第30話 嵐の前
これはどういう状態なのでしょうか?連れてこられた場所で静かに考える。彼らの説得に乗ってここまで来たもののこれは…。
「リルヴィア様、痒いところはありませんか?」
そんな事を考えていると、彼女達に話しかけられた。
「えっ、あ、はい。大丈夫です。」
「そうですか、それは良かったです。それではそのまま待っていてください。次はお背中を流しますから。」
「あ、姐さん。次は私がやるッスよ。」
「そうですか、ではお願いしますね、ファリン。」
話は少し遡る。説得を受けた後私の疲れを察してか彼らがとある提案をしたのだ。
「ちょうど疲れを癒せる場所を知ってるんです。まずはそこに向かいましょう。」
「アニキ、それって。」
「ああ、今回の目的地だ。早速向かおう。」
「いざ、温泉へ!」
「お、温泉ですか!?」
「嫌でしたか?」
「嫌ではありませんが、その、なんと言いますか…。」
「嫌じゃないのなら早く向かいましょう。今の貴方はご自身が思っているよりも限界が近いですから。」
「そうと決まれば急ぎましょうアニキ!私もう待てないッス!」
「えっ、ちょっ!待って!」
そうして、私は彼らに連れられるままにここにやって来たのです。
「確かに、気持ちは良いですが少し恥ずかしいです。」
「ん、リルヴィア様何か言いました?」
「あ、いえ、なんでもないです。」
いけない、ついつい心の声が漏れてしまう。しっかりしなくては私はこの国の王女なのだから。常に落ち着いていないと。
そうして何とか自分を落ち着かせ彼女達との会話を再開する。
「すみません、お二人とも身体まで洗っていただいて…。」
「気にしないでくださいッス。リルヴィア様は王女様なんスから、これくらい当然のもてなしッス。」
「それに疲れてる時くらい、私たちを頼って欲しいッス。」
「…分かりました。ありがとうございます。」
「はいッス、それじゃそろそろ泡を流すので目をつぶっていてくださいッス。」
「ええ。」
私の返事の後頭からお湯をかけられる。温かい、こうして誰かと一緒に湯浴みをするのは何時ぶりだろうか。頭の中で幼い頃の記憶が反響する。
「終わったスよ。」
「ありがとうございました。二人とも。お礼に何か…。」
「いえいえ、お気になさらず。」
「そうっすよ、感謝なんて大袈裟ッス。」
「…そうでしょうか。それでは勝手に動かせてもらいますね。」
そう言って私はファリンの頭を洗い始める。
「ちょっ!リルヴィア様!?私の頭なんて洗わなくて大丈夫っすよ。」
「そうはいきません、受けた恩は返すようにと習って育ってきましたから。」
「け、けど…。」
「良いですか、これは王女としての言葉です。分かったらそのまま洗われなさい。」
「わ、分かったっス。」
少しずるい言い方だっだろうか。それでも、私は感謝を伝えたかった。ほんの一瞬だが辛いことを忘れさせてくれた二人に。
「…懐かしいですね。」
「え、今なにか言ったスか?」
「いいえ、何も。それにしても綺麗な髪ですね。」
「そうッスか?照れるッスね。」
「アイリスさんもこちらへお背中流させてください。」
「えっ、わ、分かりました。ではお願いします。」
「ええ、任せてください。」
一方その頃男湯にて。
「普段はどんな髪の手入れを?」
「私はこうで…。」
「そんな手入れの仕方が…。」
「「「………。」」」
「向こうは楽しそうだな。」
壁越しに聞こえる三人の喋り声に耳を傾ける。どうやら仲良くなれたみたいだ。リルヴィアの声も以前より活気に満ちている気がするし、やはり連れてきて正解だった。
「ウォフ♪」
「ああ、ごめんごめん。六郎がいるのに向こうばっか気にしちゃって…。」
「ウォフン。」
「なんやかんや、俺らで入るのは初めてだったな。いつも六郎はアイリスと一緒だし。」
