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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第三節:とある湖の小さな町でのこと]

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87話:町のギルド

 ◆


 町に着いて一番初めに目指したのは、それなりに大きな屋敷のような建物だった。

 象徴的な旗が吊るされていて、ギルドの建物なのだろうとまったく知らないわたしでもひと目でわかった。

 馬車を路肩に駐めて、お父さんが念の為の荷物番をすることになった。

 お母さんが受付をしている間、わたしたちはお母さんの小さな影に隠れながら辺りを見渡していた。初めての場所に好奇心を押さえきれないのは仕方ないと思うんだ。

 シャナは前に女の子を置いて、わたしはリラと手を繋いで離れないようにしていた。けれど、シャナとわたしも動き回らないだけで目や首を動かして周りのものに気を取られてばかりいた。

 その様子を受付の人に微笑ましく見守られていたことに気が付いたときは恥ずかしかった。


「――お泊りになる期間は何日ですか?」


「今日売って残りを明日に……それで買い物もあるし帰るのは遅くなりそうだから……二泊三日かしら」

「部屋はダブルベッドを二部屋でお願いします」


「かしこまりました。こちらが部屋の鍵、こちらは厩舎(きゅうしゃ)の使用許可札になります――」


 お母さんお父さんと女の子で一部屋、リラとシャナ、わたしで一部屋だ。エフェリアも一緒だけれど、今は手に持っているピクニックバスケットの中に隠れてもらっている。

 シャナとは事前に同じ部屋で寝ることを決めていたから、受付は順調に進んでいった。

 それにしても、高級ホテルのように丁寧な受付だった。酒場を兼ねているロビーも、焦げ茶のアンティークのような雰囲気で統一されていて品があった。


 わたしの妄想の中ではもっとゴロツキだとか、酒場だとか、賭け事だとか……もっと荒んでいる場所だと思っていた。

 時間帯的にちょうど空いているのか、他の人たちが誰もいなかったのはわたしたちにとっては良かったことなのかもしれない。


 受付を終えると、部屋には向かわずに外で待ってもらっているお父さんの元へ戻った。ギルドの裏手にある厩舎(きゅうしゃ)へ馬を駐めて、市場までは自分たちで曳いていくそうだ。


「じゃあ、遊び終わったらギルドまで戻っておいで」

「俺たちは夕方になるくらいには戻ってくるよ」


「お金はシャナちゃんに持っていてもらうわね」

「食べ物を買ったり、お土産を買ったり、好きに使ってちょうだいね」

「あとそう、わたしたちはギルドの受付嬢の娘とは知り合いだから、困ったことや知りたいことがあったら遠慮なく訊いていいからね」

「町のステキなところとか、きっといっぱいお話してくれるはずよ」


「ありがとう、お母さんお父さん」


「もう! あたしだって立派なお姉さんなんだから大丈夫!」


 女の子は少し照れくさかったのか、世話を焼くお母さんに胸を張って体を大きく見せようとしていた。


 わたしたちはギルドの前で手を振ってお見送りをしていた。お母さんお父さんも振り返って手を振ってくれていて、途中で何度も振り返っては確認をする。

 お母さんお父さんは自分たちの愛娘を預けてくれるくらいにはわたしたち……主にシャナのことを信頼してくれているとは思う。けれど、それでもやっぱり不安なのは変わらないのだろう。


 ◆


 見えなくなるまでお見送りをしたいところではあったけれど、キリがなさそうなのでギルドの受付嬢さんに色々と尋ねることにした。

 もう一度、雰囲気のあるギルドに入ると受付で書類に目を通していて俯いている受付嬢さんに、しどろもどろとしながら声をかけた。

 わたしたちは全員人見知りだったんだ。

 そんな中で声をかけたのはシャナだった。


「えっと……すみません。お伺いしてもいいですか」


「――あぁ、はい! エミーの……じゃなかった、ベッカーさんの子よね。よろしくね」

「それで、どうかしたの?」


 先ほどとは打って変わり、砕けた対応をされてシャナは固まってしまった。代わりに女の子が首を縦に振って返事をしていた。


「うん。そう。お母さんにね、受付嬢さんに訊いてって言われたの」

「お姉ちゃんがお母さんのお友だち?」

 

「えぇ、そうよ。ごめんなさい。急で驚かせちゃったわよね」

「実はさっきね、お母さんから優しくしてねって言われちゃって……だからってわけじゃないけど、なんでも訊いてね」


 かわいこちゃんたち。と、受付嬢さんはキザなウィンクをした。それが中々に様なっていて、かっこいいと思ってしまったのはナイショだ。

 女の子は受付嬢さんのかっこいい制服や大人の雰囲気に憧れを抱いたのか、憧憬(しょうけい)の眼差しで見ていた。


「娘ちゃんとは小さいときに何度か会っているけど……」

「もう立派なお姉さんになっちゃったわね」

「あなたたちは初めましてよね。私はベイリー。よろしくね」


 この受付嬢さん……ベイリーさんはわたしたちが精霊であることを知らない。わたしもよくわかっていないけれど、妖精や精霊はむやみに名前を教えない。わたしたちはどのように受け答えをしようかと、言葉に詰まってしまったんだ。


