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佐藤家の見る日常-自衛隊最強の父と異世界からやってきた聖女の母を持つ平凡な僕の青春  作者: 小澤りか


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***『長男と親友達の放課後』現在 ***(1)

***『長男と親友達の放課後』現在 ***



「凜がどんなことに悩むのかは、ちゃんとわかってるよ、親友だからね」


 小学五年生の時の恥ずかしい過去を思い出し、真っ赤になってる僕をさらに追い詰める律。

くぅ…―――顔を隠しているけどやっぱりハンサムは、言動までハンサムだ。

颯太といい、律といい、二人とも僕を「保護対象者」としてみてる気がする。

まぁ、まだ颯太のような強引さではないけど、颯太よりも…律の言葉の方がメンタルに響く。

嫌なわけじゃないけど、僕、あのころからあまり成長していない気がして、ちょっと焦るんだ。

 一人で起きられるようになったけど、それだけだな。


「やっぱり、ずるいな. 律は…」

「ん?」

 ちょっとだけ愚痴る気分でため息交じりで肩を落とす。

「僕は、やっぱりまだ全然成長してないんだなぁ…って。

律や颯太に、いまだに心配されてるくらい危なっかしいんだろう?」

 颯太が僕を頻繁に部活動に誘うのはそれが原因だよな、きっと。律は、はっきりとは言わないけどやっぱり心配しているんだ。

僕の人見知りとか…断れない性格とか、人付き合いの下手さを。

「いや、どちらかと言えば危なっかしいのは颯太の方だな。

勢いで乗り切ろうとするのは小学生と同じだ」

「あ、確かに。颯太はずっとそうだね。

勢いで押し切ろうとするから、僕も律も巻き込まれてるよね、毎回」

「凶暴な台風みたいな性格だよな、あいつは」

 いろいろなことを一緒に思い出して、それでも颯太とずっと友達でいる僕たちはやっぱり親友、だからなんだろうな。

「それに、凜は颯太よりは成長していると思うよ。

今朝だって、ちゃんとサッカー部の勧誘は断っただろう。

前だったら、結局ズルズル付き合ってたんじゃないのか?」

「…それは…そうなんだけど…。

あそこで、律が止めてくれなかったら、ズルズルしたかもしれない………気もしてる」

 これは本当、颯太パワーには、やっぱり勝てないんだよな。

言いたいだけ言うけど、でもなんとなく丸め込まれてしまう感じ。

…颯太の勢い、怖いよ。

「それだけ、颯太が凜のことを大事だと思ってるってことだよ。良かったな」

 ぽんぽんと、僕の頭をなでるのはやめて欲しい。

チビなのを実感しちゃうから。

「颯太はそうかもしれないけど、律も?」

「―――そうだね、そうだよ、親友だろう?」

 ちょっと間をおいて答える律。

くそぅ…妙に大人っぽい返しをする。

チビでそのうえ、僕はまだまだ子供っぽいなと思った。


「で?どうする?

 僕は、帰る前に科学部を見てこようと思うけど。一緒に行く?」

「―やめておく。

興味がない…って言うか、あ、放課後も勉強するみたいなのは嫌かなって思うから。

でも!帰りは一緒に帰りたいから、図書館で待ってるよ。

それに、読んでみたい本があるかもしれないし。

図書館は小学校より断然蔵書が多くて、入学した時から気になってたんだ。

昭和のころの推理小説もあるって聞いてて―――」

 僕は断る理由を一気に吐き出した。早口になって説明をする。

律の返事は凄くあっさりだけど格好良かった。

「いいよ一緒に帰ろう。

凛、断るの、うまくなってるよ。

それと、無理に断る理由をつけなくても、僕は気にしないから安心していいよ」

「…律は―――やっぱり、ずるいよ…」

 本当に同じ中学一年生なのかな?

僕、ますます自信がなくなるよ…。



 生徒玄関で待ち合わせをすることにして、僕は図書館へ向かった。

 律に説明したようにここは蔵書が豊富で、実は入学前から楽しみにしていたんだ。

読書が好きって言うよりも、一人で遊べるのが本を読むことくらいだったから必然だね。

もともと、母さんも読書が好きでよく図書館に連れて行ってくれてたから、本がたくさんある場所は落ち着くんだ。

意外だけど、母さんはSFとかミステリーが好きなんだ。

昔から、異世界物が大好きだったって。

 僕はまだ読んだことがないけど、もしも図書館にあったら読んでみてみようかな…?

なんて思いながら本棚をぐるぐる回ってみる。


 図書館にはほとんど人がいなかった。

奥の机で上級生がノートを開いて、宿題をしていて、もう一人の生徒は静かに本を読んでいる。

少し古い本の紙の匂いが鼻をくすぐる。

少し薄暗いけど、夕暮れ近い柔らかな茜色が入ってくる空間は、それまでの小学校の図書館や市の図書館とは全然違った。

凄く静かで、落ち着くなぁ…。 

 その中で、気になる昔の推理小説を二冊手にして貸し出しカウンターに向かっている時に、空いている窓の方から不思議な音が入ってきた。



      -スパーンッー

  


