104-2話:丘の上のお店
「――ラクレットをご注文のお客さま」
話が一区切りついたとき、ちょうど店員さんが料理を運んできてくれた。一度にすべての料理を運ぶのは困難だったのか、サービスカートに乗せられていた。それがまた特別な雰囲気を醸し出していて、非日常的な体験にわたしたちは気分が上がっていた。
少し狭いテーブルに全員分のラクレットが並べられ、熱されて少し焦げ目のついた、半分に切られたチーズのホールからとろとろのチーズのお布団を掛けられた。
色とりどりの野菜にベーコンやお芋のようなもの、目玉焼きとトーストといった料理は瞬く間に熱々のチーズの海に溺れていって、何も見えなくなってしまった。けれど、そのチーズの濃厚な香りが食欲を唆るように料理の魅力は増しているように感じる。
食材をそのまま食べて自然の味を味わうのもいいけれど、たまには調味料をたっぷりと使って旨味を最大限引き出した料理を食べるのも悪くない。
「わぁ~♪」
お皿から溢れてしまいそうなほどたっぷりと掛けられるチーズに、わたしたちは思わず声を上げていた。そんなわたしたちを見て、店員さんも嬉しそうにしていた。そしてこのチーズの量は明らかにサービスだろうことが窺えた。美味しそうに食べてくれるお客さんには、店員さんも喜んでほしいと思ったのかもしれない。
適量を知っている受付嬢さんは、慌てるように店員さんを止めようとしていたけれど、笑って流されてしまっていた。
「良いんですよ。お嬢さん方、良い日を」
なんて、店員さんは手を振って去っていった。受付嬢さんは呆れたように肩を落としてみせるものの、イタズラな子を見守るお母さんのように困った笑顔をしていた。
「困った店員さんね。サービスしてもらっちゃったから、私たちも美味しく食べてあげないとね」
わたしたちはみんなで簡単なお祈りを捧げてからナイフとフォークを手にとって、待ちに待っていたチーズにありついた。
切り分けた料理の上にたっぷりと掛かったとろとろのチーズはどこまでも伸びる。口に運ぶとそのチーズが口の中いっぱいに広がって、幸せが溢れ出したんだ。みんなも口を閉じたまま黄色い声を出していた。その美味しさを共有するのも忘れて、おしゃべりをすることなく黙々と食べてしまいそうだった。
エフェリアにも食べやすいように、小さく切った料理をお皿の隅に寄せておいてあげた。人が使う食器ではどうしてもエフェリアにとって食べやすい大きさにすることは難しい。
そこで、わたしはエフェリア用のナイフとフォークを作ってあげていたんだ。単純な構造の食器は魔氷晶で簡単に再現することができた。
エフェリアも手を汚さずに美味しい料理を食べることができていて嬉しそうにしている。
「ふふっ、これでアタシもサフィたちと同じね。アタシ、同じものを使ってお料理が食べられて嬉しいわ」
「作者冥利に尽きるってやつだね。足りないものがあったら教えてね。すぐに作ってあげるから」
「うん♪」
エフェリアが嬉しそうにしていた理由はわたしが思っていたことと少し違ったものだった。
身体の大きさが違うエフェリアは、みんなと同じことを楽しめないことが多い。だから、わたしが作った食器を使うことで、みんなと同じ食べ方をできるのが嬉しいようだった。わたしもそんなふうに喜んでくれているエフェリアがいてくれて、とても嬉しいんだ。
これからも大好きなみんなと一緒にたくさんの同じ思い出を作っていきたい。そう思った。
エフェリアも自分だけのお皿に料理を取り分けて、わたしの隣で一緒に食べた。小さなお口いっぱいに料理を詰め込んで頬を膨らませていて、リスさんみたいだと思った。
それくらいに料理が美味しいのだろう。そんなエフェリアの食べっぷりを見ていると、どんな料理もいつもよりずっと美味しく感じてしまいそうだ。
料理は店員さんがたっぷりとサービスをしてくれたから、最後まで熱々のチーズを味わうことができた。むしろ、チーズが余ってしまってチーズだけを食べる羽目にもなっていた。それはそれで美味しかったけれど、胃もたれしてしまいそうだとも思ったんだ。
けれど、わたしたち妖精や精霊にそういった概念はないらしく、ぺろりと平らげることができてしまった。便利な身体だ。
エリアーヌと受付嬢さんの方を見てみると、ふたりとも胃もたれすることはないようだった。チーズは濃厚な味ではあったけれど、油っこさも、しつこさもないチーズだったのが幸いしたのかもしれない。
みんな熱々の料理を食べて、身体がぽかぽかと温まってきていた。
店員さんが片付けをしやすいようにキレイになったお皿をひとつにまとめて、またお話をしながら料理の余韻を楽しんでいた。
「みんなお料理を食べるのに夢中で、おしゃべりすることも忘れちゃってたわね。シャナちゃんが美味しそうに食べているお顔、かわいかったわよ」
「ちょ、ちょっと! からかわないでよ……」
シャナはお顔を真っ赤にして、両手で頬を押さえた。少し俯いて恥ずかしそうに髪を揺らしている姿もかわいかったのだけれど、それを口にすることはやめにした。受付嬢さんも少しイタズラな笑顔になって、満足そうに咲っているエリアーヌの頬をつつきながら咲っていた。
「エリアーヌちゃんはどう? 美味しかった?」
「うん! とっても! あたしのお店でも作ってみたいわ。帰ったらおばあちゃんに頼んでみるの」
「いいわね。おばあちゃんの料理は美味しいものね。かわいいエリアーヌちゃんのためなら、きっと張り切って作ってくれるわよ」
「お店の料理もとっても美味しいけど、身近なヒトが作ってくれた料理ってどこか特別な味がするよね」
わたしはそんな言葉を漏らしていた。
みんなも頷いて、特別好きな料理のお話をしてくれた。
おばあちゃんの作ってくれたスープや、お母さんの作ってくれたパイ、お父さんの作ってくれたお肉、お友だちと一緒に作ったシチュー……そんな、お母さんお父さんやおばあちゃんの料理、大好きなあの子が一生懸命作ってくれた料理は特別な味がする。誰かのことを想って、言葉に表せないいっぱいの気持ちを込めて作った料理……きっと、それらには魔法が掛かっているのだろう。その魔法の名前は愛なのかもしれない。
なんてことを思った。




