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佐藤家の見る日常-自衛隊最強の父と異世界からやってきた聖女の母を持つ平凡な僕の青春  作者: 小澤りか


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***長男と親友の放課後、部活動の勧め***(1)

***長男と親友の放課後、部活動の勧め***



翌日の放課後、僕は弓道場へ向かった。


昨日よりも風が柔らかくて、空も明るいから気持ちが軽い。

 昨日は図書館から向かったので迷子になったんだろうと言って、最初から律が一緒。

颯太は、今日予定だった柔道部(なぜ柔道部?と思ったけど、同じ班の子に誘われたらしい)に今日は体験が出来なくなりましたと伝えてくると言って(こんなところはとても律儀だと思う)別行動になっている。

 颯太だからなぁ…なんとなく、そのまま柔道部でちょっとだけって体験を勧められて、こっちのこと忘れそうだなぁ…って、律と意見が一致していた。

 まぁ、颯太がいなくても隣には頼りになる律がいるから平気。


 そして、そんな律はすこぶる勘が良い。

歩きながら、ポツリと僕に尋ねた


「…迷ってる感じ?」

「………迷うって言うか……」

 颯太は完全に僕が弓道部に入るって思ってるみたいだから、言えなかったけど…。

 今朝、母さんが作った律の分のお弁当を渡したときに、こっそりと、今の僕の考えを話した。

 そう、入部は保留―って言うか、僕には無理だよなぁって言う気持ちの方が強い事。

本当は何か一つ、部活動に入るのが学校の決まりみたいだけど、読書クラブとか、文芸部とかもあるって言うから…そこに入ってひっそりと過ごすのも良いかなって…夕べ気が付いたんだって言う事。

 一人でできる事、誰とも競い合わないのが、僕に向いてるって思うから。


「…凜の考えた結論なら、良いんじゃない?

でも、一応、弓道部の見学は希望するだろ?」

「あ、うん。見学は、したい」

 律は全部わかってるような気もする。

今日は昨日黙って帰ってしまったことを謝って、可能なら練習を見学させてもらって…帰宅する。

 僕は、あの弓矢の出す音をもっとしっかりと聞きたいなって思っていた。

自分ではできないって思ってるからこそ、凄く憧れてしまってる。

 


 学校の敷地内なのに、弓道場は校舎からはちょっと離れていて。

昨日は良く一人で生徒玄関まで戻れたなぁって思うような小道を通って、到着した。

耳を澄ますと、かすかに空気の裂ける音と、的を射抜いた音が聞こえてくる。

昨日とは僕が立っている場所が違うからなのか、ちょっと音が違うような気がする。

 それでも、やっぱり―――いい音だなぁ…。

ずっと聞いていたい、耳の奥に染みる音だ。

律も初めて聞いたらしく、息を止めて耳を向けている。

 さすがにずっとこのままだと、今日の目的が達成しない。

なので、入り口に立って、中に声を掛けた。


「すみません、失礼しますー、昨日お邪魔しました、佐藤ですー」


 奥の張りつめていた空気がパッと散ったのが分かった。

小走りで入り口にやってきたのは、高峯先輩だった。今日は先輩が道着を着ている。

わぁ…学生服の時よりずっとカッコいい気がする…。


「佐藤君…来てくれたのか」

 ホッとした顔で僕を見て、そうして隣にいる律にも気が付いた。

「君は…佐藤君の友人かな?あ……もしかして、秋月律君か?」

 凄い! 名乗ってないのに、律のことが分かるんだ。

「あれ?律、先輩と知り合いだった?」

「いや…違うと思う、もしかして…凜の関係で僕の事きいてますか?」

 律の返事に、高峯先輩はしっかり頷いた。

「正確には、佐々木颯太君関係、と言うべきかな?

