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佐藤家の見る日常-自衛隊最強の父と異世界からやってきた聖女の母を持つ平凡な僕の青春  作者: 小澤りか


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26/35

****夕凪島の嵐(1)

****夕凪島の嵐



『着陸します。衝撃注意』


 CH-47の機内にパイロットの音声が響く。

直後、ズシンと軽い衝撃があり、無事に着陸した。



 〈夕凪島〉というのが、この島の正式名称だ。

地元では〈夕焼け島〉と呼ばれている。

夕焼けが美しいという話だが、観光客が来ない島なので真実かどうかは分からない。

西南諸島・石垣島北西約三十キロに位置する無人島だ。

 周囲約五・二キロ、面積約一・五平方キロメートル。

 戦後すぐ無線中継施設が建てられ、何度か施設を建て直しながら現代まで通信基地として機能している。年に一、二度、定期的なメンテナンス以外は人が立ち入らない。

 島の中央部は標高五十メートル程の丘陵地があり、南は比較的平坦なので、今回の着陸場所もそこだ。

 そして、問題の無線中継施設は島の北端、断崖、岩場近くにある。

本来は、中央の丘陵地に指揮所を設置したかったが、天候の悪化が予測されるので防衛ラインを丘陵地に置き、指揮所は無線中継施設の建屋の中に置くことになった。

 地図上の情報だけではなく、実際に島の様子を確認した上で―――不審船の動きによっては分隊の配置を変えなくてはならない。


 ハッチが開き、春先なのに湿った空気が機内に流れ込む。風が思っていた以上に強い。


「全員、かかれ!」

 俺の号令に、全員が呼応する。機体のローター音で、怒鳴らないと声は届かない。

「「「了解!」」」

 隊員たちの声も必然、大きくなった。

 隊員たちは次々と機体から降り、荷物を受け取る者、機内から物資を運び出す者、それを指定された場所へ振り分ける者と、あらかじめ決められた役割につく。

「日没まで一時間を切ってる! 気合を入れて動けよ!』

 『鬼の矢島』の掛け声に、全員がさらに声を上げた。

「「「了解!」」」

 俺はその場で実際の島の様子と地図の差を素早く確認する。

なだらかな丘陵には低い木々や、まだらに草が茂っていた。これは想定外だ。

地図上にあったはずの作業用通路は、アスファルトを割って生えた植物に覆われ、足元が滑りやすくなっている。

 しかも、丘の木々が強風に煽られ、ザワザワと音を立てている。天候も、予想以上の速さで崩れ始めているようだった。

「矢島、展開内容を一部変更する必要がある。

各分隊から二名、島全体の現状を確認させろ。地図が、古すぎる。」

 最新の正確な情報がないのは大きなミスにつながる。

こんなことで部下を危険な目に合わせるわけにはいかない。

「了解。―――第一分隊、神谷、榊。第二分隊、坂井、藤堂。第三分隊、森下、二宮、二人一組で予定されていた地点と地図の差を確認に向かえ。一人は必ずその場の写真を撮ってこい。急げ!」

