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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第三節:とある湖の小さな町でのこと]

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103話:アーデルハイト

 ◆


 大通りを通って行くと遠回りになってしまうと言って、ちょっぴり狭い裏路地のような階段を登っていた。後ろを振り向くと、既に結構な高さまでやって来ていたようで、眼下には朱い屋根の町並みと湖を一望できた。

 それでもまだまだ登って行けるようで、足腰を鍛えられていない人には少しキツイかもしれないと思った。幸い、まだ幼いエリアーヌはお転婆で元気の有り余る田舎娘だ。シャナも山々を守る妖精だし、わたしたちもお転婆さなら負けていない。

 みんな息を上げることもなくキレイな景色に息を呑んでいた。


 受付嬢さんもわたしたちのことを思ってか、景色の開けた場所で何度も休憩を取りながら丘を登ってくれていた。今もベンチに座って、風を受けて髪を靡かせながら町の景色を観望している。


「キレイ――」


 リラは感嘆を漏らして、靡く髪を耳に掛けていた。その光に透けるホワイトブルーの髪はシルクのように艷やかで美しい町並みの景色よりも、そっちに目が奪われてしまいそうだった。

 でも、そんなリラにも負けないくらい、観望できる景色もキレイだった。太陽の光を反射して白いお花畑のように煌めく湖光は言葉に表せないほどにキレイだった。近くでは決して堪能できないような神秘のお花畑だ。


「いい眺めでしょう。あまり人も通らない、秘密の場所よ」


「本当だね。イドニアはよく来るの?」


「よくは来られてないわね。でも、時間があれば何度でも来たくなっちゃうわ。気分転換に軽いお昼を持って来てもいいし、お金に余裕があるならお店のお料理も食べられるし――ギルドがここにあれば良かったのに。なんて思ったこともあるわ」


 でも、それだと毎日の通勤がツラくなりそう。なんて、受付嬢さんはおかしそうに咲った。


「この町のことは気に入ってくれた?」


「うん。とっても」


 受付嬢さんがわたしたちの隣に座って、顔を覗くように前屈みになった。受付嬢さんの燃えるような髪も一面の青色の前では良く映える。わたしたちは町並みを目に焼き付けるように、空腹も忘れてしばらく眺めていた。

 まだ町に来たばかりだけれど、すれ違う人たちの笑顔や澄み渡る空気を吸っているだけでも町の魅力は充分過ぎる程に伝わっている。それに受付嬢さんとも出会えて、こうして町をお散歩しているのはなんだか夢のようにさえ思えてきてしまった。


「そういえばサフィちゃんやシャナちゃんたちもエリアーヌちゃんと同じ村から来たのよね。村にはどんなステキなところがあるの?」


「そうだよ。あたしの村にはね、お花畑があるんだよ。そこでね、お姉ちゃんたちといっぱい遊んだの!」


 始めに口を開いたのはエリアーヌだった。受付嬢さんに自分たちの住んでいるところもこの町に負けないくらいステキな場所であることを伝えたいという気持ちが溢れていた。エリアーヌは大げさに手を広げて、そのお花畑の大きさを一生懸命に伝えようとする。

 

「それでね、とっても大きくて優しいオオカミさんがいるの! シャナお姉ちゃんの大切な家族なんだよ」


 エリアーヌはその小さな手を再び広げる。けれど、少女であるエリアーヌにとってオオカミはみんな大きい。彼女の本来の大きさは見てみない限り伝えられないだろう。


「うん。コルンムーメっていう仔よ。灰色のふわふわの毛をしていてね、撫でるととっても気持ちがいいのよ。よく背中に乗せてもらって、山を駆けて遊んでいたわ」


「背中に乗れちゃうくらい大きいコなのね? いいなぁ……! 私も乗せてもらえるかしら」


「ふふっ、イドニアなら私も歓迎よ。村に来たときには一緒に乗せてもらいましょ」


 約束よ。と、シャナはイドニアと指を交わした。そして、遊びに来るときはあたしのお店の宿に泊まっていって、美味しいパンを食べていくことも忘れないでね。と、エリアーヌは付け加えていた。シャナも精一杯おもてなししないとね。と、意気込んでいた。


 喧騒から切り離され、風の穏やかな歌だけが耳に届く。こんな場所でピクニックをしても楽しそうだなって思ったんだ。そしたら忘れていたお昼のことを思い出してしまって、途端に昨日食べたチーズの味が恋しくなった。

 そろそろ休憩も終わりかな、と考えていたら、隣から元気なお腹の虫の鳴き声が聞こえてきた。エリアーヌのものだ。

 エリアーヌはお腹を押さえて、お顔を真っ赤にしていた。大きな目を少し下に向けて、口を(つぐ)んでいた。


「ふふっ、もうすっかりお昼だものね。みんな休憩はもういいかしら? お店までもう少しだから、頑張りましょ。お腹をすかせた後のお昼は格別なんだから」


 受付嬢さんは恥ずかしがっているエリアーヌの頬を撫でて励ましていた。みんなもエリアーヌのお腹の訴えを聞いて、すっかりお昼の気分になっていた。

 本来、妖精や精霊であるわたしたちに食事なんてものは必要ないものだけれど、シャナも、リラやエフェリア、それにわたしもみんなとの食事が楽しみになっていた。食べたものは魔力に変換されるから、無駄になるわけではない。

 娯楽の域は出ていないけれど、それがないと物寂しい。わたしたちの中で食事は既に日常を過ごす上で欠かせないものになっていたんだ。

 


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