元の世界
俺は、夕日の差す病室で呆然としていた。
「一体、何があったの?お母さん、本当に心配したのよ。今度こそ、あんた目覚めないんじゃないかって。」
「あ………も、戻らなきゃ。」
「はっ?あんた何言ってんの!!とにかく、病院の先生呼んでこなきゃ!!」
お母さんは、病室を急いで出た。
「……………ど、どうして?」
呆然とした俺は、そんな言葉しか紡ぎ出せずに目の前の現状に混乱していた。
「素空!!!素空!!!!!」
1人の女の子が病室にやってくる。
彼女とはこのゲームに入る以前、大学で知り合って、共にある事件を乗り越えた、大切な友人だ。
「よかった……よかっ……たぁ………。」
彼女は両手で俺の手を握り、頭を付けて涙を流している。
「ご、ごめん。どれくらいだった?」
「………?どれくらい眠ってたかってこと?」
「うん。」
「2ヶ月と30日!!およそ3ヶ月よ!!3ヶ月!!!!死ぬかと思ったわよ!!!あんたがいなくて!!!!」
「そ、そんな大袈裟な……。」
「大袈裟じゃない!!!!」
「ご、ごめん。浅谷。」
彼女は、浅谷 幽樹という。
先日……とは言っても、半年前知り合って、共に死地を乗り越えたことがきっかけで、仲良くなった。
先生が来て、容体を見てくれた。
「ふむ、問題ありません。元々、原因不明で体自体は健康そのものできたから。」
「よかったぁ。」
母は胸を撫でおろす。
「よかったね!素空!」
浅谷は、俺の手を握り飛び跳ねて喜んでくれた。
俺は、俺の帰りを待ってくれていた人の手前、決して言うことはできないが、いち早く、今すぐにでも戻らなくてはならない。
一体、どうしたらいいんだ。
「素空が……起きない。」
「えぇ……そんな………」
素空が、目を覚まさなくなった。
頭痛がすると言う話をしていたから、しばらく寝ていて、医師の話を聞いたところから、しっかり看病をすれば問題ないと、思っていた。
「何で……?」
「分からない。ただ……考えられるとしたら……」
2人に思い当たる節はひとつしかない。
ヤテンは最初の頃、それを目の前で見ていた。
ルルも、開発者としてあり得るならそれだろうと言う確証があった。
「元の世界に帰ったんだ。」
「そうね。」
しかし、もしそうならきっと喜ぶべきことだろう。
この世界に住まう人間の事情を除けば、本当に素空のことを考えるなら、それでもいい。
「………全部、私が始めたことなんだ。」
「えっ?」
「全部、私が始めたことだから、私が終わらさなきゃいけないんだ。」
「ルル……?」
「素空をこの世界に呼んだのも私。素空を苦しめてきたのも私。素空が元の世界に帰れたなら………私が全部終わらせればいいよね。」
「ルル……そんなことはないわ。まだ、戻ってくるかもしれない。」
「ヤテン、私ね本当にこの世界が好きなの。ヤテンが、素空がこの世界を好きにしてくれた。だから、元の世界の私は………」
ルルが宙を指でスライドさせる。
「もう、死んでもいい。」
「やめなさい!!!」
ルルが入力している途中で、ヤテンはルルに飛びつき、ルルの入力を中断させた。
「ヤテン、お願い。離して。」
「ダメよ。私にはよく分からないことだけど、あなたが苦しんでることだけは分かった。しばらく、落ち着くまで、大丈夫だから。」
ヤテンは、ぎゅっと強くルルを抱きしめる。
「でもね、ダメなの。」
ルルは言う。
「いまこの現状で、素空がいなくなったってことは………」
もうすぐ始まる。
魔王軍の侵攻が。
魔王が、宙に浮かんだモニターの、
画面を触る。
「こいつがいたから、我々が強くなろうとも、手を出せなかった。」
レベルと言われるものの差が、どれだけあろうとただの人間など取るに足らない存在だった。
しかし、
「この異常な存在。この、全てのステータスが測定不能と書かれているこの存在だけが、これまで気がかりで軍を大きく傾けることができなかった。」
魔王は高笑いする。
「だが、やってやったぞ!!!!ほんの一瞬、シンクロベースとやらに侵入できたおかげで、排除することができた!!!!!」
「これにより、魔王軍は世界征服に乗り出す。」
「これより魔物の時代が始まるのだ。」




