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佐藤家の見る日常-自衛隊最強の父と異世界からやってきた聖女の母を持つ平凡な僕の青春  作者: 小澤りか


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*** 回想 森の中の三人、世界が少し揺れる(5)


 三人で固まって床下で雨が降るのを眺めている。なんとなく。

口を開くと、探しに来てくれるかな、雨はいつになったらやむかなぁとか考えても仕方のないことをダラダラ話してしまいそうなのが分かっていたから。


「そういえば…凜、今も〈おまじない〉ってしてるのか?」


 だから颯太のいきなりの問いかけに、とっさに返事が出来なかった。

「おまじない? なんだそれ?」

 変な人を見るような目で、僕を見る律。颯太めー!

「こいつ、幼稚園の時に誘拐されかかって山に連れ込まれたことがあってさ。

まぁ、何もなくおばさんがすぐ見つけてくれたんだけど。

それ以降、なんか…凜が怖いなって感じるころに行ったときにさ、おまじないを唱えるんだ」

「へぇ…、どんなの? 誰でも知ってるようなもの?」

 変な人じゃなく、妙に好奇心を刺激された?律は、そういうのに興味があるの?

「え…っと…子供の時のことだから…」

「小学五年生はまだ子供だよ」

 話を濁そうとしたけどダメだった。正論に負けた…。

「多分、ほかの人は知らないかも。颯太も知らないって言ってたし。

母さんの昔住んでいたところの祈りの歌だって、言ってた」

「へぇ…」

「な、久しぶりにおまじないやってみてくれよ。

ほら、ここちょっと怖いっていうか、あんまりきれいじゃないし」

 普段はうるさい颯太が静かだったのはそのせいか。

外で地面に座ってて、雨に濡れてるしね。

こもった空気なのと、山の中なのに不安な気持ちだからか、なんだか心がざわざわしているし…。

「……笑うなよ……」

 上目づかいで見ると、真顔でうなずく二人。

しょうがないな、では、一節。

半目になって両手を組む。母さんに教わった、僕のおまじない。



「ĝá-e za-e uru-mu((ガーエ・ザエ・ウルム)私があなたを守ります)

za-e ĝá-e hé-uru((ザエ・ガーエ・ヘウル)あなたが私を守りますように)

lú-hul-ta za-e hé-uru-en((ルーフリタ・ザエ・ヘウルエン)悪しきものから、私があなたを守れますように)

šag4-me-ta da-rí-šè hé-ḫuĝ((シャグメタ・ダリシェ・ヘフグ)私達の心によって、永遠に安らぎが与えられますように)」



 同じ文言を三回唱える。

母さんのようになめらかに歌うことはできないけど、発音は大丈夫。

久しぶりだったけど、ちゃんと唱えられた。

 この言葉を唱えると、いつも胸の奥が少し温かくなる。

何か良く分からないものが、僕を守ってくれるような―そんな気がする。

おまじないって、すごいなぁ…。



「―――、っていう感じなんだ」


 唱え終わって目を開けて、律を見る。

律の目が一瞬大きく見開いて、「…すみれ色の…瞳?…錯覚か?」瞬きを繰り返しながら小声でつぶやくけど、何を言っているのかよく聞こえない。

「な、変わってて面白いだろ?」

 反対に座っていた颯太が、懐かしぃなぁー何て言いながら僕の唱えた言葉を繰り返そうとするけど、最初の一節も出来てない。そんなに難しいかな?

「…変わっているというより……なんだか知らない言葉みたいだな」

「ん?」

 律らしい感覚だなって思ったけど、知らない言葉? なんだか急に難しくなる。

「もしかして凜のお母さんって、外国の人?」

「まさか!日本人だよ。僕とそっくり」

「……」

 律がもう一度首をかしげる。

「おばさんは北海道出身だって言ってたよ、高校卒業してこっちに来たんだって」

「北海道…。あ、じゃあ、アイヌの言葉とか…そういうのかな?」

「ああ、たぶん。コロボックルだな。」

 律の考察に颯太がいきなり参加した。

人の母親を、UMAにするな、失礼な。

「コロボックル?」

「ほら、大きなフキの葉の下とかにいるって言う、幸運を呼ぶアイヌ伝説の小さな妖精の事だよ」

 自信満々に答える颯太。なぜ正解だと思えるんだ、コロボックル…。

僕も母さんもチビだからか!くっ!悔しい。


「…聞かなかったことにする」

「じゃあじゃあ、卑弥呼の血筋とか」

「卑弥呼の子孫だとしたら、日本人の半数ぐらいが該当するよ」

「えっ?じゃあ、俺も卑弥呼の子孫!カッコいいじゃんそれ」

 本気で喜んでいる颯太を無視して、律は色々考え始めた。

確かに律は頭がいいけど、でも世界中の全部を知っている訳じゃないだろうから…。

「まぁ、何時か分かればいいよ。母さんも、どこで聞いたのかはっきりとは覚えてないって言ってた。

僕と同じで子供のころに聞いたらしいよ」

「そうなんだ…。でも、凜は、気にならない?」

「うん、あんまり気にならないかな?

