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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第三節:とある湖の小さな町でのこと]

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104-1話:丘の上のお店

 最後の階段を登っていると、風が料理の美味しい匂いを運んできて鼻をくすぐった。チーズや脂の香ばしい匂いがわたしたちのお腹の虫を誘って逃がそうとしない。

 通りに出るとお店のテラスにはガーデンパラソルの開かれている席が幾つも設けられていた。お客さんの数は決して多いとは言えないけれど、それがまたお店に神秘的な雰囲気を纏わせていた。ちょっぴり遠くまで来たからこそ味わえる、秘密の場所のように感じられるのも、受付嬢さんがこのお店をオススメしている理由のひとつなのかもしれない。

 お店の中の、拘りを感じられるレイアウトに心を落ち着かせてゆっくりと料理を楽しむのも良いけれど、外の席で風を感じながら飛び込んでくる広大な景色を独り占めするのも捨てがたい。

 一度味わってしまったら何度も足を運びたくなってしまうような、オシャレなお店だと思った。


 街と湖を一望できる少し大きめの席を探していると、丘の上に飛び出て建てられてる場所はバルコニーのようになっていて、一面が席として使えるようになっていた。景色を楽しむのには持ってこいだけれど、みんなの顔を見ることができないし、人数が多いとお話をしにくいのが難点だった。

 受付嬢さんもそう思ったのか、ガーデンパラソルのついたテラス席へ座ることになった。リラやシャナ、エリアーヌに受付嬢さん、そしてわたし。エフェリアはわたしと同じ席に着くからいいとしても、五人で囲うには少し狭く感じてしまった。けれど、その方がみんなとの距離が近くて嬉しい気もする。実際にみんなは楽しそうにして、肩を寄せて一緒にメニューを見ていた。


 メニューにはどれも美味しそうな料理の絵が描かれていて、見ているだけでお腹が空いてきてしまいそうだった。

 受付嬢さんが教えてくれた、チーズのホールの表面を焼いて溶けて焦げたチーズをお料理に掛けて食べるラクレットという料理もしっかりと載っていた。

 どれも美味しそうなものだから決めてしまうのがもったいなく感じて、いつまでもメニューを眺めていたんだ。

 

「ほんと、迷っちゃうわよね。みんなはどれを食べるか決まったかしら」


 みんなはワザと迷うように唸ってから、「ラクレット」と口々にした。わたしたちは受付嬢さんの話を聞いたときから、口の中はラクレットのことしか考えられなくなっていた。


「あら、みんな同じで良いの? 好きなのを頼んで良いのよ?」


「ううん。わたし、イドニアが教えてくれたラクレットがいいの。それに、みんなで同じものを食べた方がきっと幸せだもの」


「そうそう! せっかく教えてくれたンだから、食べないと損じゃない! もう待ち切れないンだから!」


 リラやエフェリアがそう言うと他のみんなも頷いた。わたしもそう思う。色々なものを頼んで分け合いっこをする幸せもあるけれど、みんなで同じものを食べる幸せというのもあるはずだ。

 リラが受付嬢さんに微笑むと、受付嬢さんは毒気を抜かれたようになっていた。受付嬢さんも少し遅れて微笑み返すと、店員さんを呼んで五人前のラクレットを頼んでくれた。


「エフェリアはわたしのを一緒に食べようね」


「うん♪ アタシ、ニンゲンのお料理って色んなお味がして好きよ。食べるのって、とっても幸せで楽しいのね」


「もう、エフェリアったらすっかり食いしん坊さんだね……食べすぎたら太っちゃうかもしれないよ?」


「なによ! サフィったらヒドいわ? 女の子にそんなこと言っちゃいけないンだから! それに、アタシは太らないからいいもーん。むしろいっぱい食べたら、サフィやリラみたいに大きくなれないかしら♪」


「そうだったら嬉しいね。でも、やっぱり食べ過ぎは身体に悪いから、おなかいっぱいになるちょっと前くらいにしておいた方がいいよ」


「でもでも、そしたらいつまで経ってもサフィに追いつけやしないわ? みんなアタシよりもたくさん食べられちゃうンだから、もっともっと大きくなっちゃうじゃない」


「あたしもいっぱい食べて大きくなるよ〜!」


 エフェリアの言葉を聞いて張り合ったのはエリアーヌだった。エリアーヌはまだまだ成長期だ。これからステキな女の子になるに違いない。いっぱい食べて、いっぱい寝て、すくすくと大きく育ってほしいと思う。シャナや受付嬢さんもそう思っているのか、エリアーヌのことを微笑ましく見守っていた。


 料理が運ばれてくるのを待っている間、この町のステキな所やお昼を食べた後に行ってみたい場所の話をしていた。

 湖の上を渡る舟や、湖の小島に建っている小さなお城のお話――他にもお散歩にぴったりなお花が咲き乱れる丘やその先にある展望台のお話をしてもらった。

 どれもステキに聞こえる場所ばかりで、決められそうになかったんだ。

 町のことを知り尽くしているだろう受付嬢さんのお話はどれもワクワクするものばかりだった。お母さんが夜、眠れない子に絵本を読み聞かせるように色々なお話をしてくれていた。受付嬢さんの職業柄、魅力をより伝えられる話し方が身についているのか、わたしたちは心を奪われていた。

 目を閉じれば眼の前にその風景が浮かんでくるようで、どんなにステキな場所なのか期待が膨れ上がっていた。実際にお話してくれた場所はどこもその期待を裏切らないようなとってもステキな場所なのだろうと思ってしまう。

 

 そんな風にどこもステキな場所に違いないから、どこへお出かけするべきか余計に迷ってしまった。時間が許すならすべての場所へ行ってみたい。けれど、本来の目的は食材の購入でいつまでも滞在しているというわけにもいかない。

 事実、明日の朝には出立しないとその日の内に村へ帰ることができなくなってしまう。


「リラとエフェリアはどこに行ってみたいとかってある?」


「うーん、どこも楽しそうで選べないわ……」


「ねー? アタシだって選べないわ? そもそも、そういうサフィはどこに行ってみたいのよ?」


 エフェリアに聞き返されてしまって、同じように頭を悩ませる。シャナも、エリアーヌも選べないようだった、こういうときは提案してくれた受付嬢さんに決めてもらうのが一番だ。きっと、一番ステキな思い出を作れる場所に連れて行ってくれるという信頼があった。


「イドニアはどこがオススメ? わたしたち、決められそうにないの」


「そうねぇ……いっぱい歩くのも疲れちゃうでしょうから、展望台に行ってみる? ここから近いのよ。村のお花畑もステキでしょうけど、この町のお花畑だって負けてないんだから」


 なんてことを言って、受付嬢さんは腰に手を当てて誇らしげにすると、ワザとらしく張り合ってきた。そう言われてしまったら、わたしたちも見ないわけにはいかないような気がしてくる。

 そしてみんなして受付嬢さんと同じポーズをして、胸を張ってみたんだ。ちょっぴり怒ったようなお顔をしてみたり、強そうなお顔をしてみたりする。

 そしたら段々とおかしく思えてきてしまって、誰かがふっと息を漏らした。それを皮切りに段々と漏れる息が増えていって、やがてかわいらしい花を咲かせたんだ。

 お腹を押さえて、口元を隠す。目尻に小さな宝石を生み出して煌めかせていた。

 

 そんなところに車輪を転がすような音が聞こえてきて、いい匂いが漂ってきたんだ。


「ラクレットをご注文のお客さま――」




 

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