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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第三節:とある湖の小さな町でのこと]

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90-5話:湖の乙女たち

※サフィの目線のお話です。

 ◆


 空と湖が夕焼けに染まっていく帰路、ギルドの宿へ戻る前に、湖の畔で身嗜みを整えた。濡れてしまった服を乾かしたり、汚れを落としたり。他には忘れ物がないか辺りを見渡して、ピクニックバスケットの中身も確認する。

 そうして忘れ物がないことを確認し終えたら、みんなで手を繋ぎながら帰った。もちろん、エフェリアには姿が見えないように魔力の波長を変えてもらうのを忘れずにね。


 ギルドに着くと、お昼前に受付をしてくれた大人な受付嬢さんがまだ仕事をしていたようで、お出迎えをしてくれた。確か、イドニアさんだ。


「あら、お嬢ちゃんたちおかえりなさい。初めての町は楽しかった?」


「うん! お姉ちゃんたちと湖で遊んだの!」


 エリアーヌが満面の笑みで答えた。子供だから体力が有り余っているのか、あれだけ遊んだのに眠くなってもいないようだった。彼女はわたしがプレゼントしたライラックの造花を受付嬢さんに見せびらかした。


「このお花ね、お姉ちゃんがくれたの。いいでしょ」


「えぇ、とってもキレイなお花ね。なんて言うお花なの?」


「えっと……りらりっく……?」


 エリアーヌはリラの名前と混ざってしまったようだった。わたしはその花がリラの名前の由来であることを強く覚えてくれていたことを嬉しく思った。なかなか思い出せないようだったから、花の名前はライラックだと教えてあげた。


「ライラックって言うのね……あら、そのお花、ガラスなの?」

「それならいつまでもお部屋に飾れそうね」


「受付のお姉ちゃんもほしい?」


「えっ? そうね……もらってもいいなら嬉しいけれど……いいの?」


 受付嬢さんは目を泳がせた後、申し訳なさそうにエリアーヌを見た。エリアーヌも貰い物であることを気にしたのか、わたしのことを上目遣いになって見つめる。


 わたしはどこからともなくエリアーヌにあげたライラックと同じものを取り出すと、受付嬢さんに渡した。髪飾りでもよかったけど、あれはみんなでお揃いの仲良しの証でもあるからなんとなくイヤだったんだ。


「受付に飾ったらキレイだろうから、せっかくなら飾ってください」


「まぁ、いいの? ありがとう」


 他のお客さんは少ないようだったから、受付嬢さんと今日の出来事を話していた。わたしたちが楽しく湖で遊んでいたことを知ると、受付嬢さんも町で楽しんでくれていたことが嬉しかったのかとても幸せそうな顔をしていた。

 話が一段落すると受付嬢さんは仕事中であることを思い出して名残惜しそうにしながらもお別れを告げた。わたしたちも取った宿を確認しに部屋へ向かうことにしたんだ。


 真鍮製の雰囲気のある()()()鍵を回し、部屋の扉を開ける。

 部屋は話の通りダブルベッドだ。リラとエフェリア、シャナと一緒に寝られるくらい充分な広さがあった。お風呂については期待していなかったけれど、意外なことにシャワールームがあった。これも魔法や魔法石の存在のおかげだろうと感心した。

 見た目はホテルの一室と変わらないようでこんな部屋に泊まってしまっても良いのだろうかとさえ考えてしまう。ギルドの顔である施設だから王室にも負けないくらい気合いを入れているのだろうか。というか田舎町のギルドがこれほどの清潔感があるなら、王室はどれほど豪華になるのだろうと気になってしまった。

 

「じゃあ、今日はもうお母さんお父さんたちが帰ってくるまで部屋でゆっくりしてようか」

 

 寝るときは別室のエリアーヌも、今は一緒に過ごすことにした。けれど、みんなはまだ初めての町に興味が尽きないようでギルドの建物を探検することにしたようだった。意外なことにシャナも探検に乗り気で、そわそわしていたのがかわいらしかった。

 わたしもリラに一緒に行こうと手を引かれたけれど、先にやっておきたいことがあるから断ってしまった。エフェリアは疲れたから部屋で寝ることにしたようだった。ひとり贅沢にふわふわの枕の上でまるくなっている。


 部屋の前でリラとシャナ、エリアーヌのことを見送って、わたしは部屋に戻った。

 わたしが部屋でやりたいことは、つまるところ物品の模倣だ。少しばかり法律とかなにかに抵触しそうなことだけれど、個人で楽しむ範囲ならなんとやらというやつだよ。

 まず模倣したいのは生活必需品の数々だ。ふわふわな枕やベッド、いわゆるアンティーク調の家具も取り込んでおきたい。部屋にあるものは取り敢えず取り込んで、魔氷晶で作り出せるようにしておきたいんだ。

 わたしはなんとなく、初めて自分の賜った能力を発揮しているような気がした。やっぱりスライムといえば模倣(コピー)だよね! でも商標権とかそういう面から見ればやっぱり気が引ける。まぁ盗んで売るわけでもないしいいかな。なんてことを考えて作業に取り掛かった。

 ものを取り込んで、同時に魔氷晶で模倣したものを作り上げる。それが済んだらあったものは元の場所へしっかり戻す。

 魔氷晶で模倣できるのは形と色だけなので、サイドテーブルなんかは倍くらいの重さになってしまっている。

 枕はしっかり糸や綿といった繊維から構築する想像ができるから本物にも負けない仕上がりになっている。木の繊維構造を理解すれば再現できるのだろうか? なんてことを考えたけれど、面倒だったからやめにした。別にそこまで再現したいワケでもないからね。


 そんなこんなで、わたしは部屋にあるものを模倣していった。その中でもやっぱり、ガラス製品は模倣しやすかった。むしろ魔氷晶で作ったほうが絶妙な光の屈折で雰囲気があるようにさえ感じている。花瓶なんかもいい感じだ。ガラスとは違って少し青みががって、妙に高級感のあるものに仕上がっている。

 そして硬い。鈍器にしたら大変なことになりそうだと思った。

 

 家具の模倣を終えた後、わたしはトランプを作ることにした。お泊り会といったらやっぱりトランプだからね。丁度いい機会だから、早めに作っておきたい。今のわたしにとっては魔氷晶に幾何学的な模様を刻むことなんてお茶の子さいさいなんだ。

 わたしはわたしの手先の器用さを誇りに思いつつ、ジャックやクイーン、キング、そしてジョーカーの絵も描いた。あまり精巧なものは描けなかったけれど、かわいい絵が描けたと思っている。ちょっぴりデフォルメ調の王さまたちだ。


 わたしがひとりで盛り上がっていると、気持ちよさそうに眠っているエフェリアのことを思い出して少し冷静になった。彼女の様子が気になってベッドに様子を見に行くと、まだ気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。

 騒がしくして起こしてしまうなんてことがなくてよかった。

 わたしはエフェリアの横でベッドに腰掛けて、静かにものづくりに励むことにした。

 作りたいものがたくさんあったことを思い出したのだ。娯楽品だとか、楽器だとか。アクセサリーも作っておきたい。今までもリラとエフェリアと一緒に作ることはあったけれど、たまにはひとりで黙々と作るのも悪くないなって思ったんだ。

 時間を気にせず没頭し、いつの間にか日が暮れている――そういうひとりの時間も、あっていいのかもしれない。




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