90-4話:湖の乙女たち
※エフェリアの目線のお話です。
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お星さまみたいに眩しい湖畔の木陰で、アタシたちはのんびりしていた。アタシたちはみんな仲良しで愛しい隣人だから、お名前を教えることにしたの。ちびっこな女の子のお名前を聞いたら、ヘンテコな答えが返ってきた。
「うん? アナタのお名前はエリアーヌなのン? エリーなのン?」
「えっと……どっちも……?」
「好きな方で呼んでいいのよ。でも、お友だちはみんなエリーって呼んでくれるよ」
エリアーヌ? エリー? は余計にヘンテコなことを言うものだから、アタシ、ワケがわかンなくなっちゃった。そしたらシャナが教えてくれたの。
「人は私たちと違って、仲良しであるほどお名前を短くするのよ」
「その方が呼びやすくてかわいらしいでしょう?」
「それでね、私たち妖精や精霊は仲良しさんしかお名前を呼んじゃいけないのよ」
「だから、お名前をちゃんと呼んであげることが仲良しの証拠になるの」
アタシに人の感覚を教えてくれた後、ちびっこな女の子にアタシたち妖精や精霊の感覚を教えてあげていた。それでアタシもわかったの。
ちびっこな女の子も、妖精や精霊のお名前を呼んじゃいけない理由はお友だちじゃないのにお名前を呼ばれるのがイヤだからだってわかったみたいね。
「ニンゲンってそんな風に考えるのね? じゃあじゃあ、アタシはアナタのこと、エリーって呼んだほうがいいのかしら?」
「あなたたちがお友だちを呼ぶときの呼び方でいいよ。エリアーヌって呼んでくれるなら、すぐにあなたたちだってわかるもの」
「そう? じゃあ決まりね♪」
「よろしくね、エリアーヌ!」
エリアーヌはお花にも負けないくらいかわいらしいお顔で咲うものだから、とって食べたくなっちゃうわ? エリアーヌはサフィやリラたちよりもちびっこだから、アタシが守ってあげないとね?
でも、その役目はシャナの役目かしら。
アタシはまず、サフィとリラをしっかり見守っていなくちゃイケないから。
愛しい隣人が増えて、その喜びを踊って伝えていたら、エリアーヌはみんなのお顔を見て訊いたの。
「みんなのお名前にはどんな意味があるの?」
「あたしのお名前にはね、『太陽の光』だとか『輝かしい』って意味があるんだって」
「ステキなお名前ね♪ アナタにぴったりだわ?」
「ねぇねぇサフィ? アタシのお名前はどんな意味があるのン? 教えて教えて!」
アタシはアタシのお名前にもどんなステキな意味があるのか知りたくって、サフィのお手々を取って思わず跳ねていた。
「エフェリアの名前は春に咲く小さな花々を思って付けた名前だよ」
「小さい花みたいにかわいいけど、力強いエフェリアにぴったりだと思って付けたんだけど……気に入ってくれた?」
「えへへ……えぇ、とっても!」
やっぱり、サフィはとってもステキなお名前をアタシにくれたのね。アタシ、アタシのお名前がもっと好きになっちゃった。
「じゃあじゃあ、サフィとリラのお名前はどういう意味なのン? 教えて教えて!」
「あたしもお姉ちゃんたちのお名前の意味、知りたいなー」
サフィはなにやら恥ずかしがっているみたいで、そっぽを向いてどうしようか考えているみたい。リラも自分のお名前の意味を知りたくてうずうずしているのかしら、サフィのことを愛おしそうに見守っていたわ。
「わたしの名前は青色って意味だよ」
「これは後付だけど……宝石のようにキレイとか、そういう意味があればいいなって思うよ」
「リラの名前はライラックっていうお花のように美しく生きてほしいと思って付けた名前だよ」
「サフィお姉ちゃん、ライラックってどんなお花なの?」
「春を告げる白い花だよ。花言葉は愛の芽生えとか、純潔だったかな……桃色や紫色の花もあるんだよ」
「形は……ほら、こんな感じ」
サフィはそう言うと、掌の上にライラックって言うお花を創り上げたの。ライラックは木のお花だったのね。枝からたくさんの蕾が開いて、小さな白いお花をいっぱい付けていた。四枚の花びらを持ったお星さまみたいなお花で、とてもキレイだった。
