第29話 ローブの剣士-2
「王女様!?」
彼女の名乗りを聞き思わず呆気にとられる。只者では無いとは思っていたがまさかこの国の第二王女だったとは。だが、それならなおのことどうしてこんな所に?俺が言葉に出来ず考えているとファリンが口を開いた。
「だ、第二王女様って…!なんでそんな方がこんな所に!?」
「すみません、驚かせてしまいましたね。」
「こちらこそ、すみませんッス!私失礼なことしてなかったスよね!?」
「いえいえ、皆さんは恩人です。そういう事は気にせずとも結構ですよ。」
焦るファリンを宥めるようにリルヴィアは落ち着いた声でそう言った。どうやら、噂通りの優しい人柄の持ち主らしい。そうして、ファリンが落ち着くのを待ちリルヴィアは再び喋り始めた。
「少し、落ち着きましたか?」
「はい、大丈夫、です。」
「そんなに畏まらないで、先程までの喋り方で大丈夫ですから。」
「そうですね、ではみなさんも自己紹介をしていただけませんか?皆さんのお名前をお聞きしたいですし、そうすれば多少は緊張もほぐれるのではないでしょうか。」
「あ、そうですね。すみません、僕たちばかり質問をしてしまって…。」
いけない、俺としたことがこんな初歩的なことを忘れるとはどうやらまだこの状況を上手く飲み込めていないらしい。俺たちはすぐにリルヴィアに軽い自己紹介をした。
「クロワールさんにアイリスさん、それと六郎さん、ファリンさんですね。」
「はい、そうです。」
「よろしくお願いします、リルヴィア様。」
「ウォフ♪」
「はい、こちらこそ。」
良かった、どうやら少しは打ち解けられたみたいだ。しかし流石は王族、ほんの少ししか話していないのにこうまで空気を変えるとは。こういったのをカリスマとでも言うのだろうか。
しかし、その落ち着いた空気は長くは続かなかった。
「それで皆さんは旅の途中なのですよね?」
「そうですね、今は色々と情報を集めつつ旅をしている最中です。」
「なるほど、ちなみに何処を目指しているのですか?」
「一応は王都に向かってみようかと。」
「王都…。」
そう呟くとリルヴィアの表情は険しくなった。はっきりと滲み出ている訳ではなかったがそこには怒りが透けているような気がした。
「リルヴィア様?どうしましたか?」
「いえ、ただ少し…。」
リルヴィアは少し言い淀みながら言葉を続けた。
「…今は王都に行かない方がいいと思います。」
「…どうしてですか?」
「それは…。」
「やはり、彼らに追われていたことが関係あるんですか?」
「…。」
長い沈黙がどんな答えよりもその質問を肯定していた。やはり何かがあったのは間違いないのだろう。
「…いえ、やはり恩人である皆さんを巻き込む訳にはいきません。」
静寂を断つようにそう言うと、リルヴィアはローブを深く被り直し出発の準備を始めた。
「急にどうしたんですか?」
「すみません、折角助けていただいたのに大したこともできず。少しでしたがこうして話すことができて良かったです。ですがもう行かないと。」
だが言葉とは裏腹にその足取りには力を感じられない。アイリスが止まるように呼びかける。
「無茶です!応急処置をしたとは言え体力は回復しきっていません。」
「…それでも、行かないと。」
その目には強い意志が宿っていた。これでは呼びかけは届かないだろう。俺たちに止める権利はないとは言え流石にそのまま行かせる訳にはいかない。何とかして止めなければ…。
(考えろ、リルヴィアは何処に向かおうとしている。あの意志を見るにただ逃げてきたとは思えない。とすると助けを求めに来たのか。この先に主要な都市は無いはずだが、一体誰に?)
様々な憶測が飛び交う中、ふと一つの答えが浮かんだ。
(そういえば魔法を使えるんだよな。それに向かおうとしている方角は南…。)
「もしかして…。」
すぐにリルヴィアに声をかける。
「リルヴィア様、もしかして向かおうとしているのは守り人のもとではありませんか?」
「…え。」
頑なだったリルヴィアの足が止まった。どうやら当たりらしい。
「どうしてそれを…、私は何も。」
「少し思い当たることがありまして、言ってみたんですけど当たりみたいですね。」
「ミネルヴァさんには僕たちもお世話になったんです。もしかしたら力になれるかもしれません。」
「師匠の名前まで…。皆さん何者なんですか?」
「そうですね、こちらも色々と説明したいのですが、ひとまずはこの場所を離れましょう。身体も相当限界みたいですし。」
俺の一言で緊張のタガが外れたのか、リルヴィアの足は先程よりも強く震えていた。ひとまず早く休ませないと。
「ちょうど疲れを癒せる場所を知ってるんです。まずはそこに向かいましょう。」
「アニキ、それって。」
「ああ、今回の目的地だ。早速向かおう。」
そうして俺たちは戸惑うリルヴィアを連れその場所へと向かったのだった。