「「「了解!」」」

「矢島、後は任せた」

「了解!」

「中原、佐久間ついてこい!」

「「了解」」

 俺と中原二等陸曹、佐久間二等陸曹は通信機材を抱え、無線基地へ向かって走り出した。

風が、機体から離れるにつれてさらに強くなった。


 無線中継施設は、古いながらもしっかりした鉄製のフェンスに囲まれていた。

その出入口はしっかりと施錠されている。

「中原、鍵を」

 那覇で受け取った施設の鍵で、中原がフェンスを開ける。

きしむ音を立ててフェンスを押し開き、コンクリート製の建屋の扉にかけられている南京錠にもう一つの鍵を差し込む。瞬間―――。

「―――隊長、鍵が合いません!」

 焦る中原が真っ青になる。

「別の鍵は?!」

「預かったのは、この二本だけです!」

「くそっ! 佐久間、工具一式は持ってるな?」

「通信設置用のものですが」

 差し出された工具箱を開ける。

レンチがあればと思ったが、必要なサイズのものがなかった。

「これは―――緊急事態だからな、覚えておけよ」

 そう言ってから、小銃の銃床を逆手に握り直す。

直後、思い切り南京錠の根元、扉の掛け金に向けて力いっぱい叩きつけた。

ガツン、と硬質な反動が腕を打つ。

「―――!」

 俺の動きに驚くも、この流れを若い二人はしっかりと覚えようとする。

「くっ」

 すぐに二度、三度と容赦なく打ち据えると、古いネジは引きちぎれ、南京錠ごと金具が吹き飛んだ。

「いくぞ!」「「はい!」」

 扉を開け中に進む俺達。

建屋の中は密閉空間で、かなり温度が上がっていた。埃っぽかったが、定期的なメンテナンスが入るので乱雑ではない。

電源設備のある地下への階段はすぐに確認でき、三人で降りていく。地下はさらに湿っぽく、懐中電灯をかざさないとよく見えない空間だった。

 最初の予定では建屋の見取り図から、ここに指揮所を設置予定だったが、―――変更だ。

電源設備の機材が、記載されていた物よりも新しく、大きくなっている。

新しい蓄電池の数も増えている。この情報も古く不完全だったようだ。


「佐久間、中原、予定変更だ。中原、指揮所は建屋右前方に天幕設置。矢島一等陸曹に伝え、次の指示を受けろ。

佐久間は建屋内で一度本部と通信を繋げろ。情報の更新をすぐに報告する!」

「「了解!」」

 二人に指示を出し、俺は建屋を出て周囲を確認する。

鍵のトラブルはあったが、建物自体に問題はない。

地下一階のあるコンクリート製の建屋と、その上に立つ鉄塔。

その骨組みのところどころに何か塊が見えた。

そうして、次の指揮所予定の空間の反対側には、こちらも地図には記載のない太陽光パネルが数基設置されている。比較的新しい。

パネルから伸びたコードは建屋内に引き込まれ、地下の蓄電設備へ続いているようだ。

「蓄電池に、太陽光パネルか…」

 建屋脇に固定された梯子に手をかけ、鉄塔の足元まで登る。さらにコンクリートの床面を細かく確認して、異常がない事を確認した。

 ふと、足元を見ると、この辺りにいる海鳥の羽が散らばっていた。

骨組みにある塊は、どうやら海鳥の巣のようだ。

 ここに俺たちが駆け込んだ時から空が騒がしいと思ったが、卵や雛を守るための威嚇らしい。今も俺の頭上で大騒ぎをしている。

ちょうどそのタイミングでCH-47が再びローターを回し始めた音が聞こえてきた。

海鳥たちの鳴き声が一段と激しくなる。

 まもなく、CH-47の機体が島を離れるのが見えた。


「―――すまないな、騒がしくて。

