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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第三節:とある湖の小さな町でのこと]

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90-1話:湖の乙女たち

※リラの目線のお話です。

 ◆


 わたしは今、サフィやエフェリア、シャナや女の子と一緒に『らじおたいそう』をしているの。

 サフィが言うには、めいっぱい遊ぶ前にはらじおたいそうをして身体を温めて(ほぐ)しておくのがいいんだって。特に冷たいお水に入る前には身体がびっくりしないようにしっかりと温めるそうよ。


「いち、にー、さん……」

 

 泉にいた頃はらじおたいそうなんてしたことがなかったから、少し不思議に思っていたのだけれど、それはわたしたちが水を司る精霊だったからしなくても大丈夫だったみたい。

 でも、今日はシャナや女の子も一緒に遊ぶからサフィはお手本になってくれているのね。わたし、サフィのそういうところが好き。誰かに優しくて、とっても幸せそうなお顔をしているの。そのお顔が眩しくって、ついつい見てしまうの。

 今もサフィは楽しそうに身体を動かしていて、その度に揺れる髪も湖のキラキラにも負けないくらいキレイだと思った。


 サフィはたくさんの不思議な格好になって、身体を動かしていた。わたしたちもその動きを真似っこして、一緒になって咲っていたの。

 サフィの真似っこをしていたら段々と身体が熱くなって、それだけで息が上がって来てしまった。らじおたいそうは身体を温めてくれるっていうのは本当だったのね。らじおたいそうをしていたら遊ぶ前に疲れてしまいそう。

 でも、みんなと真似っこをして、誰が一番キレイな姿勢を保てるか勝負をするのもとっても楽しかった。


 湖の畔からあらためてお水の中を覗いてみるとどこまでも透き通るようにキレイで、わたしは両手で掬って宙に放ったの。


「キャ! もう、リラ! 冷たいじゃない」


 そのお水の先にはシャナがいて、ちょっぴり濡らしてしまった。けれど、シャナは怒っていないようで、仕返しよと言って、わたしにもお水を掛けてきたの。

 そこからはみんなでお水の掛け合いっこをして、お水が掛からないように逃げ回って、いつの間にか追いかけっこをしていた。

 そのうちに楽しくなってしまって、シャナの手を引いて湖の上で踊ろうとしたらシャナは慌てて止まろうとして、もう少しで転んでしまいそうになっていた。じゃぶじゃぶと足を水に沈めて、好かの裾を濡らしていたわ。


「ま、待って!」


「シャナ? どうかしたの?」


「私、溺れちゃうわ」

 

 よくわからなかった。溺れてしまうなら、水の上を歩けばいいのに。どうしてそうしないのかしら。わたしが頭を悩ませて小首を傾げていると、サフィが教えてくれたの。


「リラ、水の上を歩けるのはわたしたちだけだよ」

「いつも飛んでいるからわからないかもしれないけれど、エフェリアだって水の上は歩けないでしょう?」

「わたしたち以外は水に入ったら濡れちゃうし、沈んじゃうんだよ」


「そうなの?」


 わたしはわたしの足元や両手を見て少し考えてみたけれど、よくわからなかったからまた小首を傾げてみせた。今まで水の上を歩けることは当たり前のことだったから、どうしてそのようなことができるのかがよくわからない。泉の精霊だから? 水の魔法が使えるから? サフィの真似をして考えてみようとしたけれど、ダメだったの。


「サフィ、どうしたらシャナや女の子も一緒にお水の上を歩けるようになるのかしら」


「うーん、女の子はともかく、シャナはコツさえ掴んだら魔法で歩けるようになるんじゃないかな」


「サフィも、リラもとっても簡単なことのように言うけれど難しいことよ?」


 シャナは肩を落として、スカートの裾を持ち上げながら湖畔へ戻っていった。女の子はまだ、少し離れた所でエフェリアと追いかけっこをしていた。

 湖から陸へと戻って行ってしまうシャナの後ろ姿を見た後、わたしは足元に揺れる自分の影を見つめていた。すると、その横からわたしの影とそっくりさんの影が並んだ。サフィの影ね。


