***『池辺郷土奉仕部』***(1)
僕たちは三人そろって首をかしげた。
良く分からない漢字ばかり、なんだかすごく古臭い様な気がする。
「なんだそれ?池の整理をする部活?
名前から、じいちゃんたちが集まりとか、生存確認とかの部活?」
颯太が思ったままを口にする。
でも、律は少し考えてから、もしかして…と、呟いた。
「池辺と言うのは、このあたりの古い地名、ですよね?
つまりここの、郷土の奉仕?ですか?」
「さすが秋月君。半分あっているよ」
高峯先輩がにこやかに微笑んで教えてくれた。
後は朝比奈会長が説明を続ける。
「戦前から、各学校には校友会と言う、今でいえばボランティアのような組織があって、
それぞれの地域の奉仕活動を行っていたんだ。
この学校では、校友会郷土奉仕部池田班と言うのが正式な名前だが、
生徒間では池辺郷土奉仕部、と呼ばれていたんだ」
「郷土奉仕をするための池辺の特設チーム、と言う形ですね?」
律はすぐにその内容が理解できたみたい。僕と颯太は、まだ首をかしげる。
「…郷土奉仕って……?何をするんですか?」
「ゴミ拾いとか?…池の掃除?」
「颯太、池辺は池の事じゃない。
この辺りの、昔の呼び方だから。きちんと覚えておきなさい」
まずはそこを訂正してから、朝比奈会長の説明が続く。
「池辺郷土奉仕部は、地域の伝統行事や清掃活動などを手伝う部活動なんだ。
しかも、地域の皆さんの困りごとのお手伝いもする。
そんなちょっと特別な活動なんだ」
「「ふーん…?」」
いまいちピンとこない僕と颯太に、律が補足説明をしてくれた。
「毎年、神社でのお祭りや花火大会なんかがあるだろう?
その時、祭りの道具の出し入れの手伝いとか、祭り中に出たごみなんかを集めたりするんだよ。
時々、郷土奉仕部って書いてある半纏とかを着ている人見たことがない?」
「ああ…そういえば……見たような気が…しなくもない…」
この辺りだけじゃなく、市内の色々なところで時期になるとお祭りや、今どきのイベントなんかがある。
みんなそろいのジャンパーや半纏を着ていたけど、いちいち名前まで覚えていなかった。
颯太も同じだ。
「現代の言葉なら、ボランティア、が近いかな?」
あ!それならわかる。さすが律!分かりやすい、イメージしやすいよ。
「まぁ、今はそれでもいいが…。
本来正式には『池辺郷土奉仕部』だからな」
朝比奈会長、正式名称をしっかりと訴えている。
「なげぇよ!短くボランティア部、でいいじゃん」
げんなりした顔の颯太の呟きに、朝比奈会長の目がギラリと光った。
「何を言う!
この池辺郷土奉仕部は、地元民が地元民の為に奉仕をして、
地元の古い街並みや歴史を守るという崇高な目的で大正時代から続いているのだ。
気高き当時の若者たちの地元愛があっての、今の我々なのだぞ!
その気高き先輩たちの中には、私や颯太の先祖もいるのを忘れてはいけないのだ」
朝比奈会長の、変なスイッチが入った気がするくらいの熱弁だ。
「ええと…つまり…祭りとかの手伝いをする部活って、事?」
少し引き気味で、颯太が確認をする。
「主な活動はそうなるが、基本的には『誰かの為に動く』だ」
誰かの為に…動く。
え…すごいな、その考え方。
そんなこと、考えたことが無かった。
あれ?でも…それなら、颯太こそ向いてるんじゃないかな?
小さなころから、今も、頼まれたことは断れない颯太だもの。
まさに、颯太はいつも誰かの為に動いてるよ。
だけど、その結果で僕と律は、それに巻き込まれる気がする。
きっと、「親友なんだから一緒にやろうぜ!」って言うんじゃないかな?
運動部に入る颯太とは、一緒に部活なんて出来ないって思っていたけど…。
もしかして、そんな未来もあるのかも?って勝手に想像したら。
なんとなく胸の奥がワクワクしてしまった。
颯太や律と、同じ部活動が出来る。
それも、誰かの為になる様に動くなんて…。
なんだかすごく、カッコいいかも!って思ってしまった。
誰かの為に動く―その言葉が、僕の中で静かに響いたんだ。
「どうだ?やりがいのある部活動だと思わないか?」
熱の入った口調のまま、朝比奈会長が僕たちの返事を待っている。
だけど、颯太の返事はちょっとびっくりなものだった。
「なんか…名前が古臭いから、ヤダ」
ピキッと、朝比奈会長と高峯先輩のこめかみに青筋が入った。
あー、怒らせた…。
「古臭いとは何だ! 由緒正しい、大切な部活動だぞ!
颯太、お前は仮にもこの土地の由緒ある家柄の人間として、
この地の人々に貢献したいとは思わないのか」
「いや、ただただ、昔から家がここで農家やってるだけだし。
地元貢献とか言われても、古いなぁ―くらいの感覚だし」
ちょっと怒り気味の朝比奈会長にも、颯太は軽く返す。
これ、親戚だからこそできる対応だよ。
僕はハラハラしながら二人を見ているしかできない。
と、律がそこで高峯先輩に質問をした。
「高峯先輩。もしかして、さっき教えてくれた、
朝比奈会長が長く続いていた伝統があるので、自分で部員を復活させて、
継続させたいという部活動は、池辺郷土奉仕部のことですか?」
「あ、ああ。 実は、佐々木君のお兄さんの卒業後は、部員ゼロのままだったんだ」
「え? もしかして、カイト兄、こんな古臭い部活動に参加してたの?」
高峯先輩の話を聞き取った颯太が驚きの声を上げて、瞬間、思い切り朝比奈会長に拳骨を食らった。
ゴン、と言う結構痛そうな音がした。
「颯太ー!お前は!
大河兄さんや海斗兄さんの活動を汚すようなことを言うな!」
「……ごめんなさい…」
朝比奈会長の本気の鉄拳に、さすがの颯太もしょんぼりとする。
小学校の時、颯太がおばさんに怒られた時も、こんな感じだったのを思い出した。
うなだれる颯太を見ていた律が、僕にだけ聞こえる小さな声で呟く。
「……子犬のしつけ教室、みたいだな…」
「―――っ、律…!」
思わず笑いそうになったのを必死に我慢する。
でも、本当に颯太が大きなワンコに見えてしまった。ごめんね、颯太。




