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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第二節:とある山の小さな村でのこと]

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83話:パンのお届け

 ◆


 わたしたちはシャナの提案でお店と宿のお掃除を終えてからパンを届けに行くことになった。そうすれば女の子も一緒に遊びに行けるし、お仕事は早く終えられる。おばあちゃんには働いてもらうのは悪いから。と、やんわりと断られそうになったけれど、シャナが言って聞かなかったんだ。

 とにかく、仕事は床の掃き掃除やテーブルの乾拭き、あとはショーケースや窓の乾拭きもだろうか。宿の方もやることはそんなに変わらないだろう。


 頭に三角巾を巻いて気合いをいれてみたけれど、お店はとても清潔感を保っていて、掃除をする必要がないと思えるほどにキレイだった。

 女の子が毎日欠かさず、しっかりお仕事をしている証拠だろう。シャナもお手伝いをしていてそのことを知っていたから、このように提案をしたのかもしれない。


 箒で床を掃いていると、キレイに見えてもやはり埃は舞っているようで、少しずつ目に見えるくらいに集まってきていた。


 今シャナと女の子が掃除をしている宿の方は殆どの期間泊まる人はいないらしい。ここは村でも小規模で、旅にやってくる人も少ないからだと言う。それでも宿をなくさない理由として、わたしたちがやって来た森へ向かうには中継点になる場所だからだそうだ。

 女の子は「泊まりに来る人からは面白いお話がいっぱい聞けるから好き」だと言う。

 

 そしてわたしは気が付いた。

 魔法で掃除をするのを忘れていた。と。

 流れのまま掃除道具を渡されて掃除に励んでいたけれど、別に魔法を使ってはいけない理由はないだろう。

 そうしてわたしは、窓を拭くのに夢中になっているリラとエフェリアを呼んで、魔法で掃除をしてしまうことにした――。



 

 ◆



 

 ――掃除を終えて、わたしたちはピクニックバスケットいっぱいにパンを詰める。基本的には硬めのパンだから潰れてしまう心配はない。村の人たちに分けるパンとは別に、わたしたちがお昼に食べるパンを詰めたピクニックバスケットもある。


 それらをしっかり持ったら、お出かけ……お仕事に出発だ。

 昨日みんなでお出かけしたときのように、女の子はシャナとわたしの手を取って並んで歩いている。もちろん、わたしのもう片方の手はリラが握っている。

 エフェリアには念の為、わたしたちのお昼を詰めているピクニックバスケットの中に隠れてもらっている。


 山の方へ向かう道を進んで、一軒目の家の扉を叩く。


「こんにちは」


 シャナが金糸雀のようなキレイな声で挨拶をすると、ゆっくりと扉が開かれる。


「あら、今日はシャナちゃんたちなのね。そちらの()たちは?」


「私のお友だちよ」


 行く先々でそんな話をして回って、農耕地の方へ出るとたくさんの人たちが一緒になって農作業をしていた。

 そういえば昔は近隣の住民と協力して農作業をしていたという話を読んだことがある気がする。こういうものはどこの世界でも似たような歴史を歩んでいくのだろうか。なんてことをぼんやりと考えていた。


 女の子は農作業をしている村の人たちに向かって元気よく声を上げた。みんながその声に振り返ると、パンのお店の看板娘である女の子は笑顔で手を振ってくれている。

 その姿を認めるとみんなも笑顔になって手を振り返してくれる。リラは女の子と一緒になって、楽しそうに手を振っていた。


 みんながお昼のパンを受け取りに来ると「かわいいねぇ」「ありがとう」「お疲れさま」と口々に褒めてくれたり労いの言葉をくれた。

 リラも、女の子もニヤけてしまいそうになる顔を一生懸命取り繕いつつも、満更でもない顔をしていた。そんなふたりを見てシャナとわたしも咲っていた。


 ◆

 