「リラ、やっぱりちょっと寂しい?」


「……うん。みんなで踊ったり、湖の中をお散歩したりしたかったわ」


「水中のお散歩はともかく、踊ることは畔でもできるじゃない」


「そうかもしれないけど……やっぱり、なんだか寂しいの」


「そっか」

「じゃあ、ちょっとだけ練習してみる?」


 サフィは後ろに手を組んで、わたしの顔を覗くように前かがみになった。そのちょっぴりイタズラっぽい、お花のような笑顔がステキだなって思ったの。サフィはわたしの返事を待たずに、わたしの手を引いてシャナに手を振る。


「シャナ~」


「どうしたの? ふたりとも」


 湖畔に座り込んでいるシャナの両隣に座って、身を寄せる。サフィとは少し違った、温かいお花のいい匂いがした。浅瀬でお水の掛け合いっこや、追いかけっこに夢中になっているエフェリアと女の子を見守りながら、わたしたちは休憩をしていた。


「なぁに? ふたりとも甘えん坊ね」


「ふふっ、そうかも。ところでシャナ、水の上を歩けるなら歩いてみたい?」


「それはまぁ……歩いてみたいけど……」


「そっか。じゃあ、目を瞑って~」


 サフィはそう言うと、シャナの目を手で覆った。その後に手を引いて立つように促すと、ゆっくりと湖畔を歩かせるようにしていた。わたしもシャナを支えるようにして一緒に歩いていく。


「シャナ、水の上を歩けないのに、地面の上を歩けるのはどうして?」


「え? うーん……硬いから?」


「じゃあ、水の上も硬かったら歩ける? 例えば、凍っているとか」


「ひゃっ! 冷たいっ……なに? 氷?」


「大丈夫、そのまま歩いて?」

 

「よくわからないけれど……それなら歩けるんじゃないかしら」


「じゃあ、シャナの身体が水に沈むのはどうして?」


「それは水よりも重いからじゃない?」


「それなら水より軽かったら浮くんだよね」


「そうね」


 サフィはシャナの腰に手を回して、力強く抱き寄せていた。


「……ねぇ、もう目を開けてもいい? 今どこを歩いているの? まさか水の上じゃないでしょう?」


 シャナな心配そうな声で、わたしたちに訴える。


「大丈夫、地面の上だよ。だって、硬いでしょう?」


「でも、とっても冷たいんだけど!」


 シャナは身体を震わせて、とても怖がっているように見えた。


「シャナ、大丈夫だよ。水の上は歩けないんだから、沈んでいるはずでしょう?」

「だから、今シャナが立っている場所は水の上じゃないだよね」

「でも、もしも本当に水の上なら、どうしてシャナは沈んでないの?」


「えっ……えっと……どうしてかしら……ねぇでも待って! 怖いんだけど!」


「シャナ。サフィも、わたしもついてるわ。だから大丈夫よ」


 わたしはシャナの恐怖心を少しでも和らげようと、声を掛けて背中を摩すった。実際、もう既に水の上に立っているの。わたしも驚いたわ。サフィに声を出さないように身振りで言われていたから、ぐっと飲み込んだけれど、思わず声を出してしまいそうだったもの。


「ひゃぁぁぁ!」


 シャナは目を開けた途端に叫んで、バランスを崩すと腰が抜けてしゃがみ込んでしまった。沈んでしまわないように一生懸命サフィの腰にしがみついていた。涙目になって震えてしまっている。

 悪いことをしちゃったかしら。

 こんなに怖がってしまうなら、やるべきではなかったのかもしれない。そんなことを思ったの。けれど、サフィはそう思っていないようで、まっすぐな瞳でシャナを見つめていたの。


「シャナ。わたしの目を見て」

「大丈夫。浮いてるじゃない。それに、浅瀬だから溺れはしないよ」


 サフィにそう声を掛けられて、シャナはゆっくりと息を整えていった。落ち着いてくると、水の上にしゃがみ込んだまま不思議そうに水面に映る自分の影を見つめていたの。


「シャナ、落ち着いた?」


「……うん」

「私、浮いてるわ」


「ふふっ、そうだね」

「ほら立って、エフェリアと女の子に自慢しに行こう」


 サフィはシャナの手を引いて立たせると、左右でわたしたちと手を繋いで、さんにんで歩いていったの。

 



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