第10話(グッドエンド)魔女から守護者へ
エレナは図書館の扉が開く音で目を覚ました。施錠されていたはずの扉が、ゆっくりと開き、アンナとミア、リュシーが立っていた。
「時間よ、エレナ。私たちのリーダー、ソフィアから魔女のくすぐり処刑を受けてもらうわ。」
どんなに抵抗しようと、ここで私は廃人にされる。エレナはもう抵抗する気力を失っていた。媚薬とローションの効果で、体は敏感のままだ。彼女は立ち上がり、三人に囲まれて廊下を進んだ。館の奥へ、地下へと続く階段を下りる。空気が湿り気を帯び、甘い香りが強くなる。くすぐりローションの匂いだ。
階段を下り切ると、広大な地下室が広がっていた。中央に、黄金色に輝くプール。くすぐりローションのプールだ。本で読んだ通り、腰まで浸かる深さで、液体がゆっくりと波打っている。プールの真上に、細い一本橋が架かっていた。エレナは息を飲んだ。プールの上で一本橋。幅は30センチほどで、両側に手すりもない。落ちれば即座にローションまみれになる。数日間のくすぐりを耐えた者さえ、精神崩壊してしまう地獄の場所へと。
橋の中央に、一人の女性が立っていた。リーダーのソフィアだ。黒いロングヘアが肩に流れ、本で見た魔女と同じ黒いドレスを纏っている。手には、無数の突起のついた「くすぐり手袋」を装着していた。ローションで濡れた手袋の突起が、微かに光る。
しかし、その顔に、エレナは凍りついた。見覚えのある、懐かしい顔。幼い日の記憶が一瞬で蘇った。ベッドの上で、散々くすぐり回され、笑わされたあの夜。
「マリー…お姉ちゃん? 」
ソフィア…いや、マリーは静かに頷いた。彼女の目は涙で潤んでいたが、笑みは妖艶なままだ。
「そうよ、エレナ。あなたのお姉ちゃんよ。もう10年以上会ってなかったわね。ここでは、魔女の末裔として生きているの。昔の名前を捨てて、ソフィアと名乗ってるわ。」
エレナの頭が真っ白になった。姉はパリで突然姿を消した後、消息不明になっていた。家族は「家出」と片付け、探すことすら諦めていたのだ。だが、まさかここで、こんな形で再会するなんて。
「どうして…どうしてこんなことを? あの被害者たちは…お姉ちゃんが?」
マリーは橋の上でゆっくりと歩み寄った。細い橋が微かに揺れる。
「魔女の教えに救われたのよ。小さい頃、毎晩のようにあなたをくすぐっていたの、覚えてる?実は私、目覚めちゃったの。」
「目覚めたって…何に?」
「くすぐりに、よ。ある日、あなたが笑い悶える姿を見て、私、興奮してきちゃったの。こちょこちょすればするほど、あなたはもっと激しくジタバタして笑ってくれたわ。その姿が…堪らなかったの。」
「そんな…じゃあ、お姉ちゃんが取り憑かれたように私をくすぐっていた理由って…」
「そうよ。あなたが悶える姿を見て、楽しむため。でも、あなたが大きくなるにつれて、こんなことやめなきゃって思ったの。あなたは辛そうだったし、もしかしたら、いつか警察を呼ばれちゃうかも、なんて考えたり。だから、私は家から逃げたのよ。」
「あれから、どうしてたの…?」
「最初は、もうくすぐりなんてやめようって思ったわ。でも、次第に我慢できなくなって。図書館でくすぐりの本を読んで発散しようとしていたの。そしたら、この屋敷と、魔女の話を見つけたの。今でも、好奇心目当てで行方不明になる人がいるって書いてあったわ。これだけ田舎なら、誰にも見つからずに、好きなだけ他人をくすぐれるかもしれない。その誘惑に勝てなかったの。」
「それじゃあ、他のメンバーたちは…?」