 朝比奈会長から、君たち三人が良く一緒にいると聞いていたんだ。

改めてよろしくお願いします。

昨日は挨拶らしいことがなにも出来ていなかったし。

その…ゴタゴタしてしまって申し訳なかったね。

高峯だ。高峯航平、三年だ」

 とても同じ中学生と思えないくらい、しっかりとした挨拶だった。

昨日の朝比奈会長と比べても、全然違う…。

朝比奈会長と高峯先輩……まるで正反対な二人だなぁ…。

「ええと、改めまして。佐藤凜です、こっちは友人の―」

「秋月律です。よろしくお願いします」

 二人そろって、高峯先輩に礼をする。

先輩は靴を脱いで道場に入るのを勧めてくれた。

板張りの道場の奥には、昨日も見た的が五つ並んでいた。


「さっきの弓の音は、先輩ですか?」


 律が興味深そうにあたりを見回しつつ先輩に聞いている。

僕も、昨日はほとんどどこも見られなかったからついきょろきょろしてしまった。

「ああ、私だ。部長なのだが、まだ朝比奈会長の様には打ち込められないところだ」

 人が違うと、空気の音も変わるのかな?不思議だ…。

ちょっとぼんやりして音の違いを考えていたら、律が肘でツンツンと合図を送ってくる。

そうだ、僕には大事な謝罪があったんだ。


「あ、あの、高峯先輩。

昨日は…その、勝手に帰ってしまって申し訳ありませんでした」

 腰の曲げを直角にして僕は深々と頭を下げた。

「いや、佐藤君が謝罪をする必要はない。

かえってこちらこそ、朝比奈会長に巻き込まれて、申し訳なかったね」

「―その、朝比奈会長は、今日は?」

 律が周囲を見回し、高峯先輩だけなのを不思議に思ったみたいだ。

「生徒会の仕事が残っているので、少し遅れると聞いている。会っていくかい?」

 大丈夫かな?と言う顔をされてしまった。

確かに昨日の様なテンションだと、一人では怖いけど…今日は大丈夫。―きっと。

「はい、朝比奈会長にも謝罪したいです。

あと…良ければ、近くで先輩が弓を打つところ、見ていてもいいですか?」

 見学って言う言葉は避けて聞いてみると、先輩はあっさりと了承してくれた。

「大丈夫だよ、『見学したら即入部』なんて、僕は言わないから。

そもそも、朝比奈会長は弓道部の部長じゃないし、誰も強制権はないよ」

 高峯先輩、やっぱり普通の人だ。良かった。

ホッとして、僕と律は『控え』に案内されて正座をしながら高峯先輩の動作を見学させてもらった。

パイプ椅子もあったけど、なんとなく雰囲気でこの方が良い様な気がした。

 射場に立った高峯先輩は本当にカッコよかった。

道着が似合っていて、立っているだけでも雰囲気がある。

 弓を引く高峯先輩の背中は、少しの無駄もない。

流れるように動く腕は弓と一体で、呼吸そのものがその中に包まれていくように自然だった。

矢を放つ直前の空気が、透明さを増してきりりと引き締まる。

時間さえ止まるようだ。

そして―。

放たれた矢は、ヒュンと高い音を立てて空気を裂き、的に吸い込まれ、少し遅れて、パンッという音が響く。

この音…昨日の朝比奈先輩と少し違うけど、でもこちらの音の方が少しだけ重いように聞こえた。

男女の差、なのかな?それとも…その人の心のカタチ?


 放った五本の矢は、殆ど的に当たっている。

中心でないのを悔しがっている感情は感じるけど、でも表情には出ていない。

凄いなぁ…と、律と二人で息をのんでみていた。


「すまないね、なかなか会長の様にすべてが真ん中にはいかないんだ」

 控えに戻った高峯先輩は苦笑まじりだ。

でも、僕も律も、的の真ん中かどうかは良く分かっていないし、何よりも動きの一つ一つにドキドキしていた。

「朝比奈会長は、すべて真ん中に当たるんですか?」

「ああ、ほぼ。

だから―弓道部の部長も、彼女の方がふさわしいと思うのだが…。

去年、急に、生徒会長になるので、部長はやらないと言い出したんだ」

「「え?」」

 生徒会長になるのって、そんな思い付きで良いの?で、それで会長になれちゃうの?

やっぱり朝比奈会長って……怖い。凄いけど、怖い。

「何か理由があったんですか?」

「…まぁ、部員ゼロの部活を復活させたいと言い出して…」

「「ええ?」」 

 それが生徒会長になる理由なの?

わかるのは、やっぱり朝比奈会長は変わってるって言うのが再確認できたこと。

「うちの学校、基本的に部員がゼロの期間が三年以上あったら無くなってしまう。

どんなに伝統がある部活でもね」

「…新しく作ることは出来るのでは?」

 律の質問に、高峯先輩は大きく頷いた。

「ああ、それは可能だよ。

でも、長く続いていた伝統なんだから、自分で継続させた方が良いというのが、朝比奈会長の判断だった」

 継続…かぁ。

昔からの伝統って…考えたことなかった。

消えちゃったら、また復活…って言うわけにはいかないんだろうか?

「誰かに、次世代に期待するよりも、自分で動く人だから。会長は」

 僕の考えてたことが分かっているように、高峯先輩が言葉を重ねた。

「朝比奈会長の行動、良く分かっているんですね」

 ぽつりとつぶやく律に、先輩は難しい顔をして大きく頷いた。

「正直すぎるくらい何事も正面からの人で、おまけにひどくお節介でもある。

目の前のことに集中すると他が何もできなくなるし、責任感が強すぎるんだ」

 褒めているのか、貶しているのか、良く分からないけど…。

高峯先輩がすごく会長のことを理解しているのはわかった。

「だから、高峯先輩みたいな相棒が必要なんですね! 颯太に、律が必要な感じだ」

「「まさか!」」

 高峯先輩と律がそろって叫ぶ。そうかなぁ?

 中学に入ってから、颯太はクラス委員長でぐいぐい皆を引っ張って、律は副委員長になって颯太の暴走を抑えている。―――似てると思うんだけどなぁ…。




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