「あっ、やっぱり今のはナシで」

「どうせなら名前の方で呼んでちょうだい。イドニアよ」


 爽やかな笑顔で微笑みかけ、肩でゆるくまとめられている髪が少し揺れた。薄く塗られている艷やかな口紅が白い肌から目を惹きつける。

 彼女から醸し出されるその大人の雰囲気に、わたしたちは虜になってしまっていたのかもしれない。

 普段なら満面の笑みで関わっていきそうなリラでさえ、今は大人しくなってしまっている。

 

「……大丈夫?」


 樹のように固まってしまっているわたしたちに、受付嬢さんが心配して声を掛けてくれた。わたしはそれを皮切りになんとか話を繋げることができた。


「あっはい! 大丈夫、です」

「あの、この町のおすすめの場所とか、買い物ができる場所ってありますか」


「えぇ、それなりにあるわよ」

「おすすめの場所はやっぱり大きな湖ね。近くから見るのも、高台から見るのもとってもキレイよ。どちらもご飯を食べられるオシャレなお店があるのよ」

「買い物ができる場所は……初めてなら、まずは市場に行ったほうがいいと思うわ」

「エミーがパンを売りに行っているだろうし、場所は分かるわよね」

「あそこなら食べ物も、お土産も大体のものはお手軽に買えるし、迷子になることもないと思う」

 

 受付嬢さんはわたしたちが初めての町であることをお母さんの話や経験から察したのか、初心者に優しい提案をしてくれた。

 市場のどのお店が美味しいだとか、オシャレな服が買えるお店だとか、少しばかり私情も込みで色々なことを聞いていると、リラに袖を掴まれた。

 どうやら早く遊びに生きたいらしい。

 話が一区切りついたところで、わたしは受付嬢さんにお礼を言った。


「――じゃあ、後は自分の目で確かめてみますね。ありがとうございました」


「そうね。魅力はやっぱりその目で確かめないとわからないもの。いっぱい楽しんできてね」

「――気を付けていってらっしゃい!」


 ギルドを後にしようとすると、受付から受付嬢さんに手を振られていた。

 わたしたちは手を振り返して、扉の前でお辞儀をしてから出ていくことにした。


「おっと、お怪我はないですか?」


「すみません。大丈夫です」

 

 ギルドを後にすると、扉の前で大きな男の人とぶつかりそうになった。以外だったのはとても丁寧な人だったことだ。冒険者(ならずもの)って聞くと、やっぱり粗暴な人を想像してしまう。

 けれど、想像通りだったのは身体にしっかりと筋肉が付いているような人だったことだ。ギルドに関わる人は冒険とかをして身体を鍛えている人が多いのかな。なんてことを思った。


 女の子だけで男の人とはあまり関わらない方がいいと思って、ぶつかりそうになった罪悪感もあり足早にギルドを後にした。


 ◆


「イドニア、とってもキレイだったわ」


 リラが始めに口にしたのは、受付嬢さんの褒め言葉だった。少し意外だった。「はやく湖に行こう」とか、「どこへ遊びに行こう」とか。そんなことを言うものだと思っていた。


「あー、うん。そうだね」

「大人のお姉さんって感じだった」


「サフィはあんなヒトが好きなの?」


「まぁ憧れはするかな……あ、リラが一番好きだよ」


 わたしはそこまで言って、リラの顔を見て察した。これは嫉妬している顔だ。きっと、わたしが受付嬢さんと話し込んでいたことが原因だろうと思う。

 確かに、受付嬢さんはとってもオシャレで思わず憧れてしまう大人のお姉さんだったけれど、好きかどうかと言われればそれはまた別の話だ。

 リラが嫉妬をするのは初めてな気がする。怒っているわけではなくて、少し俯いて目を伏せているんだ。長い睫毛が跳ねているのが見える。いつもは澄んでいてキレイな目を輝かせているから、その輝きが見えないのは寂しく感じる。

 だから、わたしは思い切ってリラに大好きを伝えることにしたんだ。

 リラの前に回り込んで、俯いているその顔の頬を両手で優しく包んで持ち上げた。

 きょとんとしているリラの顔を見て、咲った。


「リラ、好きよ」

「ほら、早く湖へ遊びに行こ」


「――うん!」


 

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