それが『何か』より『それで何が出来るのか?』の方が気になる。

本当におまじないの効果があるのかなぁ?とか」

 僕の返事に、律はハッとした直後、ふふっと笑った。

「そうだった―――、凜は…そういうタイプだったな」

 ん? 律の思う僕ってどういうタイプなんだ?

平凡で地味な子、だけじゃないの?

あ、でもさっき、優しいって言ってくれたな。―照れくさいけど、思い出すと特に嬉しい。


「おまじないの効果はあるじゃん。

 さっきよりこの中、かなり過ごしやすくなったぞ。

湿気臭くないし、何なら外の雨も弱くなってきてる」

「「え?」」

 颯太に言われて初めて僕は周囲の雰囲気に意識を向ける。

雨は、確かに弱くなってきている。

でもこれって、時間的なものじゃないのかな?

湿気臭いのは…確かに無くなったような気もするけど、慣れただけかもしれない…?

 律も同じように感じたと思う。

数値とか、きちんと測る物や比べる物がないからわからないよ。

あるのは、颯太の野生的な勘だけなので、証明にはならないと思う。

僕たちの表情に颯太はムッとする。

「ホントだって、ちゃんと清潔に変化してるんだから。鈍感だなぁ、お前たち」

「こういうのは本人の感じ方でいいと思うよ。それに僕も…凜の〈おまじない〉は効果があると思う」

 律がおまじないを褒めてくれた。ビックリした。

そういうの、信じないタイプだと思ってたから、すごく意外…。

そして、嬉しいって思った。

 嬉しいって自分自身で思ったからかな?雨の音が遠ざかっていくような気がした。

おまじないの言葉が、山の中に染み込んでいく―そんな不思議な感覚を感じた。


 遠ざかっていくような雨の音を聞きながら、会話が途切れた。

このまま、もしかして夜まで見つけてもらえないかもしれないなぁ…と、ぼんやり考えて、ぞっとした。今はまだいいけど、クマが近寄ってくるかもしれない。

それに僕たちが帰らないと、父さんや母さんに滅茶苦茶に心配され…、あ。思い出した!


「あのさ、ここに僕たちがいるのを見つけてもらうために、歌ったらどうだろう」


 雨の中だったら聞こえにくいけど、今くらいなら…大丈夫な気がする。

それに、助けてーとずっと叫んだりホイッスルを吹き続けるのは大変だ。

だから、歌うんだ。

 誘拐されて迷子になりかかったことを、演習帰りに聞いた父さんがまず言った一言。

『迷子になったら大声で歌えば、どうにかなる』って、無茶苦茶な力業だと思うけど…。

誘拐犯がいたら逆効果では?と、今ならわかる…。でも、今はばっちりな気がする。

父さんのその言葉が、僕を奮い立たせてくれる。

 パッと二人の表情が変わった。

「確かに良いかも。熊よけにもなりそうだ」

「ああー、そうだよな。熊の目撃情報も出てたものな。

よし、歌おうぜ!

何を歌う? 二人は何が歌える? 俺、嵐がいい! 

母ちゃんに聞かされてるからどれでも歌えるぞ!」

「え?まさか一人一人で?」

 ぎょっとする僕。

僕はさっき恥ずかしいけど〈おまじない〉…歌ったんだし。


「せっかくだから、律の歌うところ見てみたい!」

 ニヤニヤする颯太に冷ややかな視線を向けて、律は最も建設的な話をする。

「校歌でいいんじゃないか? 三人で一緒に歌えるだろう」

「うん、賛成!」

「えー」

「嵐が歌いたいなら、颯太が一人で頑張れ。合いの手くらいは入れてやる」

 律の提案にコクコク頷く僕。

ブーブーと文句を言いつつも、結局颯太と三人で、思い切り元気よく校歌を歌った。 



凜の歌は、シュメール語をもとにしています

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