「同じ趣味の子達よ。SNSで仲良くなったり、くすぐりの魔女の噂を聞きつけて来てくれたり。中には、私たちにくすぐり拷問されて、目覚めちゃった子もいるわ。くすぐりは、私たちが私たちでいるための手段なの。」
エレナは拳を握った。怒りと悲しみと、懐かしさが混じり合っている。それでもエレナは警察官だ。市民を守る責務がある。
「でも、それは犯罪よ。お姉ちゃん。笑い続ける廃人たち…あの人たちは無実の市民だわ。」
マリーは優しく笑った。
「無実? 彼らは侵入者よ。魔女の聖域を汚す者たち。私たちはただ、試練を与えてるだけ。侵入者に何をしようが、私たちの勝手でしょう?」
エレナは一歩踏み出した。橋が軋む音が響く。
「なら、私も試練を受けるわ。お姉ちゃんと、くすぐり勝負よ。負けたら…お姉ちゃんもプールで廃人行きね。」
マリーの目が輝いた。
「いいわ、エレナ。姉妹の再会にふさわしい対決ね。こちょこちょ勝負、始めましょう。橋の上で最後まで耐えられたら、解放してあげる。」
エレナの目は燃えていた。
「……受けて立つわ。」
二人は橋の上に立った。エレナのタンクトップとショートパンツは、ローションとオイルで既にべっとりだ。マリーは優雅に両手を構えると、くすぐり手袋をニギッ、ニギッと鳴らした。その動作だけでも、ここ数日のくすぐりの感覚が蘇り、エレナは身震いする。
「始めましょうか。」
マリーの攻撃は洗練されていた。まず、右手を伸ばし、エレナの脇腹を突起付きの手袋で軽く撫でる。
「こちょこちょこちょ~!」
突起が肌を刺激し、エレナの体がびくんと跳ねた。
「ひゃっ! あはは!」
笑いが漏れ、すぐに大爆笑が始まる。
「あはは! お、お姉ちゃん…!」
幼い頃のトラウマが一気に蘇った。ベッドの上で拷問のようなくすぐりを受ける、あの感覚。マリーの指先がエレナの脇を滑り、お腹の柔らかい部分を円を描くようにくすぐる。エレナはもう爆笑が止まらない。膝がガクガクと震え、その場にうずくまってしまう。
「くすぐったい…あはははは! やめて、お姉ちゃん!いひひひっ!」
マリーは容赦なかった。今度は10本の指で脇の下のツボを揉み込み、息を耳元に吹き込んだ。
「覚えてる? 昔みたいに、くすぐり責めにしてあげるわよ。もっと笑って、エレナ」
マリーは容赦なく続けた。左手でエレナのお腹を狙い、手袋の柔らかい突起で洗うようにしてゴシゴシとくすぐる。
「ここはどうかしら?」
エレナの腹筋が震える。もう橋にしがみつくだけで精一杯だ。
「きゃはは! お腹、だめぇ……はははは!」
マリーに右脇腹を集中攻撃されると、あまりのくすぐったさにエレナは体をよじり、橋の端に寄ってしまう。マリーの指はさらに脇の下へ。手袋の突起が脇を執拗に刺激する。
「ここ、昔っから弱点ね、エレナ。」
エレナの笑いが絶叫に変わる。
「あぁぁ! ごめん!いひひひい!ごめんなさい!脇だけは……キャハハハ!」
涙が流れ、息が荒くなる。橋が軋み、エレナはよろめいた。マリーの動きは、かつての魔女の攻撃に匹敵するだろう。交互に脇とお腹を攻め、ローションとオイルで感度を高める。エレナはもう気絶寸前だった。
「ははは! もう……耐えられない……あははは!」
視界がぼやけ、体が熱い。プールの縁が近づく。マリーはトドメをさすべく、エレナの右脇腹に両手を添えた。
「さあ、落ちなさい!」
彼女はエレナの右脇腹をコチョコチョと揉み込み、橋から突き落とそうとする。神経を直接刺激されているほどのくすぐったさに、エレナは反射的にのけぞってしまう。下はくすぐりローションだ。もう落ちてしまう…そう悟ったエレナは咄嗟にマリーのドレスを掴んだ。
