***長男と親友の放課後、部活動の勧め***(3)
「あの! 二年、三年たっても、凜は婿になんて行きませんよ。
そもそも三年たっても未成年です。
民法では満十八歳にならないと結婚は認められません」
「「……」」
律の一言で、朝比奈会長と高峯先輩は目を見開いた。僕も、だ。忘れてた。
「そもそも、凜に頼らないで、自分たちでどうにかしてください。
神社にふさわしい人材が必要なら、自分たちでまず努力をしていくべきじゃないですか?
それこそ、ピーちゃんを懐かせるとか、最速で神主の資格を取るための学習を進めるとか。
いくらでも自分たちでできることはあるはずです」
「ああ…」「む…うぅ…」
朝比奈会長が思わず頷いた。高峯先輩も息をのむ。
凄いよ、律。あっという間に二人を黙らせた。
―なのに僕は情けないままだ…。
本当は僕がはっきりと伝えないといけなかったのに…。
「凜…―――」
律が僕を呼ぶ。どうしよう、もう面倒が嫌だから関わりたくないって言われたら…。
心臓がドキドキして指先が震えた。
うまく話せそうにない、もう何も言えなくて、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
その時、場違いなくらいの明るい声が弓道場の入り口に響いた。
「俺が来たぞー!佐々木颯太、登場! お待たせー!」
五年生の時の、『キャンプでカレー作れなかった事件』を思い出した。
そういえば、颯太って空気読まないけど、本当に困った時にはすごく頼りになるのも思い出した。
律に嫌われた?って言う不安な気持ちは、颯太の声を聴いただけで少し軽くなった。
颯太は靴を脱いで慣れた動きで弓道場の中に入ってきた。
ジャージ姿で、汗をかいていて髪の毛もぐしゃっとなってるから、間違いなく柔道部で少し体験をしてきたんだ…。
がっかりするくらい予想通りだった…。
「待たせたな、凜―――って、ああっ!弓姉ー! 凜をいじめたのかっ!」
大声で朝比奈会長に食って掛かる颯太。
とっさに、高峯先輩がその前に立って会長の盾になる。
僕と律は颯太のいきなりの行動にびっくりして、その場で固まって立ち尽くす。
いじめた?先輩たちが僕を?
メンタルは確かに衝撃を受けたけど、いじめられたわけではない…はず。
ん? 颯太を誤解させてる僕が悪いのか?
「颯太、なに下らない勘違いをしている。
私が大事な婿殿をいじめるわけがなかろう!」
高峯先輩の後ろから朝比奈会長が颯太を叱りつけながら、更に怖いことを口走ってる。
「「婿?」」
颯太と律の声が重なって、更に―。
「朝比奈会長、先ほど求婚は一度断られています!
忘れてはいけません!
このままではストーカーになってしまいます」
「まとわりつかなければいいのだろう?」
「「「そういう問題じゃない」」」
僕以外の、律、颯太、高峯先輩の声が奇跡的に重なった。
―――なんか、すごい。
「とにかく、凜をいじめるな!
婿なんて許さない! 嫁姑でいじめる気だな!」
嫁と婿は違うと思うよ、颯太。
「いじめてなどいないぞ、颯太。見てわからないか?
我々は穏やかに会話をしている。
そもそも何をもっていじめていると糾弾してくるんだ?」
朝比奈会長は、駄々っ子をあやすような口調で颯太に尋ねる。
高峯先輩は颯太に対して警戒を続けていて、会長が前に出ることを許していない。
「今現在、凜が、律にくっついてるじゃないか!それが証拠だ」
「?」
今度は僕や朝比奈会長、高峯先輩が首をかしげる。
律は…平然としてた。
「いいか、凜は、昔から困った時や、からかわれた時や、怖い目にあったときは律にくっつくんだ。
泣くときも律にくっついて泣くんだ。
律がいない時は、俺にくっつくけど、俺達は凜を守ってるんだから、間違いない!」
えええっ! な、なに、それ!?
僕、そんな風に思われていたの?
律は?
律もそう思ってた?
うわぁー!は、恥ずかしい!
って、思ったときに、僕は確かに今律にしっかりしがみついている。
だって、会長と先輩が怖かったから―って、ええ!颯太の指摘した通りじゃないか。
「ご、ごめん、律――り…っ?」
ものすごく恥ずかしくなって、律から離れようとしたけど逆にしっかりと抱きこまれた。
身動きができないくらい強い力だ。
恥ずかしいけど―さっき嫌われたかもって思った分、心の中は少しだけ嬉しいって思って、安心してしまう…。
「律も、凜を守るためにああやって抱き込んでるんだ。
なんたって親友同士だからな。
親友が困ってたら助ける、守るのが当然だろう!」
颯太の言葉に、律が無言で深く頷いた。
顔が…上げられないくらい恥ずかしい…。
僕って、この二人にとって滅茶苦茶守らなきゃいけない存在だと、思われてる?
それはすごくショックなんだけど―――同時にほんの少し…嬉しいと感じてしまった。
「親友と言うには、距離が近い気もしますが…」
ぼそりと呟く高峯先輩の言葉に、颯太は真っ向から反論していく。
「遠いわけないじゃん、近くて当たり前だよ。
だって、親友だよ?一生の友達なんだから。
一緒にいるんだから、心から信頼して、大事に思っていて。
なにがあってもお互いが大事な存在なんだから。それが親友だろ?」
「…颯太、それは男女間の恋愛と何が違う?」
朝比奈会長が首をかしげる。
「ん? なんでそこで男女の話になる?」
今度は颯太が首をかしげた。
「俺は凜や律が好きで、大事だから親友って思ってるって言う話だよ?
男女の話は別じゃん?
そもそも、弓姉は、凜が好きで婿にしたいわけじゃないだろ?
そんなの、俺の凜に失礼だよ!」
「ぐっ―――、くぅ…一族で一番のチビが…妙な正論をぶつけてくる!」
朝比奈先輩は悔しそうに唇を尖らせるけど、颯太はまったく気にしていない。
「とにかく、凜は婿にはならない。
俺と律と、ずっと親友のままでいるから、弓姉には譲らないよ」
ふんっ!と鼻息を荒くして断言する颯太。
そうして、それが当然と言う顔で律ごと僕を抱きしめた。
「…なぜ僕まで…」
律が又ぼそぼそっと文句を言うけど、本気で嫌がっているわけではなさそうだった。
本気で嫌だったら、いつもの律なら颯太のあごにパンチを入れる。
「いいじゃん、うーん、久しぶりに凜だぁー」
僕は何かの小動物なのか?
グリグリと抱きついてくる颯太に、僕も律ももう何も言えなかった。
実際、朝比奈会長も高峯先輩もすっかり気をそがれたみたいで、無言のままだ。
弓道場の空気が、ようやく静かになった。僕たちの関係も、少しだけ落ち着いた気がした。




