第14話 守り人-3
「それじゃあ行こうか。」
「はい、アニキ!!」
いつの間にか鬱蒼とした夜は開け、辺りには暖かな木漏れ日が満ちている。昨日話した通り今日からファリンの守り人の師匠に会いに行く。
「…。」
「アイリス、大丈夫かい?」
「…。」
「おーい、アイリース。」
「あ、すみません、主様!。少しボッーとしてました。」
「いや、そこまで気にしなくていいよ。少し声をかけただけだから。」
今朝から、アイリスの様子がおかしい。だが以前のように自分のことで悩んでいるわけではない。分かっている。恐らくは俺の事についてだろう。昨日は誤魔化したつもりだったがどうやら上手くは行かなかったらしい。
「…アイリス、その昨日のことだが。」
俺が言葉を言いかける前にアイリスがそれを制止した。
「大丈夫です、主様。私は主様を信じていますから。」
そう言うとアイリスは少しぎこちなく微笑んで見せた。まるで気にしていないとでも言いたげに。
「…ありがとう。」
「はい。」
俺は酷く自分が情けなく感じた。主などと名乗っておきながら、自分を慕ってくれる者の優しさに甘んじる現状に。
だから、せめてその優しさに報いよう、そう決めた。
ファリンの道案内は想像以上にスムーズに進んだ。流石は森の番人ということなのだろう。この森に住む生き物、それによって形成された生態系。それらをとてもよく把握している。ファリン自身は見習いだと言っていたがその知識量は素人目から見ても確かなものだとわかる。
「流石だね、正直ここまで頼りになるとは思っていなかったよ。」
「いえ、これぐらい朝メシ前っス。」
「こういう知識はファリンの師匠から?」
「基本的にはそうッスね。」
「師匠は私が守り人になるずっと前からこの森を管理してて、知識量も私とは比べ物にならないッス。」
「ファリン以上の知識か…。ぜひ話してみたいね。」
「はい、きっと気が合うと思うッスよ。」
ファリンの師匠、どんな人物なんだろうか。俺は期待に胸を膨らませてその日を終えた。
「主様、出口が見えてきましたよ。」
「ウォフウォフ♪」
ファリンの案内から数日俺達はついに森を抜けることができた。森の薄暗い雰囲気から一転、空には突き抜けんばかりの青空が広がっている。辺りには映画のような草原が広がり、清々しさすら感じる空気が肺を満たす。
「…キレイだな。」
思わず声がもれる。もしかしたらこの世界に来て一番素直で正直な言葉だったかもしれない。アイリス達はそんな俺を見て少し微笑んでいるようだった。
しばし落ち着く時間が流れファリンが口を開いた。
「アニキ、そろそろ師匠のところに行きましょう。」
「…そうだね、行こうか。」
いけない、つい本来の目的を忘れるところだった。そうだ俺たちはファリンの師匠に逢いに来たんだ。今起こっている森の異変について話すために。
ファリンの向いている方に顔を向ける。そこにはあまり大きくはないが白い壁に囲まれた家のようなものが見える。
(うん?家の中になにか見え…。)
細胞全てが悲鳴をあげるような感じたことの無い感覚が身体を襲う。産毛が逆立ち、身体中が危険を知らせている。あの時ですらここまでではなかった。これは一体…。
俺の異変に気づきアイリスが、次いでファリン、六郎が声をかける。
「主様どうしましたか顔色が悪いですが。」
「アニキどうしましたか?何か問題が?」
「ウォフウォフ?」
しかし、その声は耳を通るだけで俺に届くことはなかった。
(三人はまだ気づいていない。何処だ、どこから?)
その時鋭い殺気が俺の脳天を刺した。
「ッ上か!!」
光で白く染まっていく世界を横目に俺はアイリス達をなんとか弾き飛ばした。
「クッ!!」
ドンッッ!!白い閃光が空間を切り裂いた。その衝撃で地面はえぐれ、白い煙が上っている。雷だ。焼けこげた左腕を庇いながら俺はそれを確認した。
煙の先を見る。そこには長い金色の髪をたなびかせた。白い肌の少女が空に立っている。それは俺を一瞥するとまるで鳥の羽が落ちるようにふわりと目の前に降り立った。
「あれを避けるとは、どうやらただの賊では無いらしいな。」
その声は姿とは裏腹に体にのしかかるような重圧を帯びている。俺は冷静さを装いながらそれに応じる。
「賊って、いきなり攻撃してくるあんたの方がよっぽどそう見えるけどな。」
「ほう、軽口を叩ける余裕もあるとな。思っていたよりも度胸があるでは無いか。」
「一体何が目的だ。お前…!」
「そう、吠えるな。傷に響くぞ。」
「何、大したことでは無い。私の目的はただ一つだけ、その子を渡してもらう。」
そう言うと少女は真っ直ぐファリンを指さした。
「…なぜ。」
「それを答える必要はあるまい。貴様らは今から死にゆくのだから。」
「そうかよ、ならみすみす渡す訳にも行かないな。」
「そうか、ならば死ね。」
重圧が消え針のような鋭い殺気に姿を変えた。その殺気は真っ直ぐファリン以外の俺達に向いている。
(不味いな、聞きたい事はまだあるんだが、そうも言ってられないか。アイリス達はまだ目を覚ましそうにない。せめて目を覚ます時間を稼がなくては。)
「では、行くぞ小僧。」
「やるしかないか…!」
そうして思考がまとまらないまま闘いが始まった。




