***長男と親友の放課後、部活動の勧め***(2)
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「おや、高峯氏、何かもめごと―――?」
涼やかで張りのある声がして、弓道場の入り口に朝比奈会長が現れた。
そして、僕を見つけた会長は、控えに正座している僕たちの前に仁王立ちした。
スカート丈が短くて膝が見える…。
会長!今日は学生服なので、その立ち位置は目のやり場に困ります。
「昨日はすまなかった、佐藤凜! 良かった。
今日は謝罪をさせて欲しいと思っていたんだ。
君が下校する前に教室へ行こうとしたら、生徒会の用事が出来てしまい、その後教室を覗いたらすでに姿はなかったので諦めていたんだ」
「…あまり謝罪をする態度じゃないですよ、朝比奈会長」
「り…律…!」
不機嫌モード全開の律が、会長のスカートなど気にも留めずにらみ上げる。
眼鏡が漫画みたいにきらりと光った気がした。
「ああ、それは失礼した。―っと、君はもしかして秋月律氏、であっているかな?」
「はい、あっています」
朝比奈会長は、僕たちの前で正座をする。
何故かその隣で、高峯先輩も正座になった。
「では、改めて名乗らせてもらう。
朝比奈弓月だ、佐藤凜、そしてその親友の秋月律、今日はわざわざ足を運んでもらって申し訳ない。
本来は私の方から謝罪に行くべきだったが、このような形になってしまった。
まずはその点を謝罪する」
これが本物の土下座なんだ…と思った。
でも、頭を下げているはずの朝比奈会長は何故か堂々としているように見えた。
僕も律も、どう返事をしていいのかわからなくて無言になる。
「続いて、昨日の件だ。
きちんと見学をさせることが出来ず、またこちらの混乱のせいで、何も説明が出来ず。
すべてが有耶無耶で帰してしまい、本当に申し訳なかった。」
もう一度、気が付くと高峯先輩も一緒になって頭を下げている。
「……ええと…」
本当は勝手に帰ってしまって申し訳ありません、って僕の方が言いたかったのに…。
どうする?どう返事をしたらいいんだ?
混乱する僕の隣で、律が一呼吸おいてから話し出す。
「分かりました、お二人の謝罪を受け入れます」
そうか!そう答えればいいのか!さすが、律!
「それと、こちらからも一言謝罪をさせていただきます。凜、―」
出来るか?って言う律の視線に頷いた。
「僕の方こそ、昨日はなにも言わずに勝手に帰ってしまってごめんなさい。
あと、僕は、純粋に見学が希望なだけで、入部は―まだ考えてませんでした。
なので、ごめんなさい」
僕も先輩たちの真似をして床につくくらい深く頭を下げた。
隣の律は、…あと一息だったなって言う気持ちのあらわれた、ため息をついていた。
何か間違えたかな?ちゃんと謝ったつもりだったけど…。
「そうか、では双方で遺恨はないという形で手打ちとしよう。
心が広いな、佐藤凜」
顔を上げた会長に、にこやかに、本当に花が咲いたみたいな綺麗な笑顔を向けられてびっくりした。
思わず、焦って僕も改めて挨拶をしてしまう。
「あ、ええと、改めまして、佐藤凜、です。
こっちは、し…、親友の秋月律です。よろしくお願いいたします」
名乗ってから頭を下げる僕。
初めて、律のこと『親友』だって他の人に紹介しちゃったよ。
物凄く照れ臭い…、颯太、よくこんなこと毎回言えるなぁ。
あれ?でも、律は背筋を伸ばしたまま、まっすぐに会長をにらむように見ている。
会長の隣の高峯先輩が、律のそんな様子に眉を寄せ声をかけようとする。
「秋月君―」
「……秋月律、です。
今日は、凜の付き添いできました」
高峯先輩よりも先に、律が改めて会長に挨拶をする。
「ほう…、さすが、親友、だな」
「はい、そうですね。
凜は大切な友人ですから、困っている時は手助けをしたいと思っています。
特に、凜はお人よしでだまされやすい部分がありますから。
年上の異性に結婚を迫られて困っているようだったので、大変心配をしていたんです」
「―――律…?」
きらり、と朝比奈会長の目が光ったように見えた。
高峯先輩の表情も無くなった。
律…なんで思い出させるんだよ。
このまま、全部なかったことにしたかったのに…。
うやむやで、やり過ごそうと思ってたのに…。
空気が読めないのは、颯太だけだと思ってたのに…、なんで?
