時の神 クロノス
森を抜けるとそこは、断崖絶壁の崖。
そして、その下はどこまで続く、一面の白い雲と、上には太陽が照らす綺麗な青空が広がっていた。
「さて、伝記によると。」
石を投げ、雲の中にカツンと音のなる箇所がある。
そこに何とか飛び乗れば、そこから伝説の都へと続く階段が現れ、雲が開ける。
「ほ、本当かなぁ?」
ルルは言う。
「ちょ、何でこんな高いところ多いの?」
素空は震えながら、言っていた。
私は、拾ってきた石をひとつ、またひとつと雲の中に投げる。
すると、カツーンと雲の中に響く、綺麗な音が聞こえた。
「そこね。みんな行くわよ。」
「はーい!」
「ちょ、ちょっと待って。まだ心の準備が………」
「素空。手握ってあげようか?」
ルルはいたずらをするときのような表情で、ニシシと笑った。
「いい!大丈夫!」
素空も子どものようにプンプンと怒って、自ら崖の前に立つ。
「ヤテンさん、お願い!」
「はいはい。」
私は風魔法で、素空のからだを浮かせる。
「ヤテン!わたしも!」
「わかったわ。」
ルルも浮かせて、最後にわたし自身にも風魔法をかける。
「さぁ、行きましょう。」
私たち3人は雲の中へ駆けていく。
石の音のなった場所はもうすぐだ。
「………見えた。」
紋様の描かれた大広間。
そして、そこには1人の若い男がいた。
私たちは、何とか辿り着くと、
訝しんでその男に問いかける。
まるで神の装束ともいえる眩く、白い豪華絢爛な
衣装を着たその男は、こちらを優しい眼で見つめていた。
「久しぶりだね。」
「あの、どちら様で?」
「クロノスさ。あの、孤島で出会っただろう?」
俺たちは、記憶を探る。
「「「あぁっ!!!」」」
「思い出したようだね。」
あの時は、そもそも姿が違ったから、
名前を言われてもパッと分からなかった。
「我が友、イデロスがあらぬ容疑にかけられてね。
これから向かおうと思っていたのさ。」
「あの、俺たちも向かうんですけど。」
「あぁ、もちろん知ってるよ。」
クロノスは下に俯いた後、紋様の透き通るその美し
眼光を、俺たちに向けた。
「だから、止めにきたんだ。」
「えっ?」
急激に、辺りの視界が揺らぐ。
体が急にふわっと浮かんだように、夢の中で落ちる
ような感覚に取り込まれる。
水の中で声を聞くようなそんな感じで、
クロノスに話しかけられる。
「大丈夫。君たちの旅はここで終わりだが、最も
幸せな時間に飛ばしてあげよう。安心して、これは
夢や、幻じゃない。れっきとした、君の人生の時間
として、やり直すことができるんだ。
大切な人との時間を。
記憶は封印させてもらうよ。それじゃあ。」
「おや?」
早速、イデロスのところに向かおうと思ったが、
目の前には1人少女が残っている。
「これはこれは、お嬢さん。悪かったね。」
「素空と、ヤテン……どこにやったの?」
「………今が君の人生で1番幸せな時間だったと言うわけか。」
「どこ?ねぇ、どこ!!!!???」
「悪いことをした。」
「はぁ………」
少女は唱え始める。
『デュランダル』
『ガラドボルグ』
『ダーインスレイブ』
『アロンダイト』
『レーヴァティン』
『グングニル』
「………それだけの代償の行使。」
死ぬつもりだな。
「あなただけは、絶対に許さない。」
フーッ、フーッと肩で息をしている。
まずは落ち着かせよう。
「はぁ、大丈夫。戻ってくるよ。」
少女はもはや聞こえる状態ではないか。
まずは契約を解除しよう。
手を翳し、解除の文言を唱える。
すると、武器は一つ、また一つと消失していく。
「なっ………!?」
「しばらくの時間、彼らには過去に過ごしてもらう。」
「…………戻ってくる?」
「戻ってくるさ。」
私は確信している。
「俺は君たちのことが大好きだ。」
君たちの持つ、ぬくもりはイデロスに似ている。
だからこそ、今の彼に会わせたくないんだ。
「彼は過去、人に恋をした。
そして、そのぬくもりを今でも覚えている。
