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佐藤家の見る日常-自衛隊最強の父と異世界からやってきた聖女の母を持つ平凡な僕の青春  作者: 小澤りか


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***長男帰宅―不吉な予感と父


***長男帰宅―不吉な予感と父




「ただいまー」


 玄関を開けると甘い匂いがしてきた。

母さんがお菓子を焼いているみたい。

あれ?父さんは演習で暫く帰らないから、そんなに急いで作る理由なんてないはずなのに…。

でも、うまくいったら僕も少し味見できるかな?

 明日は弓道部に付き合ってくれる颯太や律にお礼として渡したら喜んでもらえるかな?


 何を焼いてるんだろう?って思いながらキッチンを覗くと、母さんは一心に粉を混ぜていた。

テーブルの上には山盛りの焼き菓子が並んでいる。

マフィン、クッキー、サブレ、ビスケットと…パウンドケーキまである。


―何かあったのかな?

 急に不安な気持ちが沸き上がる。

これ…前にも、…あった…やつだ。


「―――母さん、ただいま」

「―――あ、凜…。おかえり」

 僕の声に顔を上げた母さんは、直ぐにいつもの優しい顔になる。

でもみちゃった。

一瞬だけ、凄く悲しそうな眼をしてた。

その表情が胸の奥に小さく突き刺さる。


「お菓子…父さんの? 追加分?」

「………」

 困ったように笑う母さんは、小さくうなずいた。

「二週間くらいの演習の予定だったんだけど…」

 それ以上は言わなくてもわかるから、僕は精一杯、笑う。

何でもないふりをしつつ、きっと大丈夫だよって言う気持ちを込めて笑ってみせる。


「しばらく携帯もつながらなくなるって…、行先も任務の関係で言えないんだって」

「………、そうなんだ…。仕方ないよね、仕事だものね」

 ごめんね、母さん。

僕だと、それ以外の慰める言葉が出てこないや。


「…そう、だよね。お仕事だものね…仕方ないよね…」

 しょんぼりしながら、もう笑うのも諦めた母さん。

長く最強自衛官の嫁なのに、こんな事じゃダメね、って言いながらジャムクッキーをオーブンに入れた。

 何か母さんの気持ちをそらすことを話したいのに、僕はまだうまく言葉を見つけられない。


小さなころは、母さんと一緒になって悲しい気持ちでべそべそしたけど…。

 父さんがいない間は、僕が母さんを守らないといけないんだ。

父さんとの約束だから絶対守らないと。


母さんの笑顔を守るのが、僕の任務なんだから。


「ーあ、残念! 父さんが帰ってきたら、僕も携帯欲しいってお願いするつもりだったんだよね。

颯太も律も、今度買ってもらうことになったって言ってたから、僕も…」

―絞り出した言葉がこれとは…我ながら情けない。

「……、そうなの? 颯太君も律君も持つなら…。

凜も絶対、欲しいわよね。三人は親友なんだし…」

 あれ?意外に、意識をそらすのに成功した?



 ちょっとだけ笑顔になった母さんは、その後焼きあがった大量のお菓子をダンボールに詰め込んだ。

どうやら父さんが、強権発動?をして追加の荷物を送ってもらえるようにしたらしい。

 大人の言葉だから良く分からなかったけど、夜になってから、若い自衛官の人が「申し訳ありません」と恐縮しながら荷物を受け取りに来た。

父さん、なにやってんだろう…若い人に無理させちゃだめだよ。

 そして、僕も、少しおすそ分けしてもらって、明日は颯太や律にお礼が出来る。


母さんは、またすぐ寂しそうな顔になってたから……今夜だけ、一緒の部屋で寝てあげることにした。

 すごく久しぶりで恥ずかしかったけど、今日学校であったことを話した。

また、ピーちゃんのことを話したら

「学校までついて行ったの?ふふ…食いしん坊ね」

ーって笑ってくれて安心した。

 明日はもっと、ちゃんと笑って話せるように…、そう思いながら目を閉じた。






 ――深夜


 凜の寝息を聞きながら、聖華は静かに起き上がった。

どうしようもない胸騒ぎに、押しつぶされそうだった。

 今までも、急な演習の移動や延長はあった。

聞いた瞬間は凄くびっくりして寂しくなった。

でもきちんと帰ってきてくれると「わかって」いるから耐えられた。


けれど、今回は―――。たまらなく胸騒ぎがした。

世界が、危険だと伝えてくる。

空気が、深く強い悪意を持って動いている。


わずかに開いたカーテンから月の明かりが室内に入り込んでくる。

「豪さん…」

 そっと窓辺に立ち、静かに祈りの言葉を紡いだ。


「kal-la-ĝu10 mu-un-zu-šè(カルラグ・ムンズシェ)silim-ma-bi ĝá-e-šè hégál-gi4(シリンマビ・ガーエシェ・ヘーガルギ)私の大切なあなたが私のもとへ無事に戻りますように)

dUtu za-e hé-uru(ウトゥ・ザエ・ヘウル)太陽があなたを守り)

dNanna su-zu hé-búr(ナンナ・スズ・ヘブール)月があなたの体を癒し)

dMul-mul šag4-zu hé-è(ムルムル・シャグズ・ヘエ)星があなたの心を照らしますように)

An-an gal-gal-e-ne(アンアン・ガルガルエネ)天の神々よ)

ki-áĝ-ĝu10 hé-en-kal-kal-ge-ne(キアング・ヘエンカルカルゲネ)私の最愛を守り慈しみたまえ)」


 聖華の想いが夜に染み込んでいった。


月の光が、まるでその祈りを聞き届けたように淡い輝きを増した。



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