「じゃあこの花は本当のお友だちになってくれた証として、エリアーヌにあげるね」
「いいの? サフィお姉ちゃんありがと!」
「良かったわね。ところでサフィ、これはなにでできているの?」
シャナがおそるおそるサフィに訊いた。サフィは悪気がなさそうに「魔氷晶だよ」なんて答えるものだから、シャナは頭を抱えていたわ。サフィってやっぱりヘンテコなのね? それで「みんなにもあげるね」って言って、サフィはライラックのお花の髪飾りを作ってくれたの。みんなでお揃いの髪飾りが増えて、嬉しかったわ。みんなで見せ合いっこをして、さっきまでは呆れてたシャナも楽しそうに咲ってた。
サフィがアタシの頭にライラックの髪飾りを付けてくれているとき、サフィはアタシの髪を撫でながら梳くように愛でてくれた。その感触がちょっぴりくすぐったくって、クセになっちゃいそうだったの。
「エフェリアの髪、結構伸びてきたね。もう殆どわたしたちとお揃いだね」
「えへへ、そうよ。頑張って伸ばしたンだから! 髪に魔力を流すとね、早く伸びるの」
アタシの自慢のふわふわの髪は、前までは肩くらいまでしかなかったケド、今は腰くらいまで伸びてきた。
「エフェリア、お人形さんみたいね」
エリアーヌがアタシのことをそんな風に言う。お人形さんみたいにとってもキレイなんだって。そう言われるとちょっぴり恥ずかしくって、お顔が赤くなっちゃいそう。
でも待って? アタシ、ひとつ気になることがあるの。
「ねぇねぇエリアーヌ? どうしてアタシだけお姉ちゃんじゃないのン?」
そう、どうしてかしら。エリアーヌはアタシだけに「お姉ちゃん」って付けてくれないの。アタシとは同じだって思ってくれてるのかしら。そうだったら嬉しいなって思ったの。
ケド、エリアーヌの答えは違ったの。
「えっ……なんか……エフェリアはお姉ちゃんって感じがしないもの。小さいし」
「小さいし……って、なによ! それ!」
「アタシだってお姉ちゃんだもん!」
もう、失礼しちゃうわ? アタシだって立派なお姉さんなんだから、お姉ちゃんって呼んでくれてもいいじゃない。アタシはエリアーヌのほっぺたを揉んで異を唱えたの。
みんなはそんなアタシたちを見て咲っているものだから、アタシも力が抜けちゃったわ?
なんだかちょっぴり納得がいかないケド、みんなが咲ってるならそれでもいいかなって思ったの。
アタシもたくさん遊んで疲れちゃったから、サフィの肩に座って休むことにしたの。頭の上に乗るのも好きだケド、やっぱり肩に座る方が好きかな。大好きなサフィの髪の匂いがするし、同じ目線で景色を見られるもの。もちろん、リラやシャナの肩に座るのも大好きよ。
◆
みんなは休憩を終わって、そろそろギルドって言うお家へ帰ることにしたみたい。みんなで手を繋いで、浅瀬だから溺れちゃうことはないケド、湖の上を並んで歩いて行く。
もうすっかり太陽はお山の向こう側に隠れちゃって、湖のキラキラはなくなっちゃった。お空はまだ少し黄色っぽいような青色で、夕方になるにはもう少しかかりそう。
風が吹く度にサフィの髪が揺れて、大好きな優しい匂いが運ばれてくる。ここにはお花や森、パンの匂いが何もしなくって、サフィやリラ、シャナの匂いだけがするの。
湖の匂いはサフィの匂いにちょっぴり似ているけれど、サフィの匂いの方がずっとずっと好きよ。リラの匂いはサフィと殆ど同じ。シャナからは色々なお花の匂いがするわ。エリアーヌは……パンの匂いね。とっても美味しそう。
アタシはみんなの大好きな匂いに包まれながら、今日の楽しい記憶を思い出していた。水を掛け合ったり、追いかけっこをしたり……いつもしていることと変わりないことだったかもしれないケド、とても楽しかった。
それがどうしてなのかはよくわからないケド、みんながいるから楽しかったンだって。そのことだけはわかるの。
今日は湖で遊んだから、今度は町で遊んでみたいな。町には何があるのかしら。
サフィがまた、ヘンテコにならないといいンだけど。リラだって、迷子になって泣いちゃうかもしれないわ?
だから、やっぱりアタシが見守っていてあげないとね? そんなことを考えながら、アタシは大好きなサフィの温もりを感じて、もう既に明日が楽しみで咲っていたの。