高峯先輩が小さく咳払いをした。
ごめんなさい、律が余計なことを言いました。
「はははは、そうか。
年上の異性は、佐藤凜の好みではないのか」
朝比奈会長は、美少女とは思えない豪快な声で笑ってから、改めて僕に話しかけた。
「え?ええええっと…え?なんで?」
なんでそんな話になるの?
「よく考えろ、佐藤凜。私はお買い得だぞ。
家はあるし、財産もそれなりにある。
君はわが神社で過ごすだけでいいんだ。
面倒なことは何もない。
白烏さまが認めた君なら、一族で歓迎するよ」
ブンブンブンブンと、目が回りそうになるくらい首を振った。
驚きすぎて、思わず立ち上がって朝比奈会長から距離を取る。
律も同じように後ろに下がる。
ええと、確か僕は今日は、弓道の見学と、入部は保留でって言う話をしに来ただけで…。
なんで今、け、結婚の話とか、してるんだ?
「なんだ、私の顔は悪くないと思うのだが、好みではなかったか?」
ズイッと、立ち上がった朝比奈会長の顔が目の前に迫った。
反射的に律にしがみついて、僕はまたぶんぶんと頭を振った。
「無理無理無理無理無理、無理です!
ぼ、ぼ…僕なんかより―――
た、高峯先輩の方がずっと朝比奈会長におにあいです―――」
「「―――」」
ぎゅっと目を閉じて叫んだ僕には見えなかったけど、朝比奈会長と高峯先輩が同時に息をのんだ。
表情から感情が一気に消えた。
「高峯先輩は、朝比奈会長の相棒なんですから!」
振り切った勢いで、僕は思い切り叫んだ。
「……ん?」
少し間があって、僕はそっと目を開けた。
朝比奈会長と高峯先輩が、無言になってお互いを見ている。
そして、二人とも動かない。
僕は、そっと律を見上げて「僕、何か間違った?」と小声で訊いた。
律も無表情になっていたけど、フッと息を吐き「大丈夫だと思う」と答えてくれる。
「と、とにかく…ええと…。朝比奈会長、―見学をしてもらいましょう。
入部は強制ではありませんので、本人の意思に任せる、
―――それと、結婚の申し込みは拒否された、との認識をしてください」
その声に反応するように、高峯先輩がようやく動き出して現状の整理をしてくれた。
まだ少し呆然としている朝比奈会長は、二三度瞬きをして、僕と律、それから高峯先輩を見比べてから、ゆるく頭を振ってため息をつく。
「――――高峯氏、つまり私はフラれてしまった、と言う事か?」
いやいや、フラれたとか…じゃなくて。
まさか、本気だったわけじゃないよね?
「はい、確かに。佐藤凜君はあなたの求婚を断りました。
現実をきちんと認識してください、朝比奈会長」
高峯先輩がはっきりと告げる。
しかし、なぜだ?と繰り返す朝比奈会長はまだ納得していない様子。
どうしてそんなに、僕にこだわるのかな?
もしも、ピーちゃん(白烏)が気に入ったなら、ちゃんといいきかせて神社にいるように説得するよ、母さんが…、と内心思ったけど。
逆にもっと混乱しそうだから、今は黙っていよう。
「理由が必要でしたら、明日までにレポートをまとめて提出した方が良いですか?」
律が冷静に朝比奈会長に提案する。
「そのレポート、僕が書くの?」「僕が書くから大丈夫だ」小声で話す僕らに、高峯先輩が苦笑しながらそこまでは必要ない、と言ってくれた。
高峯先輩、やっぱりいい人ー!
「しかし、高峯氏、我が朝比奈神社の為に、諦めるわけには。やはり眷属様のー」
「会長、焦ってはいけません。
今は時期が早いだけです。
彼はまだ中学一年生です、もう二、三年もすれば、きっと会長の魅力もきちんと伝わるでしょう」
え?つまりまだ諦めないってこと?高峯先輩、いい人だと思ってたのに…変な人?
「自分でどうにかしたらいいのに…、情けないな…」
ぼそっと呟く律の声。
あ、僕?僕が…変なことに巻き込まれてるのに、きちんと対応できないから、律が…怒ってる…?
キュッと心臓がすくみ上った。
「り…つ…ごめ…、ごめん…。変なことに巻き込んじゃって…」
やばい、涙が出そうになる。
声が震える…。
律の顔を見て謝りたいのに、いつもみたいに俯いてしまいそうになる。
律の沈黙が怖い。怒ってるのか呆れてる?それすら、分からない。
僕は、本当に―情けないままだ。