そして、彼は、最期に会いたいと考えている。
自らにそのぬくもりをくれた、愛した人に。
だから、いっそのこと過去に飛ばしてあげようか
と思ってね。禁忌にこれ以上踏み込む前に。」
時に関する干渉は、死者の蘇生とおなじく禁忌。
僕自身の能力が、世の理に反している。
だからこそ、罪を被るのは僕だけでいい。
元々、僕は後悔することばかりを、
してきたからね。
「いけない。」
僕は再び、時の力を使う。
こうなるとは思っていたけど、ハァ。
少女を過去、まだマシな時間に飛ばす。
ここにいては、身が持たないだろうからね。
『ケラウノス』
恐い人がやってきたよ。
はぁ。困ったもんだ。
「クロノス。ここまでお前が愚かだと、一体誰が
考えたか。」
「やれやれ。参ったな。」
「………覚悟しろ。」
夕暮れ、電車の音が鳴る。
俺は、姉ちゃんの隣を歩いていた。
「あれ?」
「ん?どうしたの素空?」
「………俺、さっきまで何してたっけ。」
「なに?あんた、大丈夫?」
姉ちゃんは俺の額に、優しく手を当てる。
「うん。熱はないみたいね。大丈夫。」
姉ちゃんは、うんうんと頷く。
「……姉ちゃん、いつもありがとう。」
「おっ?どうした?照れるじゃん。」
ういうい、と肘を当ててくる。
「いてーよ!姉ちゃん力強ぇんだから。」
「麗しき乙女に向かって、何をー!!」
うがーっと、姉ちゃんは俺に襲いかかる振りをする。
いつものやり取り、懐かしいものだ。
「………あれ?」
懐かしいって………
「素空、どうしたの?あんた泣いてるよ。」
「姉ちゃん、俺ダメだ。戻らなきゃ。」
「…………よしよし。」
姉ちゃんは俺をその胸にぎゅっと抱きしめた。
「あんたは優しい子だから、なんかあったんでしょ?」
「………うん。ごめん。」
「姉ちゃんはいつもあんたの味方だからね。」
「うん。………うん。」
姉ちゃんは俺を振り向かせ、背中を手で叩く。
「ほら!行かなきゃいけないなら、行っておいで!」
「で、でも………」
「何かあったら、姉ちゃんが守ってあげる。
素空は、気にせず突き進め!」
姉ちゃんは拳を掲げ、ニッと笑う。
「……………おう!!」
俺も姉ちゃんに拳を向けて、そして、
振り返って、前に走り出した。
「クロノスよ。これで終わりだ。」
雷を纏った、ケラウノスが掲げられる。
クロノスは口から血を流し、片膝をついて、
地面に顔を向けている。
(……………ここまでか。)
瞬間、ゼウスを強烈な蹴りが吹き飛ばした。
「ま、まさかっ!?」
クロノスは驚愕の表情を浮かべる。
「戻ってきたぜ。」
素空は拳を掲げる。
「どんな力だろうと、運命だろうと、
不幸になっていい奴なんて1人もいねぇ。
みんなまとめて、俺が幸せにしてやる!!!」
「愚かな。我は、神なり。」
「あんたもだ。クロノスは友を助けようとしている。そんないい奴を傷つけるなんてこと、いいことのはずがねぇ。話し合おうぜ。」
「……もはや神の決定だ。覆ることはない。」
「神の決定だって、関係ねぇ。」
胸に握った手をドンと当てる。
「日常の話し合いとか、笑い合ったりとか、
そんな当たり前に勝る規則やルールなんてもの、
この世に存在しねーんだよ!!!!!
話し合え!!!!幸せになるまで、とことんぶつか
って、とことん気持ち伝えて、お前の本心は、
どこにあるんだ!!!!伝えろよ!!!!!
お前は、本当はどうしたいんだ!!!!!!」
ゼウスは、俯き、考える。
「戻ってきてほしい。」
「父上。どうか、戻ってきてはくださいませんか。」
ゼウスは、クロノスに言う。
「………過ちは、消えない。だが、もし許されるなら、ゼウス、一度だけ抱擁させてほしい。」
「父上。」
ゼウスが若く、子どもとなり、
クロノスは年老いて、優しき眼でゼウスをみる。
「本当は、一緒に暮らしたかった。
父上とずっと一緒に。」
「すまないな。本当に、すまない。」
2人は涙を流して抱擁をかわした。




