大切なもの
「ルルー、ご飯よー。」
俺たちは、あの後ルルの様子を見つつ、何ともない生活を送っていた。
「おいしい………」
ルルは俯きながらスープを口に運ぶ。
俺は心配しつつも、特にこれといった声を掛けられずにいた。
そんな様子を察してか、ヨハネさんは、
「時間が解決することもあります。」
と、柔和な笑顔でこたえてくれた。
俺は、魔王を倒す。
きっと、手加減することなどできないだろう。
命を殺めることは、たとえ相手がどれだけ悪党で
あろうとも、それがいいことだとは俺は一ミリも
思えない。
最後まで相手の幸せを、その可能性を
願ってしまうだろう。
「はいはい。1人で抱えこまない。これ。」
ヤテンさんは、階段に座る俺に、スープを持ったき
てくれた。
「ヤテンさんは、凄いですね。俺は、何だか怖くなってきて。」
「私も怖いわよ。」
「えっ?」
「もちろん、わたしも怖い。」
「ヤテンさんも、怖いんですか?」
「当たり前よ。本当は、森のなかでゆっくりと1人で暮らしていたかったわよ。誰かさんのせいでそれも叶わなくなったけどねー。」
「あっ、ご、ごめんなさい。」
「……ふふっ、あなたと出会えて良かったわ。」
ヤテンさんは、ニッコリと俺に微笑みかける。
俺は思わず赤面して、顔を逸らしてしまった。
「さてさて、ルルも後ろで見てるみたいだし、ここらへんで失礼しようかなー。」
ハッと、気づく。
後ろからの強烈な視線に。
「素空!!!」
「は、はい。」
「私、外に散歩に行きたいんだけど!!」
「つ、ついて行こうか?」
「うん!」
ルルは、ハツラツとした笑顔でそう答えた。
花のたくさん咲いた、教会近くにあるガーデンで2人、話をする。
「ねぇ、素空はヤテンさんのことが好きなの?」
「ぶっ……!?」
俺は思わず、吹いてしまった。
「わたし、応援するよ。2人になら、幸せになってほしいし。」
「ルル………」
俺は、足を止めてルルの方に向き直る。
「俺は、ルルも、ヤテンさんも、これまでの旅で出会ってきた全ての人も、みんな幸せにしたい。……魔王を倒して、全ての人が安心できるように。」
俺は拳を下に握りしめて、それを見つめる。
そして、ルルの方をもう一度見て言った。
「今は、それで精一杯だ。すまない。」
「そっか。わかった。」
ルルは振り返って、足を大きく真っ直ぐ上げて歩きながら、目を閉じ軽く上を向いて言った。
「じゃあ、まだ私にもチャンスはあるってことだねー。」
「ちゃ、チャンスって……!?」
「おしゃれ……してみようかな。」
ルルが髪の毛を自分の指で、くるくると回す。
その仕草に俺は少しどきっとした。
「あの、いいと思う。」
「あっ!!!良いって、言ったね!!じゃあ、買い物手伝ってもらおうっと!」
「か、買い物っ!?……わ、分かったよ。着いていく。」
「よし!!決まり、じゃあ行くよ!!!」
「えっ!?今から!?」
「当たり前じゃん!服、選んでもらうから!!」
「えぇ!?わ、わかったよ。」
次の日、ヤテンさんが言った。
「今日、私ね。」
「はぇっ!?」
そんなこんなで、ガーデンのお花に水をやったり、教会近くの村の人の手伝いをしたり、ボードゲームを貸してもらって、3人で遊んだりもした。
「俺たち、こんなことやってても良いのかな?」
「いいのよ。これから大変になるんだから、息抜きしなきゃ。」
ヤテンさんは、
「あっ!?素空、一回休みだよ!!!」
「えっ!?そうだったっけか?」
「そうだよ!休み!!」
「休みと遊びのない旅に、幸福なし。」
「なにかの、ことわざですか?」
「いいえ、いま作ったわ。」
「いま!?」
「出目が6………上がりだ!!!」
ルルは飛び上がって喜ぶ。
こんな時間が、あっても良いのかもしれない。
むしろこのような時間が、照らすべき明日への
道標となって、俺たちは希望を持って明日に向かって、
行けるのかも。
『休まないと、倒れちゃうよ!!!』
ッ!!!???
俺は突然の頭痛に、頭を抑える。
「素空!?大丈夫!?」
ヤテンさんは俺に駆け寄る。
『お願い!休んで!!』
どこかの記憶、一体なんなんだ。
「………俺って、何のために生きてるんだっけ。」
突然不意に、ポツリと、そのような言葉が溢れた。
気がつけば俺は、ヤテンさんとルルに運ばれて、医務室にいた。
「問題ありません。軽い頭痛でしょう、勇者様も連日の戦いで疲れがたたっていたのでは?」
「……はい。そうかもしれません。」
「ごめんなさい。私。」
「ルルのせいじゃないよ。そんな顔しないで。これは、多分俺の問題だ。俺の………」
「ともかく、教会にいる今でよかったわ。完全に治るまで絶対出発はしないわよ。」
「うん。絶対に。」
ルルとヤテンさんは顔を見合わせる。
「申し訳ない……。」
俺はベッドの上、片腕で顔を覆った。
交代交代で、ルルとヤテンさんが看病をしてくれた。
「あの、ただの頭痛だからそんなに看病してくれなくても………」
「ダメ!素空は、昔から無茶ばっかりするんだから!!しばらく、無理にでも休んでもらいます!」
「そ、そっか…….。」
まぁ、仕方がないか。
でも、こうしている間にもやっぱり魔物に襲われている村や町は、存在しているわけで、俺が本当に全力を尽くせば、少なからず多くの出来事は解決してしまうのではないかと、そう思ってしまうのだ。
「………素空はね、人を助けなくてもいいよ。」
「えっ?」
「だって、助けるたびにあなたはボロボロになっていく。ボロボロになったあなたは、それでも困っている人がいたらまた助けに行くでしょ?」
「うぅん……分かんないけど、多分行くと思う。」
「だったら、あなたの事を大切に思っている人のことを一生懸命思い浮かべて。困っている人か、それともあなたが傷ついて悲しんでしまう、あなたにとって大切な人か、素空ならどっちを選ぶ?」
「えっ………う、うぅん。俺は………」
俺は、多分どっちも何とかしようと考えると思う。
大切な人が悲しまないように頑張って、困っている人も助ける。
「どっちもって、答えるんでしょ?だからあなたは………」
「………?」
「うぅん。何でもない。さ、りんご。あーん。」
「も、もう3つ目だよ!食べれない!」
「食べるの!勇者なんだから、たくさん食べて、英気を養わなきゃ!」
「むがが……」




