好きな人
私はよく知っている。
あなたがどれだけ優しいかということを。
あなたがこれまでどれだけ無茶をしてきたか、
と言うことも。
だから、本当はこの世界でゆっくりと休ませて、
あげたかった。
静かで、綺麗なこの世界で、
私が魔物たちを片付けて、
あなたにこの世界をプレゼントするつもりだった。
神様から命を授かった。
可愛かった。
この世に生まれたこの命が、
どうしても大切に思えてしまった。
「ゆ、許してくれ!もう、何もしない!人間たちとも、和平の条約を結ぼう!だから、どうか命だけは!」
魔王の命乞いに耳を傾けてしまうほどに、
私に命というものは、重すぎた。
この世界で結ばれて、
ゆっくりと2人で何ものにも干渉されない、
悠久の時を過ごして、
あなたを幸せにしたかった。
「…………ル、………ル…ル、………ルル!!」
「は、はぁい!!!」
「あなた風邪ひくわよ!!ベッドに突っ伏して!はい。これ。」
ヤテンさんから毛布を渡される。
「あとは、任せなさい。お風呂入って、ご飯食べてゆっくり寝なさい。」
「………ねぇ、ヤテン。」
「ん?なに?」
優しく聞き返してくれる、まるで……
「怒らないで聞いてね。あのね、ヤテンって、私に初めてできたお母さんみたい。」
「あら、お母さん?……ふふっ、あなたのことが好きだし、ほっとけないからあながち間違いではないかもしれないわね。」
「…………」
私は思わず口を開けて、ヤテンを見つめてしまう。
「どうしたの。ほら、お風呂入っておいで。」
「あのね、ヤテン。」
「なぁに?」
「私も好き!」
「……ありがとう。」
抱きしめられる。
胸がぎゅっと締めつけられる。
「ごめん……ごめんね………。」
あの時のことが思い出される。
感情のままにヤテンを殺そうとした。
素空が取られると思った。
私の唯一の、私の全てが、
人生がまるごとすっぽり取られてしまいそうな、
そんな感じがしたから。
それほど、遠目から見ていたあなたは、
あたたかく感じた。
「………大丈夫よ。よく頑張ったわね。」
何も言わずに、ただ受け入れてくれる。
そんなヤテンに、私は体の力をぎゅっと込める。
涙が止まらなくって、ヤテンの綺麗な服が、
ぐしょぐしょになってしまった。
「ごめん………涙でぐしょぐしょ………」
「あらあら。……ルルはよく謝れてえらいわね。ほら、吹いてあげる。」
ヤテンはもっていたハンカチで涙を拭ってくれる。
「ほら、綺麗になったわ。お風呂に入っておいで。」
「うん!」
私は元気に部屋を飛び出した。
「ねぇ、素空。」
「……………何ですか?」
「元の世界に戻ったら、あの子のこと、よろしく頼むわね。」
「えっ?」
「外の世界から来たあなた達は、元の居場所に帰らなきゃいけない。あなたには、きっとたくさんの待つ人たちがいる。」
「……………」
「素空、短い旅をした大切な仲間として、あなたが大好きよ。」
「…………俺もです。ヤテンさんと出会えて、本当に、よかった。」
「…………いた、……ごいた、そ……そぞ……、そぞ……ろ、素空!!!!」
重い瞼をあける。
ここは?
「あんた、やっと目が覚めて!!!本当によかった!!」
母さんが、目の前で泣いている。
「…………えっ?」