しばらく迷惑をかけるが、極力お前たちには迷惑をかけないように努力するよ」


―――ぎゃあああ、ぎゃわあああー


 歓迎してはもらえないようだった。

そうして、家に時々やってくる「ピーちゃん」のことを唐突に思い出した。

白いカラスは、いつの間にか聖華になついていて、名前まで付けて貰って庭先やベランダを我が物顔で陣取っている。

聖華や凜の肩や頭には乗るのに、俺には……懐いてくれない。

あ――、思い出したら落ち込みそうだ。俺は、動物に嫌われやすいのかなぁ…。


「隊長! 指揮所天幕、設置にかかります!」

 連続したトラブルと海鳥の威嚇に落ち込みそうになったが、矢島一等陸曹の声で現実に引き戻された。危ない危ない。

「今降りる!」

 下を見て返事をした視界の端に、一瞬、ピーちゃんに似た鳥を見たような気がした。



 梯子を下りたタイミングで、地図と現状の確認に向かっていた隊員たちが戻ってきた。

全員、表情が暗い。伝わっている情報と現実がかなりずれているのが伝わる。

まず本部への報告をするのはー。

「中原、建屋と周囲を動画で撮って来い。」

「了解!」

 中原はすぐにカメラを持って駆け出した。

建屋入り口にいる佐久間に振り返った。

「佐久間、動画も送れるな?」

「はい、大丈夫です。通信環境、あと十分で整います」

「よし、繋がったらすぐに現着の一報を送れ。」

「了解。」

 天幕を隊員たちに任せ、戻ってきた隊員達からの報告を矢島は地図に纏めて書き込んでいた。内容は、想像以上に―――厄介だった。

「なんだこの、『桟橋』っていうのは?」

 唸るような声になってしまった俺に、第三分隊の森下が叱られたようにビクッとしながら写真を見せ、内容を説明する。

「木製の桟橋です。流木や廃材などを使ってます。年季が入っているようですが、使用可能で、モーターボートや小型船に使用できる状態です。」

 第三分隊の土嚢設置予定にかなり近い場所になる。年季が入ってるなら、不審船絡みで先行して用意したものではないのかもしれないが…。

桟橋の形は分かるが、全体的な配置が分かりにくい。中原に、行ってもらうか。

 更に、第一、第二分隊の撮ってきた写真もぞっとするものだった。

「第一分隊、第二分隊の防衛ライン予定場所は、砂ではなく磯化が進んでます。

また、島を一周して敷かれている作業用の道路が、欠損して海水に浸食されている箇所があります。」

なんだそれは!もう、ほとんどこの地図の意味がないじゃないか?

 矢島一等陸曹と俺は、報告を受けながら広げている地図にどんどんと修正を入れていく。

そして、中原に動画での撮影を頼むべき箇所にも印をつけていった。

すまないな、中原。走ってもらうぞ!

それらと並行して、身動きが出来なくなっている隊員達に次の指示を出さなくてはならない。

矢島一等陸曹は、すぐに各分隊が土嚢の設置個所の場所選定のやり直しが決まるまで対戦車班の重火器の移送、設置の手伝いに回らせ、同時に島周囲の哨戒を指示し、動いた。

嵐の予報もあり、濡れると困る物を天幕に運び込むことも進めさせた。


 本来なら、すぐにでも防衛ラインを構築したかったのに!




「佐藤隊長、本部と通信繋がります!」


 佐久間の声で、すぐに無線機の前に移動する。

 報告し、指示を仰ぐことが多すぎて―――頭が痛くなりそうだ。


「中央即応第二中隊第二小隊、佐藤一等陸尉。夕凪島到着。無線開設しました」


『第十五旅団司令部。佐藤一尉、現着を確認した。』

「現状報告します。」

 さて―――何から話す?