「一緒に……落ちるわ!」
二人はもつれ合い、橋から転落する。ドボン! プールに落ち、ローションが飛び散った。
黒いドレスが濡れ、マリーの肌が輝く。エレナはプール内で立ち上がった。これで二人ともローションまみれだ。チャンスはある。エレナは昨日のくすぐり図書館で読んだ技を実践することにした。
「今度は……私が責める番よ!」
彼女はマリーの脇腹に手を伸ばし、素手でくすぐった。ローションで滑らかになった肌を、指で軽く撫で、爪を立てる。
「こちょこちょこちょ!」
マリーの体がびくんと反応し、初めて反撃に成功する。
「ひゃっ! 何……あはは!」
マリーから笑いが漏れた。エレナは本で学んだ通り、マリーの弱点を交互に責める。脇腹から脇の下へ、首筋へ。
「耐えられるかな~、 お姉ちゃん?」
エレナの指が這い回り、マリーの笑いが爆笑に変わる。
「ははは! やめ……くすぐったい……キャハハ!」
マリーは耐えようとしたが、エレナの反撃は予想外に効果的だった。マリーが防戦に入ったところで、エレナは素早く、くすぐり手袋を奪い取る。装備したくすぐり手袋にプールのローションを掬い取ると、くすぐり手袋がテラテラと妖しげに輝く。マリーの瞳に初めて、恐怖の色が浮かぶ。
「いくわよ、お姉ちゃん!こちょこちょこちょ~!」
くすぐり手袋の効果は絶大だ。ローションで滑りが良くなった無数の突起が素肌を撫でるたび、マリーの体が震え、笑いが止まらなくなる。
「あははは! エレナ……これ無理!……ははは!」
マリーは膝をつき、プール内で崩れ落ちた。笑いが喉を震わせ、涙が混じる。
「私の……負けよ……」
エレナは手を止め、ほっと息をつく。
「……私も、限界だった。お姉ちゃんの強さは本物だよ。」
マリーはゆっくり立ち上がり、エレナを見つめた。
「エレナ……よく頑張ったわね。あなたの強さを認めるわ。」
彼女はエレナとハグを交わすと、プールから上がった。エレナも続き、二人ともローションまみれのまま、館の広間に向かう。マリーは他のメンバーたちを集め、宣言した。
「エレナを解放する。彼女は私たちの試練に勝った。」
メンバーたちは驚きながらも、マリーの言葉に従った。アンナ、ミア、リュシーがエレナに頭を下げる。エレナはついに館を出て、霧の森を抜けた。体は疲弊し、笑いの記憶が残るが、心は晴れやかだった。彼女はくすぐりに打ち勝ったのだ。
数ヶ月後、エレナは警察本部に、特別な提案をした。くすぐりの館にいたメンバーたちを警察の協力者として迎え入れるのだ。彼女たちのくすぐり技術は凄まじい。逃走する軽犯罪者を笑い転げさせて制圧するのに最適だ。最初こそ驚かれたが、実際に試すと効果は抜群だった。容疑者は皆笑い狂って動けなくなり、逮捕が人道的で簡単になった。
やがて、彼女たちのくすぐりは街で有名になった。「くすぐり警察」と呼ばれ、テレビやニュースでも取り上げられる。暴力を使わず、相手を無力化する新しい手法として、国際的にも注目されているようだ。エレナは時折、姉と会うようになった。昔のベッドで挟み撃ちにされた記憶は、今は温かな思い出に変わっていた。姉は笑って言う。
「エレナ、次は本気で勝負よ。もちろん、くすぐりでね。」
エレナは微笑んだ。「いつでも受けて立つわ、お姉ちゃん。」
魔女の館は、今も霧の中に佇んでいるのだろう。だが、そこに住んでいた者たちは、もはや恐れられる存在ではない。くすぐりで街の平和を守る、守護者となったのだから。




