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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第三節:とある湖の小さな町でのこと]

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89話:湖畔のピクニック

 ◆

 

「ん~っ!」


 エフェリアがわたしの頭の上に乗って伸びをしている。どうやらずっとピクニックバスケットの中に押し込まれていてご立腹らしい。


 今は湖で遊ぶ前のお昼を食べている。市場で買食いもしてみたかったけれど、今日はお母さんお父さんが持たせてくれたお昼があるし、人目は避けたいという理由もある。

 わたしはルビーのように赤く輝いているジャムをたっぷりと塗ったパンを口の中に放り込んだ。果肉の残った、ラズベリーのジャムだ。口の中にしつこすぎない甘みと酸味が広がって、頬が蕩け落ちそうになってしまう。

 こんなに美味しいお昼を風に吹かれながら煌めく湖を眺めて、大好きなみんなと一緒に食べる。これ以上に幸せな食事の時間はないだろうと感じていた。


 エフェリアを片方の膝の上に乗せて、小さく千切ったパンとデザートのリンゴを盛ってあるお皿をもう片方の膝の上に乗せた。


「エフェリア、そろそろ許してほしいな」


「アラ、なにを許してほしいのかしら?」


「えっと……エフェリアを仲間外れにしちゃったこと」


「仕方ないわね? じゃあ、今度からはサフィのお服の中に隠れるから。くすぐったくてもやめてあげないンだから」


 エフェリアはわたしのことを困らせようと、少しイジワルなことを言う。けれど、そんな風にかわいらしいイタズラをしようとするエフェリアが愛しくって、許してしまいそうになる。


「大人しくできるならそれでもいいよ。でも、バレないように気をつけてよね」


「サフィ、それならエフェリアに視えなくなるように魔力の波長を変えてもらえばいいじゃない」


 シャナにそう言われたけれど、よくわからなくて首を傾げた。どういう意味か少し考えていたら、思い出したことがあった。

 かくれんぼをしていたときのことだ。エフェリアは姿を消して、魔力感知でしか捉えられないようになれる。そんなことを思い出した。


「あ、確かに。そんなことできたよね」

「エフェリア、次からはそうしてもらってもいい?」


「アラ、バレちゃった? もう、シャナったらイジワルね」

「せっかくサフィにイタズラしようと思ってたのに」


「なぁに? エフェリア、覚えていたのにそんなことをしようとしてたの?」

「それだったら、今までもバスケットの中に隠れなくても良かったじゃん」


「えへ♪ だってちょっぴり楽しかったンだもん♪」

 

 エフェリアはワザとらしく舌を出して、あざとくウィンクをした。いったいどこで覚えてきたのか。わたしは呆れつつも、エフェリアのかわいいイタズラを許すことにした。エフェリアはいつも健気に振舞っているように見えるけれど、本当はとっても寂しがりな涙脆い仔だと思っている。

 わたしはエフェリアの頬を指で優しくつついた。指先に感じる温かくて柔らかな感触がクセになってしまっている。

 

「でも良かった。次からは一緒に歩けるね」


「うん♪」


 村でも毎日のようにピクニックをしていても、場所が変わるとまた新鮮な気分になって楽しめる。どこまでも広がる草花もいいものだったけれど、宝石のように煌めく湖を眺めながらのピクニックも負けていない。その根拠を示すかのように、シャナや女の子の後ろに位置しているサファイアの湖は彼女たちの眩しい笑顔を引き立たせている。

 そんな、みんなが幸せそうな顔をしながらお昼を食べて咲っている姿を眺める。

 泉や村にいた頃のような、狭い世界で生きるのも幸せなことなのかもしれない。けれど、こうして少しずつでも遠くへと足を運んでいると色々な幸せに出会える。知ることができる。

 どれも似たような幸せばかりで味気ないと思ってしまうかもしれないけれど、まったく同じものはひとつもない。泉から出ようとしなければエフェリアと家族になることはできなかったし、シャナと友だちになることもなかった。シャナの手を取って村に行かなければ、おばあちゃんや女の子とも知り合うことなんてなかったと思う。

 そんな物思いに耽っていると、わたしの顔をリラが心配そうに覗いてくる。


「サフィ? どうかしたの?」


「ううん。なんでもないよ」

「ただちょっと、幸せだなって思って」


 リラに向かって微笑むと、リラも微笑み返してくれる。そのキレイな目がわたしのことをまっすぐに見つめてくるものだから、ないはずの心臓が高鳴りそうになる。そして目を逸らすと、その愛らしい口元に真っ赤なジャムが少し付いているのが目に入った。ふっくらとしていて潤った唇も、真っ赤なジャムでお化粧をしていたんだ。


「リラ、じっとしていて。ジャムがついてるよ」


 わたしその甘い誘惑を言い訳にしようと、指で拭い取ればいいものを、わざわざリラの頬に手を添えてその柔らかな唇に口付けをして舐めとった。毎日嗅いでいるリラの匂いと、ジャムの甘い香りが鼻腔をくすぐった。思わずそのまま食べてしまいたくなったけれど、シャナや女の子が見ているから思い留まった。

 でもほら、リラとわたしは結婚しているんだし、こういうことをしたって別に不思議じゃないでしょう? その証の指輪だって、今もわたしたちの左薬指で慎ましく輝いている。

 リラは頬を赤らめて嬉しそうに「ありがと」とお礼を言うと、お返しにわたしの頬に口付けをしてくれた。突然のお返しに惚けていると、リラは可笑しそうに口元に手を当てて咲うんだ。

 そしたらわたしの方が恥ずかしくなってしまって、リラから顔を背けた。


 リラはズルいんだ。

 わたしがちょっとイタズラをして困らせたかったのに、リラは全然照れてくれないし、逆にわたしが困ってしまった。


「サフィ」


「な、なに……」


「ふふっ、好きよ」


「か、からかわないでよ……」


 リラは満面の笑みでわたしの肩に頭を預けてくる。わたしは意地を張るのを止めて、リラの頭に預け返した。


「あなたたち、本当に仲良しさんね」


「あたしたちも仲良しさんだよねー♪」


 わたしたちのことを見ていたシャナは呆れたように咲い、女の子は真似をするようにシャナに肩を寄せた。それを見ていたエフェリアも羨ましく思ったのかわたしのお腹に倒れてきた。


「えへへー、アタシも仲良しさん♪」


「ふふっ、そうだよ。世界で一番の仲良しさんだ」


 わたしはそう言って、誘われるようにエフェリアの頬をつついた。

 みんなが花のように咲っている。今このときを記憶にしか留めておけないのが残念だ。だから、絶対に忘れないように。と、わたしはみんなの眩しい笑顔を目に焼き付けた。

 目を細めて、輝いて見えるみんなの笑顔に眩まないようにする。もしかしたら、みんなの笑顔がこんなにも眩しく見えるのは宝石のように煌めいている湖のせいかもしれないと思った。

 

 けれど、きっと。

 

 そんな湖よりもみんなの笑顔の方が何倍も煌めいていて、ずっと、ずっと眩しいはずだと思うんだ。

 だって、こんなにも温かくて幸せそうな笑顔だ。眩しくないはずがない。今まで毎日のように見つめ続けてきた大好きなみんなの笑顔の眩しさは、わたしが世界で一番知っている。

 そんなちっぽけな幸せを、わたしは世界で一番、自慢に思うんだ。

 

 

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