第7話 くすぐりアイアンメイデン
ミアのくすぐりからなんとか解放されたエレナは、廊下の冷たい石畳に膝をついた。体中がローションの残りでべっとりと濡れ、タンクトップとショートパンツが肌に張り付く。
「はあ……はあ……もう、限界……」
息を荒げ、よだれとローションでベトベトになった頰を拭う。警察官としての使命感が、かろうじて彼女を支えていた。魔女の館の事件の黒幕を止める。それだけが、エレナの原動力だ。
膝をついたエレナを見て、アンナが妖艶な笑みを浮かべる。
「ふふふ、どうしちゃったのかしら? さあ、立って? 3秒以内に立たないとコチョコチョの刑よ? 3、2、こちょこちょこちょっ!」
「ひゃあああ!」
カウントダウンの途中にもかかわらず、アンナの両手がエレナの脇の下を襲った。ローションで増幅された刺激に、エレナは思わず飛び上がる。
「ほらほら、歩かないと、このままコチョコチョしちゃうわよ?」
「あははっはは!わかった!わかったからああ!」
アンナの手が脇の下の窪みの中でこちょこちょと動き出し、エレナは急いで歩き出す。エレナの足取りは重く、抵抗する気力も残っていなかった。アンナは時折、エレナの脇の下を指でこちょこちょと突く。
「ほらほら、元気出して。こちょこちょこちょ!」
エレナの体がびくんと跳ね、笑いが漏れた。
「ひゃっ! やめっ……あはははは!」
エレナは歯を食いしばって堪えようとするが、1回1回の指の動きに体はビクン、ビクンと反応してしまう。
アンナは楽しげに続けた。廊下を進みながら、エレナの首筋を指で軽く撫でる。
「ここはどう? こしょこしょこしょ~」
「きゃはは! 首、弱いの……ははは!」
体をよじろうとするが、アンナの方が一枚上手だ。今度はお腹を突っつく。
「つんつんつん!こちょこちょこちょ!」
エレナの大爆笑が廊下に響く。
「あははは! もう、歩けない……止めてぇ!」
アンナは軽いこちょこちょ遊びのつもりだろうが、エレナはさらに消耗してしまった。
廊下は長く、曲がりくねっていた。壁には蝋燭が並び、ぼんやりとした灯りが二人を照らしている。右手に、扉が開いた部屋が待ち構えていた。そこはくすぐり道具の倉庫らしく、中には羽根やブラシ、ローションの瓶がズラりと並んでいる。アンナが足を止め、ニヤニヤ笑った。
「この部屋で、あのインフルエンサーの娘、リサちゃんを『くすぐり処刑』にしたのよ。くすぐりローションを使って、三人がかりでくすぐったらイチコロだったわ。途中から、もう笑うだけの廃人になっちゃったもの。」
リサといえば、エレナの目の前で屋敷に入って行った女性だ。エレナの胸に、彼女を救えなかった後悔が湧き出してくる。警察官の本能が蘇り、エレナはアンナの手を振りほどいた。
「この部屋……詳しく見せて。」
証拠を持ち帰ることができれば、この屋敷に住むくすぐり集団を検挙できるかもしれない。直近に使われたものなら、まだリサのDNAが残っているはずだ。一部だけでも持ち帰りたい。
アンナは敢えて止めず、ニヤニヤ笑っている。
「ふふ、いいわよ。入ってみたら? でも、気をつけてね?」
なぜ彼女は止めないのか。エレナは警戒しつつ、部屋へ足を踏み入れた。体が疲弊しているが、使命感が勝った。部屋は薄暗く、棚にくすぐり道具がずらりと並ぶ。羽根の束、回転ブラシ、オイルの瓶、縄や拘束具。魔女の時代から伝わるものか、現代のものか。エレナは棚を調べ、証拠を探した。直近に使われた道具はないか、リサのスマホやカメラがないか。すると、部屋の中央に置かれている、奇妙な棺桶のような道具に気づく。長さ2メートルほどの鉄製の箱で、中には無数の棘のような突起が見える。いや、棘ではなく、ブラシの毛先だ。
「これは……何?」
エレナは近づき、中を覗き込んだ。その瞬間。突然、棺桶の扉が閉まり、エレナを中に引きずり込んだ。
「きゃあ!」
トラップだ。エレナは知る由もないが、このトラップの名前はくすぐりアイアンメイデン。魔女のくすぐり拷問装置だ。内側には無数の回転ブラシが仕掛けられている。機械仕掛けのブラシが回転することで、全身を同時にくすぐることができる、凶悪なくすぐり道具だ。暗闇の中で、機械の音が響く。ゼンマイが回り始め、周りを取り囲むブラシが回転を始めた。
「何これ……出して!」
エレナの叫びが虚しく響く。
まず、上からくすぐりローションが噴射された。粘り気のある液体が、エレナの体中に降り注ぐ。タンクトップとショートパンツがさらに濡れ、ローションが肌に染み込む。
「冷たい……またローション!」
すぐに無数のブラシが内壁から伸び、エレナの体を囲む。最初に、脇の下を狙ったブラシが回転しながらくすぐってきた。エレナは両脇を閉めてガードしようとする。しかし、ブラシは複数同時に動き出した。腹部を回転ブラシが撫で回す。
「きゃはは! お腹、だめぇ……はははは!」
エレナは逃げようと体をくねらせるが、狭い棺桶内では逃げ場がない。ローションが滑りを良くし、ブラシの毛先が肌を無慈悲に刺激する。
「あはは! 息が……くすぐったすぎ!ひゃはははははは!」
次に、足の裏にもブラシが当てられ、土踏まずを高速回転でくすぐる。
「ひゃははは! 足は弱いのおおおお!……あはははははは!止めてぇえ!」
もう棺桶の内側は全面ブラシだ。首筋、太ももの内側、背中、脇腹。無数の回転が一斉に襲いかかる。
「うひゃはははははぁぁあ! はははは!」
激しいくすぐりが続き、エレナの笑いは絶叫に変わった。棺桶が揺れるほどの爆笑だが、誰も助けに来るはずはない。体が熱くなる。
「あはははは! もう無理!……ひゃははははははは! ううっ!」
ついに、エレナはあまりの激しいくすぐりに気絶してしまった。体がぐったりとし、棺桶内で倒れ込む。笑いが途切れ、静寂が訪れた。トラップのゼンマイが止まり、扉が自動的に開く。アンナは部屋に入ると、エレナを回収した。
「ふふふ、くすぐりアイアンメイデンのくすぐられ心地はどうだったかしら? あら、まだ精神崩壊はしていないようね。運がいいわ。」
彼女はニヤニヤ笑い、エレナを抱き上げた。エレナの体は汗とローションで濡れ、虫の息だ。アンナが体に触れるだけで、無意識に体がビクンと反応する。
アンナはエレナを囚人部屋へ運んだ。地下の小さな部屋で、ベッドが一つ置かれている。アンナはエレナをベッドに寝かせ、縄で軽く固定した。
「ここで休みなさい。次のこちょこちょまでね。」
「もう……出たい……」
朦朧とした意識の中で、思わず独り言が漏れるのだった。




