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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第二節:とある山の小さな村でのこと]

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82話:金糸雀の囀り

 ◆

 

 サフィたちとお出かけをした翌日、私は楽しかった思い出を胸に、とても気分の良い朝を迎えた。

 

 お友だちとお外でお昼を食べて、思い切り遊ぶのはとても久しぶりだった。コルンムーメも元気そうにしていたし、私は心配のし過ぎだったのねと思う。あの仔はもう立派に育って、ひとりでも生きていけるのだと思ったら、少しばかり寂しく思ってしまったの。

 けれど、お別れするときにはコルンムーメはまだ遊びたいと言うようなお顔をして、甘えて来てくれたのが嬉しかった。情けないわよね。私の方が長く生きていてあの仔よりもずっと、ずっとお姉さんで、あの仔のお母さんのはずなのに。私の方がずっと、ずっと寂しがりやさんだったのね。

 

 でも、どうしてかしら。

 

 そんな恥ずかしいことを知ってしまったら、どうしようもなく不安で心配に思っていたことがなんにもなくなってしまって、心が軽くなったの。だって、寂しくなったら会いに行けば良いのだもの。コルンムーメは私の大切な山を、村を、私を見守ってくれている。

 そう思ったら、寂しさなんてどこかに飛んでいっちゃった。

 私もこの大切な山を、村を、コルンムーメを見守っている。目には見えないかもしれないけれど、いつだって心では想っているもの。

 だから寂しくなんてないわ。


 なんて。


 強がってみたけれど、やっぱりちょっぴり寂しいの。おばあちゃんたちやサフィたちとの生活は温かくてとても楽しいけれど、そこにコルンムーメもいてくれたらもっと楽しいだろうなって思うの。

 毎日のようにお出かけをして、会いに行ってしまってはダメかしら。一度会ってしまったら、ずっと一緒にいてほしくなってしまって仕方がないの。

 でも、またお出かけすればいつでも会えていつでも遊べて、またコルンムーメの笑顔を見られるのだと思うと、やっぱり嬉しく思うの。


 おかしいわよね。

 

 でもね。そう。嬉しくて、寂しくて、なんだかよくわからない気持ちでいっぱいで。

 サフィが「またお出かけしようね」って言ってくれたときはとても嬉しかったわ。

 

 そうね。

 

 だからやっぱり、私は嬉しいのだと思う。お顔を洗って鏡に映った私の顔は咲っていたのだもの。そう。そんな感じよ。


 私は暴れ出してしまいそうな心の波濤を宥めるために、そんな自問自答を繰り返していた。今日は昨日の分までちゃんとお手伝いをしたら、コルンムーメのお顔を見るだけでもお出かけをしようかな。なんてことを考えた。

 だって、今まで私たちが来る前からお店を続けてきた強い子たちのことだもの。もう少しワガママになったって、きっと許してくれるはず。

 おばあちゃんだって、サフィだってそう思っているから私をお出かけに誘ってくれたのだろうから。


 私は半ば自分自身にそう言い聞かせて、新たに芽生えてしまった心配の芽を摘んでいった。


「おばあちゃん、お母さんお父さんもおはよう」


「あら、シャナのお姉ちゃんもおはよう」

「おはよう、シャナちゃん」

「おはようシャナの姉さん」


 みんなはそれぞれにおはようの挨拶をしてくれた。大人のみんなは朝ごはんを手分けして作っていた。


「よく眠れたかい。昨日は楽しんで疲れたろうから、もう少しゆっくりしていたっていいんだよ」


「ううん。大丈夫よ。ぐっすり眠って、疲れなんて吹き飛んじゃったわ」


 この言葉は嘘なんかじゃない。いつもよりうんと身体が軽いし、とても晴れやかな気分なの。毎朝おばあちゃんの美味しいパンとスープを食べられるのもとても幸せ。山に住んでいた頃は、村に買い物をしにきたときにしか食べられなかったから。

 私はもう、食事をする必要なんてなくなってしまったけれど、この温かな愛でお腹を満たすのはとても好きよ。人間でいた時間の方が短いはずなのに、そのときの習慣は今でも抜けきっていない。


「今日のごはんも美味しそう」


「そりゃそうさ。もうずぅっと作り続けて来てるんだからねぇ」


 おばあちゃんやお母さんお父さんと他愛もない話を少ししてから、お孫さんとサフィやリラ、エフェリアを起こしに行く。

 実は少し、少しだけよ? 気持ちよさそうに眠っているあの()たちのお顔を見るのが好きなの。みんなを起こしたらテーブルを囲んで、みんな一緒に食事をする。

 

「ねぇおばあちゃん、私たちの食事の分まで分けてもらってるけれど、食料とかは大丈夫なの?」


「まぁ大丈夫じゃないかい? お嬢ちゃんたちのお腹をいっぱいにするくらい、なんてことはないさ」

「話すようなことじゃないかもしれないけれど、お嬢ちゃんたちが来てからは売上もちょいと上がってるからねぇ」

「あぁ、そうだお嬢ちゃんたち」


 サフィたちはおばあちゃんに呼ばれて、双子のようにそっくりなお顔を同時に向けた。もちろん、エフェリアも。

 おばあちゃんのお話は、お母さんお父さんが村の人たちにパンを渡しに行くお仕事について行かないか。という提案だった。そうすれば村の人たちはサフィたちがどこの仔たちで、どんな存在なのかを騒がれずに知らせることができる。と、おばあちゃんは考えたようだった。

 確かに悪くない考えだと思う。お出かけが好きなサフィたちにはお外に出る理由ができるし、村の人たちとも仲良くなれるだろうと思う。


「それかシャナのお姉ちゃんとお嬢ちゃんたちで行くかい?」

「そうすれば息子たちには料理を教える時間が取れるからね」


「いいね。そうする? そしたら、いつでもあの仔に会いに行けるよ」


「えっ――」


 ここで突然の提案に驚いて、声を出せなかったのがいけなかった。話はどんどん進んでいってしまって、私とサフィたち()村の人たちにパンを渡しに行くお仕事をすることになってしまっていたの。


 村の外れにあるお家や放牧している人たちにパンを分けに行くのを私たちが担当をして、店から近くにある辺りはお母さんお父さんが分けに行く。そうすることで、私たちはお仕事が終わった後は好きにお出かけをできるし、お母さんお父さんはすぐに帰ることができてお料理の勉強ができるから。というのがおばあちゃんとサフィがお話していたことだった。


 サフィって頭がいいのね。思いついたことはなんでもやってしまうの。ひとつやふたつ先くらいのことを考えていて、みんなを幸せにしてしまうの。

 おばあちゃんは家族との時間が増やせるし、私もあの仔に会えるし、お友だちと一緒に遊ぶことだってできる。

 

 またサフィたちと一緒に遊んだり、コルンムーメに会えたりするんだと考えたら、思わず口角が上がってしまいそうになって、冷静を装うのが大変だったのはナイショよ。


 でも、そうしたら女の子のことが少し心配かしら。

 だって、おばあちゃんとは一緒だけれど、ひとりだけお店でお仕事をしているなんてきっと寂しいもの。そう思って、私はサフィみたいにみんなが幸せになれる提案をしてみたの――。

 


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