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恋を知り、花と咲う《前題:精霊に転生するはずが、なぜかスライムでした ─泉の精霊だってオシャレがしたい─》  作者: ぺぺ
[第二節:とある山の小さな村でのこと]

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76-2話:ふわふわパンケーキ

 ◆


 リラとエフェリアが幸せそうにパンケーキを食べているのを眺めながら、どうせならシャナや女の子の分も作ればよかったと後悔した。

 今この時間の幸せを仲間外れにしてしまうのは申し訳ない。食べかけを分けてあげるのも失礼だろうし、少し冷えてきてしまっている。

 だから、わたしがエフェリアの分をもらった後、もう一度焼くことにしたんだ。


「おばあちゃん、シャナと女の子の分も焼いていい?」


「あぁ、ぜひそうしておくれ」

「ところでおばあちゃんにも作り方を教えて貰えないかい?」

「できるなら店でも出してみたいんだけどねぇ……いいかい?」


「もちろんいいよ。幸せはいっぱいあった方がいいもん」


 たぶん、おばあちゃんは商売的なことについて言っているのだと思うけれど、わたしのものではないから気にしない。むしろ誰かが美味しく作ってくれるならその方がいいとさえ思う。

 

 おばあちゃんに作り方を教えながら、一緒に作る。わたしの隣ではおばあちゃんも材料を用意していた。

 粉や砂糖を混ぜ合わせたものに半分の量の牛乳を入れて、卵は一個。魔力を多めに含ませた水を数滴。


 これらを混ぜ合わせて焼くと、さっきと同じようにふわふわのパンケーキが焼き上がった。

 

「ふむ……人にはちょいと難しいかもしれないね」


「そうなの?」


「お嬢ちゃん自分で加えた魔力の量を理解していないだろう……まぁ見てみなさい。おばあちゃんのはあんまり膨らんでいないだろう」

「魔法を存分に使えるならまだしも、使えないならちょいとね……」


 たしかに、おばあちゃんのパンケーキは少しだけ膨らみが足りていないように見えた。人が扱える魔力の量では少し足りないのかもしれない。


「ふわふわは難しいかもしれないけど、それぞれの美味しさがあるはずだから大丈夫だよ」

「それに厚みがないだけで、おばあちゃんのパンケーキも充分柔らかいはずだよ」


「そうなのかい? ありがとねぇ」


 一般家庭で作るパンケーキに膨らみなんてものはないのが普通……だと思っている。ふわふわにするためには工程を増やして手間を掛けなければいけない。だけれど、どちらかしか美味しくないなんてこともなく、どちらも同じように美味しい。

 

 できあがったパンケーキをお皿に重ねて盛って、お店の方にいるシャナと女の子へ持っていってあげた。するとふたりとも同じように目を輝かせてパンケーキにかぶりついたんだ。とはいえふたりはナイフとフォークを使って、器用に分けて上品に食べている。

 どうやら人は美味しそうなものを前にすると、みんな同じように幸せそうな顔になるらしい。シャナも、女の子も目を細めて美味しそうに食べていた。


「とっても美味しい……ふたりとも、ありがとう」


「あたしこれ好きー!」


 おばあちゃんとわたしはふたりの幸せそうな笑顔を見て、同じように頷きながらその幸せを噛み締めていた。料理を作った者として、その料理を喜ばれる以上に嬉しいものはないのだと実感させてくれる。

 おばあちゃんを傍目にみると、そのことが伝わってくるんだ。きっと、おばあちゃんもわたしと同じ気持ち……いや、わたしがおばあちゃんと同じ気持ちでいるのだと思う。

 おばあちゃんはみんなの笑顔が大好きなんだろう。

 誰かが幸せそうに料理を食べてくれている顔が好き。そんな優しい顔をしていたんだ。


 店にお客さんは誰もおらず、閑散としている。お昼前や後はみんな仕事をしているし、お昼も食べにやってくる人は少ない。だから今はゆっくりとしていられる。

 シャナと女の子の幸せそうな顔を眺めていたら、いつの間にかおばあちゃんがカップとケトルを持って、お茶を淹れてくれた。


「いっぱい焼いたからね、ゆっくりお食べ。その間はおばあちゃんが店番をしているからね」

「お嬢ちゃんもありがとねぇ。あっちのお嬢ちゃんたちが待ってたから、構っておやり」

 

「そっか。わかった。おばあちゃんもありがとう」


 わたしはおばあちゃんにチークキスをしてから裏手へと戻った。竈の火を眺めていたリラとエフェリアはわたしの姿を認めるとぱっと笑顔になって走って飛びついてくる。

 わたしはふたりを受け止めながら、くるりと回って衝撃を逃がした。

 

「ねぇサフィ、アレにお水を掛けるとね。じゅ~って鳴って面白いのよ」


「火で遊ぶのは危ないよ。それに竈の火は消しちゃダメなんだから」

「ふたりとも火傷はしてない?」


「リラのことはアタシが見守っていたから大丈夫よ」


「エフェリアもありがとう。でもそれなら遊ぶのを止めてほしかったかな」


「そうよ! リラ! 次からはダメなンだからね!」


「なによ、エフェリアだってわたしと一緒に楽しんでたじゃない」


「アラ、そうだったかしら」


 ふたりで責任を押し付け合って言い合いっこをするものだから、わたしはふたりの頬をもちもちすることにした。微笑ましい光景かもしれないけれど、責任を押し付けるようなクセがついてしまうのはよくない。


「こーら、ふたりとも悪い仔だね……そんな悪い仔にはふわふわのパンケーキは作って上げませんからね……!」


「えーっ!」


 リラとエフェリアはふたりして抗議の声をあげて、ヤダヤダと駄々をこねた。許しを乞うようにわたしのお腹に抱きついて跳ねている。その姿がなんとも子供らしくて、ついつい許してしまいそうになる。


「サフィぃ……おねがぁい……」


「……ちゃんと反省したならいいよ」


 リラとエフェリアの、涙目になった上目遣い。それにわたしは耐えられず、ついには許してしまった。だって仕方ないじゃない。そんな風にされてしまったら、誰だって許してしまう。ふたりは誰が見てもそれはそれは美しい乙女だ。人間の美しさを容易く凌駕する妖精と精霊だ。

 許さないなんて言う方がなによりも無理がある。

 わたしはわたし自身のあまさに苛まれつつ、そうやって納得させることにしたんだ。




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