじゃなくって、楽しくて忘れられないようなキラキラした思い出を作れるだろう。

 そう考えただけでも嬉しくなってきてしまって、自然と笑顔になってしまう。


 受付嬢さんからは丘に咲き乱れる花々よりもいい匂いがした。優しくて温かい、大人なお花の匂い。たしか、バラだって言っていたっけ。受付嬢さんがお花になるのなら、きっと真っ赤な立派なバラのお花だろうと思った。

 ふとそんなことを考えて受付嬢さんのお顔を見ていたら目が合った。わたしは恥ずかしさを紛らわせるために視線を逸らした先にあった花々を見て、話を振ってみる。


「ねぇ、イドニア。道端に咲いているお花はなんて名前なの?」


「今の時期なら、赤いお花はゼラニウムっていうお花じゃないかしら。町のお家にもいっぱい飾られているお花と同じでしょう? 私もギルドで育ててるわよ。桃色のお花はツツジね。青色のお花はリンドウで、白色や黄色のお花はキンポウゲだったかしら。他の小さなお花は……クロッカスとかかしら? ごめんなさい、わたしもあまり詳しくないの」


「そう? 充分に詳しく聞こえるけど」


「これでもギルドの受付嬢だからね。基本的なことは頭に入れておかないといけないもの。でも、ひとつひとつのお名前まではまだまだ憶えきれていないのよ。ベルナだとか、モンタナだとか……プリムラのお花とか有名なのはわかるんだけどね」


「名前を知らなかったらただのお花で、キレイの一言で終わっちゃうけど、ひとつ知るごとになんだか楽しくなるよね」


「そうね。サフィちゃんはお花好き?」

 

「好きな方だと思うよ。花言葉とかに夢中になってた」


 お花には人々に色々な意味が込められて、その美しさからも贈り物として贈られることが多い。その多くが前向きな明るいもので、言葉にしにくい感謝の気持ちを伝えられるのがありがたい。本当は言葉にするべきなのだろう。それでも、恥ずかしさを感じてしまうのは人々の(さが)だと思う。

 そして時として目に見えない言葉よりその言葉が形を持って世界を彩るお花の方が、気持ちが伝わることもある。そんなことを思ったんだ。

 

「良いわよね。花言葉。私もエミーからよく教えてもらっていたわ」


「お母さんから?」


 受付嬢さんがお母さんの名前を口にしたことで、話に耳を傾けていたエリアーヌが首を傾げていた。受付嬢さんが言うには、お母さんがお父さんのお嫁さんに行く前は町で有名なお花屋さんの娘さんだったらしい。

 町一番の美人さんで、お花よりもお母さんという高嶺の花を目当てにくる人も多かったのだとか。

 エリアーヌはふとしたことでお母さんのお話を聞けて興奮しているようだった。大好きなお母さんの、小さい頃のお話は誰だって聞いてみたいものだ。いつか自分もステキで優しいお母さんとなるためにもどんな人生を歩んできたのか気にならない女の子はいないだろう――。

 


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