 ひと仕事を終えて人気(ひとけ)のない場所に出ると、ピクニックバスケットからエフェリアが顔を出す。


「ねぇ? アタシはいつまでかくれんぼをしていればいいのン?」


「もう出てきても大丈夫だよ」


「まったく、あのままじゃパンになっちゃうところだったわ?」


 エフェリアは伸びをして翅を伸ばすと、頬を膨らませて抗議の声を上げた。確かに、エフェリアだけ仲間外れみたいになってしまったのは悪かったと思う。わたしは素直に「ごめんね」と謝ると、エフェリアは不貞腐れたまま許してくれた。


「今日はどこでお昼を食べようか」


愛しいお隣さん(ロビン)がいるこの辺りはダメなのン?」


「家畜のコたちがいるとコルンムーメが来たときに怖がっちゃうんじゃないかなぁ」


 コルンムーメは人が二人寝て並んだ長さよりも大きいオオカミの仔だ。わたしだって優しい仔だと言うことを知らなかったら、恐怖で取り乱してしまうかもしれない。

 今となっては大きなかわいいもふもふだという認識だ。精霊の神々しさも、オオカミの威厳もどこにもない。シャナの家族で、わたしたちの友だちだ。


 放牧地を抜けるまで逸れて歩いていって、いつの間にか誰もいない草原へと辿り着いていた。後ろを振り向くと、遠くの下の方に村が見えた。

 この辺りは村に初めて来たとき、通って来た道に近い場所だった。

 こうしてあらためて見ると、随分と遠くに来てしまったのだと感じる。途中からコルンムーメに乗せてもらったから歩いた距離は短かったけれど、それでもわたしたちにとっては大冒険だったような気さえするんだ。


 風に吹かれて髪を靡かせながら景色を眺めていると、土を蹴る音が聞こえてきた。何度も聞いていると段々と誰の足音が判ってくるものだ。


「コルンムーメ!」


 わたしよりも早く振り返って名前を呼んだのはシャナだった。シャナは両手を広げて駆け出すと、コルンムーメも尻尾を振りながら地面を強く蹴った。シャナはコルンムーメの鼻先に飛び付いて、コルンムーメは力強くも優しくシャナを持ち上げたんだ。


「あはは! ふふふ!」


「オオカミさん! あたしも!」


 シャナが今まで一番のキレイな花を咲かせているのを見て、女の子も両手を上げて跳ねている。コルンムーメはゆっくりとシャナを降ろすと、高い高いをするように女の子も持ち上げる。それを見ていたリラとエフェリアも羨ましくなったのか、コルンムーメにおねだりしていた。


 みんなが黄色い声を上げながら楽しんでいる姿を見て、わたしまでも楽しくなってきてしまった。リラとエフェリアの番が終わってリラの脇を支えて降りるのを手伝っていたら、コルンムーメがわたしに鼻先を押し付けて持ち上げようとしてきた。


「えっ、わたしはいいって……」


「そんなこと言わずに、後はサフィだけなんだから素直に持ち上げられなさいよ」


 シャナに背中を押されて、前のめりになる。コルンムーメもその瞬間を見逃さず、わたしのことを軽々しく持ち上げた。突然の浮遊感に襲われて、少し怖くなって振り落とされないようにコルンムーメにしがみつく。

 高くなった視界にはどこまでも続く草花の緑が飛び込んできて、その雄大さに息を呑んだ。その景色に見惚れていたら降りる時間がきてしまったようで、ゆっくりと地面に降ろされた。


「コルンムーメ、ありがとう」

「あはは、もう、くすぐったいってば」

 

 わたしは抱きついた姿勢のままコルンムーメを撫でた。彼女も嬉しそうに目を細めてくれていて、お返しにその大きな舌で舐められてしまった。


 みんながコルンムーメと一緒に遊んで、再会の喜びも分かち合えた。これから友だちとめいっぱい遊びたい……! という気持ちはやまやまだけれど、まずはお昼の時間だ。

 シャナとわたしは今すぐにでも遊びだしてしまいそうなお転婆娘たちを呼んで、草原の海にピクニックシートを広げたんだ。


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