84話:お茶会
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リラが水魔法でみんなの手を洗ってくれている間に、わたしはみんなのお昼の準備を進めていた。
しろいふわふわのパンにマーガリンを広げてから、その上にルビーのように真っ赤なジャムをたっぷりと塗る。こうすることでパンが水分を吸収しづらくなって、長い時間ふわふわな食感を保つことができる。
他にもトパーズのような琥珀色をしたハチミツを塗ったり、アメジストのような紫紺色のジャムも塗ったりした。
「サフィ、ひとりで準備をさせちゃってごめんなさい」
「いいよ。わたしがやりたくてやってるだけだし」
「みんなもうお手々はキレイにできたかな?」
「できたー!」
女の子が元気よく答えて、まだ少し濡れている手を見せてくれた。褒めてあげると太陽よりも眩しい笑顔を向けてくれるから、見ているわたしもついつい笑顔になってしまう。
早く美味しいパンを食べたくてそわそわしているお転婆娘たちを、シャナが宥めてくれている。みんなイイコにして座って待つことができていて、とても偉いと思う。
そして今日はパンやジャムの他に茶葉も用意してある。おばあちゃんが休憩時間に飲んでいるものと同じものを貰ってきた。花柄のオシャレなティーポットに茶葉を入れて、そこに水魔法を応用してお湯を注ぐ。
いつでもどこでも水を扱えるというのはやはり便利だ。わたしはもう、魔法なしでは生きていないかもしれない。
ジャムに含まれている甘い蜜やカップに注いだお茶が香り立つ。それぞれのジャムやハチミツが塗られたパンをお皿にわけていって、みんなに手渡していく。もちろん、エフェリアのために小さく切ったパンもある。コルンムーメにはこの前と同じ硬いバゲットを渡してあげた。
みんなでお祈りをしてから、色とりどりの甘い絵の具を塗ったふわふわのカンバスを口に含んだ。するとその甘味の芸術に感化されたように感嘆を漏らした。
目を輝かせて、落ちてしまいそうになる頬を押さえている。お転婆娘たちは思わず跳ねてしまいたくなる美味しさを身体を揺らすことで逃がしていた。
彼女たちの微笑ましい姿に目を細めつつ、わたしもその美味しさに舌鼓を打った。
女の子は甘いものが大好きなんだ。
咀嚼する度に甘い香りが鼻に抜けて、幸せな気持ちになる。甘さに慣れてしまった舌をお茶で口直しをしてから、ひとくち、またひとくちと味わっていく。
そういえばジャムは高級品で薬としても貴族に重宝されていて、庶民に普及したのはごく最近の話だったっけ。なんてことを思い出す。
そんなことを考え始めるとこの幸せを充分に楽しめなくなりそうだから、余計な思考はやめることにした。
昨日もジャムを塗ってパンを食べたけれど、お茶があるとその美味しさも格別になったような気がする。食事の間にお茶を挟むことで、その甘さを長く味わえる。
その分、リラやエフェリアが幸せそうにしている顔を眺めることだってできる。いいことばかりだ。琥珀色に輝くカップを傾けてリラの顔を見ていたら、それに気が付いたリラが首を傾げる。
「サフィ? どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ。ジャムたっぷりのパンはどう? おいしい?」
「とっても! いくらでも食べられちゃいそう」
「ふふっ、くいしんぼさんだね……でも、ごはんはまだもう少し食べられるなってくらいでやめておくほうが美味しいんだよ」
「お腹いっぱいに食べちゃうと、幸せかもしれないけど、動くのが苦しいし気持ち悪くなっちゃうからね」
食事は腹八分目か、五分目くらいでちょうどいい。小腹が空いたら間食をすればいいし、カロリーとやらを気にする必要もそんなにない。
精霊になった今ではもう無縁の話かもしれないけれど、そんな風に考えている。
ふとエフェリアを見てみると、口の周りにジャムをたっぷりとつけて、子供がお母さんの化粧品でお化粧をしているようになってしまっていた。
それを見たリラは咲ってエフェリアの頬を優しくつついた。
「あら、エフェリアったら慌てんぼさんなのね」
「うん? どうしたのン?」
「エフェリア、ジャムが付いちゃってるよ。ほら、これで拭いて」
用意していたお手拭きでエフェリアの口周りを拭う。よく見ると手元にもジャムがついていたから、洗ってあげることにした。
「どう? もうベタベタしてない?」
「うん、ありがとっ♪」
エフェリアはよく、リラやわたしに対してお姉さんであるように振る舞っているけれど、わたしにとってはふたりとも妹のようだと思っている。
少しばかり手の焼ける、大人ぶりたいお年頃のかわいい妹たちだ。もしかしたら、エフェリアもそんな風に思っているのかもしれない。
思い浮かぶのはよく朝に起こしてくれる姿だ。お姉さんとして、しっかりした生活を送れるように起こしてくれているのだと思う。お世話好きの優しいお姉さんだ。
もしかしたら、ただ早くみんなと遊びたいだけかもしれないけれど。
今度は手や頬を汚さないようにお行儀よくパンを食べているエフェリアを見て、そんなことを思った。
女の子はいつの間にかシャナの膝の上に座っていた。シャナも満更ではなさそうだ。その後ろからコルンムーメにちょっかいを掛けられているのは、一緒になって座っているのが羨ましいからなのかもしれない。前足や鼻先を器用に使って、どうにかしてシャナを自分の元に寄せようとしている。
「ちょっと、コルンムーメ、どうしたのよ」
「ふふっ、シャナに側に来てほしいんだって」
コルンムーメはそうだと言うように唸って、シャナの頭に顎を乗せた。さすがのシャナも押し負けて、ピクニックシートのすぐ側に移動してきたコルンムーメに寄り掛かるように座り直した。
それでコルンムーメも満足したのか、地面に伏せて目を瞑った。
リラはそんなコルンムーメの顔を撫で回している。彼女も悪い気はしないのか、眠ったようにしたままだったけれど、尻尾が振られていた。
オオカミはイヌと違ってあまり尻尾を振らないと何かで見聞きしたような気がするけれど、今のコルンムーメにオオカミのような威厳はもうどこにもなく、ただのふわふわなお友だちだ。シャナに絆されているせいかもしれない。
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もう既にみんなパンを食べ終えて、お茶をしながらお話に花を咲かせている。
お茶をして朗らかな日に当たっていたら、段々と眠たくなってきてしまう。みんなも同じなのか徐々に口数も減っていって、うつらうつらとしている。
みんなしてコルンムーメを枕に寄り添って、お昼寝をしていた。
まだまだ日は高いし、時間もあるだろうから、少しくらいなら眠ってしまってもいいだろう。そう思って、わたしもゆっくりと目を閉じたんだ。