「しかし、この宿の女将さんが犬好きで助かった。お陰でこうやって一緒に入れた。しかもリルヴィアが疲れていることを話したら早めに温泉を開けて貸切にしてくれたし。」
「ウォフウォフ。」
「気持ち良いか?」
「ウォフン♪」
「そっか、良かった。」
「さてと、それじゃそろそろ上がるか。」
「ウォフ?」
「もう上がるのかって?少しやりたいことがあるからね。」
「女性陣はまだ入ってると思うけど、早めに動くのに越したことはないからな。」
「六郎も着いてきてくれるか?」
「ウォフン。」
「よし、じゃもうひと仕事やって来るか。」
「ウォフウォフ。」
「ごめん、少し遅れた。」
「ウォフ。」
「主様、六郎、大丈夫ですよ。私達も今来たところですから。」
「ずいぶん長風呂してたみたいっすけどなんかあったんスか?」
「それは、内緒だな。」
「内緒って、教えてくれてもいいじゃないッスか。」
「男は男で色々あるんだよ。」
「ウォフウォフ。」
「ええ〜ケチっすね。」
「それで、リルヴィア様は?」
「今、いらっしゃると思います。そろそろ着替えも終わると思いますので。」
俺たちがそんな会話をしているとリルヴィアがやって来た。
「お待たせしました。皆さん。」
「いえ、大丈夫ですよ。僕らも今来たところ、で。」
「どうか、しましたか?」
「あ、いえ。良くお似合いだなと。」
いけない、思わず見惚れてしまった。初めて素顔を見た時もそうだったが、噂になるのも分かる美しさだ。服装が変わっただけでこれほどの威力とは油断ならない。心なしか空気が洗浄されている気さえする。
そんなことを考えていると何やら後ろから視線を感じる。振り返るとそこには頬を膨らませ不満そうに睨みつけるアイリスが立っていた。
「な、なに?」
「いえ、別になんでもありません。」
「そ、そう。」
ファリンと初めて会った時もそうだったが、何なのだろう。嫉妬しているのだろうか、怖い。
「どうしたんすか、アニキ。」
「いや、なんでもない。」
「ウォフ♪」
「ん、ああそうだな。それじゃ食事にしよう。」
「了解ッス。」
今回部屋は大部屋をとった。下手に分けては襲撃に対応できないと思ったからだ。それに大部屋であればわざわざもう一度別の場所に集まって話し合う必要もないからね。
「失礼します、お食事を運びにまいりました。」
「すごいッス!良いんスかこんなに!」
「ウォフ!」
「ああ、今日は特別だ。」
「あの、クロワールさん。」
「リルヴィア様、大丈夫です。ちゃんと分かっていますから。とりあえず今は食事を楽しんでください。話はその後に。」
「分かりました、ありがとうございます。」
そうここにきた目的はリルヴィアの体力の回復を図るためだけではない。リルヴィアから王都で何があったのか詳しく聞かせてもらう為でもある。
「美味しいッス!美味しいッス!」
「ファリン、もう少し落ち着いて食べなさい。」
「ウォフ、ウォフ!」
「こら、六郎も。」
「フフ、賑やかですね。」
「すみません、リルヴィア様。お恥ずかしいところを。」
「いいえ、お気になさらず。楽しく見させてもらってますから。」
そうして夕食は賑やかに進み、空に星が満ちる頃にはすっかり平らげていた。
「いやぁ〜食べたッス。」
「ウォフ〜。」
「食べ過ぎですよ、二人とも。」
「すいませんッス。」
後ろではファリンと六郎をアイリスが諌めている。こうして見ると本当にお母さんだな。そんなことを考えているとリルヴィアが口を開いた。
「それでは皆さん、そろそろよろしいでしょうか。」
「はい、そうですね。そろそろ本題に移りましょうか。」
部屋の空気がほんの少しだけ重さを持つ、リルヴィアの表情は真剣で元来の顔立ちの良さも相まって思わず背筋が伸びる。俺はそんな中で口を開く。
「教えてください。一体王都で王城で何があったんですか。」
「ええ、分かりました。」
そうして、リルヴィアの話が始まった。