「現在、電波塔施設を確保。

周囲の現地確認を実施中ですが、事前情報との相違が多数あります」

『―――詳細を報告せよ』

 一瞬の間があった。―本部でもこの状況は把握してなかったと言う事か。

まぁ…こんな離島だしな、普段は無人島だものな。

 タイミングよく、中原が建屋と周辺の映像を撮影して駆け戻ってきた。

データを佐久間に渡すように視線で伝える。

直後、矢島は地図上の変更箇所で動画撮影が必要な個所を示す。

「動画で、撮ってこい」

「了解!」

 第一分隊で使用していたカメラを借り、中原は駆け出した。 


「この後動画も付けますが―――」


 前置きしてから、電波塔の建屋の鍵があわなかったこと。

地下の電源設備には、新しい蓄電池が報告書よりも多いこと。

指揮所の設置を地下から建屋横に移動したこと。

建屋敷地内に、記載のない太陽光パネルが数基設置されて、建屋内にケーブルが誘導されていること。

ヘリ着陸地点やその周辺、島を一周して整備されているはずのアスファルト通路の欠損が多く、一部海水が入り込んでくること。

何より、今一番気になるのは、砂浜から磯になりつつある海岸線と、その海岸沿いに、管理者不明の木製桟橋があったこと。

それらに、毎回報告を遮って細かい説明を求められた。

『太陽光パネルはいつからだ?』

「確認できません」

『道路の管理はどこだ!』

「確認できません」

『桟橋はどこが設置した?』

「確認できません」

 確認できません、を何度も繰り返すしかなかった。

無線機の向こうでは、複数の声が飛び交っている。


 そうしている内に、中原が動画を撮影して戻って来た。

佐久間は中原からのデータを受け取り、すぐに送信機に読み込ませ「送れます」と手で合図を送ってくれた。

「動画、写真、用意できました。送ります」

『了解。映像受信中』

 それだけ聞こえて、俺は黙って待つ。

じりじりと、たった数十秒を待つ時間がもどかしい。隊員たちの指示を出し終わった矢島一等陸曹が様子を見に来る。

「回答待ちですか?」

「映像データが多すぎだ。と言うか、報告項目が多すぎるよな」

 向こうに聞こえてはいないだろうが、つい小さな声で返事をする。

苦笑いをしながら、矢島一等陸曹は次の防衛ラインについての案を提案してくれた。短時間に調べ上げ、地図をさらに更新している。さすがだ、ありがたい!


『受信完了。音声に戻せ』

「了解」


ー太陽光パネルの申請は、いつだ?ー

ー通路の管理は、どこに?うちか?国土交通か?ー

―メンテナンスは民間に委託していた?いつからだ?―


無線機の向こうから聞こえる幾つもの声に、俺はスッと無表情になる。

ここは、聞こえていない態度で、一番気になる部分の指示を仰ぐ。


「確認していただいた桟橋は、撤去しますか? 残しますか?」


『現時点で、所有者や構築者が確認できていない。撤去は許可しない。現状を維持して、施設としての扱いを確認する。』

「了解。では―――防衛ラインは、現状に合わせて展開を変更します。」

本来は、あの桟橋のある場所も防衛ラインの中に入っていたのだが、仕方ない。

『承知した。以下、こちらから最新の天気図と、対象船団の動向を送信する。』

「了解」

 音声が再び途切れる。

俺は矢島一等陸曹が用意した新しい配置地図にOKの合図を送った。

うなずき、矢島一等陸曹と中原がここを離れる。

本当に、有能な部下でありがたい!


「隊長、本部からのデータ受信完了しました」

 佐久間に言われ、送られてきたデータの画面を確認する。天気図は十数分前のもの。不審船団の情報は約三十分前のもの。―――確実にこちらに向かっているルートだ。

そして、ここで今までで一番はっきりと不審船団の全体像を見ることが出来た。

「受信完了、―――音声戻します。情報ありがとうございます」

『うちの哨戒機が、かなり近くで捉えたものだ。こちらからの呼びかけには答えなかった。』

ぎゅっとこぶしを握る。

「―――船団の全体は見えました。

少し離れた大型船が、指揮船と認識してよろしいですか?」

『こちらも同じ見解だ。四隻の小型・中型船には人影らしきものは見られない。

今回は見えないが大型には数名の―――小銃と思われる物を構えている影も認識できている』

 自衛隊の哨戒機からの撮影ではなく、もっと上空からの撮影も混じっているのか?

「了解。島周辺の警戒を強化します」

『佐藤小隊長。第二小隊は夕凪島、電波塔の防衛を第一とする。後発は、天候の様子を見ての動きとなる。』

「了解」

 むやみに大人数を投入しても、それがまた火種になってはいけない。

予測できない、何がしたいのかも想像でしかない状態なのが一番タチが悪い。

 地勢的に、隣国側に向かっているなら、向こうでも何らかの反応があるはずだ。

しかしその気配がない。

普段ならピリピリと反応する近海の動きに、ほとんど反応がないというのは、逆に不自然で不安になる。不審船団は補給船との接触もあるようだし…。

 とても嫌な「小さくない悪意」を感じる。


 その直後、無線から再び本部の声が入った。

『天気図では、夜半からの降雨を予想している。長期的な予測では、気圧の変動がさらに大きくなる。明日の朝以降、台風並みの風雨になる可能性がある。

防衛ラインの構築と、資材保管の強化を急がせよ。

通信は常時待機。新しい情報が入り次第、こちらから送る』

「了解。通信は常時待機します」


 もしかして俺は天気にまで嫌われているのか?







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