第13話 守り人-2
顔の辺りに何かが当たる感覚がある。くすぐったい。フワフワしている。バシバシッ!でも少し痛いかも。
「へっくしゅん!」
驚いて体を起こす。見知らぬ天井だ。私は確か森で…。
「あ、起きたかいファリン。」
「良かった、なかなか目を覚まさないから…。」
「ウォフ!」
「うん、六郎もありがとね。」
毛皮を羽織った男性が心配そうに近づいてきた。そうだ、私は彼の正体を知ってそれで…!
「すみませんでした!!」
「え、きゅ、急にどうしたの!」
「驚かないといいながら貴方の正体を知った途端に気絶なんてしてしまい申し訳ないです。」
「あぁいや、あれは僕の伝え方のせいもあったから気にしなくても…。」
「私、感動したッス!」
「…うん?」
「蟲でありながら私を助けてくれたその優しさ!」
「是非ともアニキとして慕わせてもらいたいッス!」
「えっと…?」
話が全く見えてこない。いや、なんでそんな話になった?いや待て、もう一度話を聞いてみよう、もしかしたら俺の勘違いかもしれないし…。
「その、なんだ。慕わせてくれって言うのは子分として僕に着いてきたいって意味で合ってるのかな?」
「はい、その通りッス。」
「ぜひ、お願いしますアニキ!」
ファリンは真っ直ぐに俺を見つめてきた。
(全然勘違いじゃなかった。いや、こちらとしは仲間になってくれるのはありがたいけど。似してもアニキってすごいキャラの変貌っぷりだな。)
俺が悩んでいると、後ろから声が聞こえた。
「主様、ファリンさんが起きられたと聞いたのですが。」
いい所に来てくれた、一度アイリスにも相談しておこう。
俺はアイリスにことの経緯を話した。
「…てなことがあってね。」
「なるほど。」
「僕としては仲間が増えるのはありがたいと思ってる。何せ今は情報が足りないし彼女は森の外へ行くための道も知っていそうだしね。」
「そうですね、私としてもそこに関しては同じ意見です。」
「そっか、なら…。」
「ですが…!」
アイリスがファリンの前に出る。
「私に許可なく主様をアニキ呼ばわりするのは許せません!」
…いや、そこ!?俺的にはあまり悪い気はしなかったがアイリスはそうじゃなかったみたいだ。
「あのアイリス別に僕は気にしてないからさ…。」
「いけません!主様呼び名というのはこれからの関係の構築に大切な要素なんですよ。それをあんな風にアニキなんて…。」
「私の主様なのに…!」
「お、おう。そうだね。」
気迫に押された。なんとか二人の間を取り持たないとなんだけど、どうしたものか。
「アツいっす。」
ファリンが何かを呟いた。
「アニキを想うその気持ちアツいっす!私もその気持ち見習いたいっす!」
「ぜひ、姐さんのことも慕わせてくださいっス!!」
すごい、熱量だ。けどアイリスにこれが通じるかどうか…?しかし、これは杞憂だった。
アイリスに話しかける。
「アイリス、ファリンもこう言ってくれてるし許してあげてくれないかな?」
「い、いえ。こんなことでは許せません!」
「そ、その程度で私を絆せると思ったら大間違いですからね。」
…アイリス、顔をそんなに赤くしながら言われても説得力ないよ。
「分かってるッス。だから認めて貰えるようにもっと頑張るッス!」
ファリンがアイリスに近ずいて真っ直ぐに見つめている。スゴいキレイな瞳だ!遠くから見ているだけで汚れた心が洗浄されるようだ!
「ふ、ふん。そうですね。もっと精進しなさい。」
「でも、まぁさっきみたいに私のことを姐さんと呼んでくれるのなら主様をアニキと呼ぶのも認めてあげてもいいですが。」
「本当ッスか!?」
「え、ええ。」
「やったッス!これからお願いするッス。姐さん!!」.*・゜( *º∀º* ).゜・*.
「ふ、フフッ。悪くないですね。」
(,,⁃ ⩊ ⁃,,)…///
チョロい、あまりにチョロすぎる。ファリンの真っ直ぐな心に簡単に絆されてしまっている。俺の中でのアイリスの頼れる度が一段階下がった気がする。まぁでも、仲良くなれそうで良かった。勝手にアニキ呼びの許可出してるけど…。
そんなこんなでファリンが仲間に加わったのだった。
「ファリン、ひとつ聞いても良いかな?」
食事をしながら俺たちはこれまでの事、今後のことについて話し合っていた。
「そもそもなんでファリンは森のこんな深くまできていたんだい?」
「確かに気になりますね。」
「そういえば説明してなかったスね。」
「簡単に言ってしまえば、森で起きてる異変を調べるためッス。」
「異変?」
「はい、実は最近蟲達が大規模な移動をしているみたいでして、それを察知した私の守り人の師に調査を命じられまして。」
「それでここまで来たと。」
「はい、まぁ結果は知っての通りッスけど…。」
「おば、師匠が言うには森の主になにかあったのだろうってことらしいんスけど、手がかりもなくて。」
「なるほど。」
「姐さん達は何か知らないッスか?」
「ごめんなさい、私は何も…。主様は…?」
「…。」
「主様なにかございましたか。あまり顔色が優れませんが…。」
「あぁいや、なんでもないよ。」
「ですが…。」
「大丈夫だよ、本当になんでもないんだ。」
「そう、ですか。」
数秒の沈黙が流れ、俺は口を開く。
「その森の主についてだが、心当たりがある。」
「!本当ッスか!?」
「あぁ。」
「ただ、ここでファリンに伝えるよりも僕が直接その師匠に話した方がいいだろう。」
「どのみち僕たちの旅の目的は人の集落を目指す事だ。ファリンが森の出口まで案内してくれるのなら僕から説明しよう。」
(ファリンを一人で行かせるのは不安だしね。)
「そんなことでいいならおまかせくださいっス。」
「ああ、頼んだよ。」
「さて、それなら明日からの移動に向けて今日はしっかり休まないとね。」
「アイリス、すまないが今日は先に休ませてもらうよ。」
「はい、分かりました。」
「ウォフ。」
「うん、六郎もおやすみ。」
「…っ。主様!」
「なんだい?」
「あ、いえ、すみません。なんでも、ありません。」
「主様おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」
「アニキ!おやすみッス。」
振り返ることなく手を挙げて返事をする。そのまま俺は少し離れたところで腰を下ろした。
「ごめんな、アイリス。」
さっきの事が脳裏によぎる。俺はどんな顔をしていたんだろうか。笑えていれたならいいな。
風が吹き抜ける。いつもは心地よい風がやけに冷たく感じた。深い空気が胸を満たし、鉛みたいに沈み込んだ心を包んでいった。
そうして静かに今日が終わる。