 耳を澄ますと、ヒュン、という空気の音の後で聞こえる音。


              -スパーンッー

-スパーンッー



 何かがぶつかる、重いけれど響く音が、少し時間をおいて連続で続く。

初めて聞く音だった。

 窓の外を見ると、木造の建物が林の先に見えた。

どうやら学校の、何かの建物から聞こえてくる音の様だった。


「なんだろう…?」



 受付カウンターで昔の推理小説の貸し出しの処理をしてもらってから、僕はもう一度窓の方を見る。

音はまだかすかに聞こえてきていた。

「耳がいいのね、あの音、聞こえるの?」

「は、はい…」

 上級生の女子生徒が小声で教えてくれた。

「弓道部の練習の音よ。今日は特に静かだから、聞こえてくるみたいね」

「弓道部…」

 そういえば…この学校にも部があったんだ。

近所には地域クラブもあって、たしか颯太の上のお兄ちゃんがやってるって、聞いたことがある。

一度も試合とか練習は見たことが無かったけど、こんな音がするんだ…。

道場から結構離れているのに、細い矢がこんな音を出すんだって思ったら、

なんだか不思議な気持ちになった。


「よかったら、見に行ってあげて。

私の同じクラスの子が、たぶん一人で練習しているのよ。

今年も新入生が一人も入らなかったって嘆いてたから」

 上級生はにっこり笑って勧めてくれた。

ありがたいけど…。

「え…でも、僕、運動とか凄く苦手で…」

「いいのよ、みるだけでも。

矢の音が聞こえたのは、何かの縁よ」

 先輩はそれでもあきらめないで勧めてくる。

「弓道に必要なのは、運動神経とか筋力じゃなくて、自分を見つめる心なんだって。

それに新入生が誰も見に来てくれないって言うよりは、

ちょっとでも興味を持ってもらえると嬉しいみたいよ」

「……はぁ……」

 先輩の言葉が僕の胸に小さな波を立てた。

風を切る音、矢があたる音。

かすかな音なのに、なんとなくもっと近くて聞いてみたい、見てみたいって思ってしまった。

「じゃぁ…ちょっと覗いてみます……」

「ありがとう、何時か感想も聞かせてね」

 先輩に強引に勧められたって言い訳が出来た僕は、少しだけドキドキしながら弓道場へと向かった。

風の音は、まだ耳の奥に残っていた。





 弓道場は校舎から少し離れた雑木林の手前にある。―って、校内の案内板を見て、そのとおりに進んできたつもりだったんだけど。

僕はいつの間にか雑木林の方に入り込んでいた。


ええっ…また、迷子…?

 困った。律に一緒に来てもらえばよかったかな?

ちょっと弱気になってしまう。

 なんとなく僕が弓道に興味を持ったことを話すのが恥ずかしかったから一人できちゃったけど…。

失敗だったかもしれない。

 僕、まったく進歩してないのか?


雑木林の中なのに、獣道みたいなところを進む。

空を見ても、さっきまで見えていた建物の姿がはっきりと見えないなんて…。

やはり身長が欲しい…。

 焦りそうになる心を落ち着かせようとして、耳を澄ませる。

音だ、さっきの的に当たる音が聞こえてきた方角に進めば…到達できるはず。

キョロキョロしながら進む。

ふと視界の端に、白い鳥が見えた。

カラスみたいな大きさ…?もしかして…。

なんとなくその後を追うように、前に進む。

 ふと視界が開けた。

建物の壁のようなものが見えて、僕は思わず駆け寄った。


「止まれ!」


高く張りのある声がした。

思わず足を止める。

瞬間、空気が張り詰めたのを感じた。

目の前の、少し先の空気が揺れて、バンッっていう、さっきとは違う重い音が響いた。

風が頬をかすめていった。


「あ…」

 危なかったぁ―――、ヒュンって体の底からすくみ上った。

へたり込みそうになったのを必死にこらえたけど、さっきの声がして、誰かがこちらに駆け寄ってきた。


「ここは立ち入り禁止だと言う標識を見なかったのか!」

 ええっ、また標識を見落としていたの?

 山で迷子になった時のことを思い出した。ショック…。

ぼーっと立ち尽くす僕に、駆け寄ってきた人が見下ろしてくる。

「…すみません、僕…道に迷って…しまって」

「迷う?」

 小さな声で答えるのがやっとだった。

何だかいろいろ恥ずかしくなってしまった。

顔を上げることも出来なくて、うつむいたままの僕。

その人の声がさらに低くなる。

そうだよね、学校の中なのに迷子になるなんて、ありえないよね。

僕もそう思います。


「はい、あの…弓道部の………見学を…しようと…」

「見学? 弓道部の?」

 怖い…。声が一段と低くなる。

結局練習の邪魔をしちゃったのだから、当たり前だよね。

ああ、本当に情けない…。

「はい…図書館で、…音が聞こえてきて。

なんだろうって思ったら、弓道部だって、受付の上級生に教えてもらって…それで……ええと…」

「………」

「ごめんなさい、練習の邪魔をしてしまって。

あの…帰り道を教えてもらったら出ていきます。本当にご…―――っ!」

 ごめんなさい、と最後まで言う前に僕の体は思い切りその人に抱きしめられた。

えええええ?何が起こってるの?


「見学などと言わずそのまま入部してくれていいぞ!

 ようこそ一年生! 名前は?」

「さ…さと…佐藤凜……です」

 ぎゅうぎゅうに抱きしめられるので言葉が出ない。

このままだと窒息しそうな勢い。

この迫力―颯太に、似てる…。

強引さと、妙な安心感のある抱擁…?


「佐藤凜? うむ?どこかで聞いたような…。

―ああ!ヒグマ殺しの息子か!」

 

 な、なんで?どうして?

ここで父さんのあだ名が?


 その人は頭の中が大混乱中の僕の肩を掴み直して、顔を覗き込んできた。

なんだかものすごく綺麗な女の子、いや女の人っていう迫力があった。


「君は…ヒグマと言うより、子熊だな? 大変かわいらしい!」


「う…えええ? 子熊?か、か…わいらしい?」

 父はヒグマ殺しであって、ヒグマじゃないです。

なんだろうこの人、先輩なんだけどどこかずれてる、変わった人?

ますます訳が分からなくなる。



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