第12話 守り人
「守り人…、アイリスは知っているかい。」
「はい、あまり詳しくはありませんが話には聞いたことが。」
「この森には多くの蟲が生息しています。ですからまれに人の生息域に迷い込んでしまう個体が居るんです。守り人はそのような蟲を森に返したり、そうならないように森の環境を調査したりといった言わば『森の番人』のような存在であると。」
「なるほど…。ファリンさんもそういう認識で合ってるかな?」
「はい、概ねはその通りで間違いないです。と言っても私はまだ見習いですが。」
守り人、そういう存在もいるのか。
だが確かに考えてみれば当然か。この森は広大だ。この世界の人の暮らしは知らないが、この森と隣接している以上そういう風に蟲による被害は避けられないもんな。
「あの〜それで、助けていただたいた方に失礼かもしれないんですが。お二人はどう言ったご関係ですか?」
「こんな森にわざわざ入る理由なんて普通ないですよね。それにその服も…。」
「あ、それもそうだね。」
そうだったつい自分たちのことを説明するのをわすれてた。とは言えどう説明したものか…。
「あの、もしかしてですけど、恋仲だったり///。」
「え、ええ〜///。」
「そ、そう見えますかね///。」
「あ、いやそれは違うよ。うん。」
ここはキッパリと否定しとかないとね。何せ相手は子持ちだし、旦那さんとかも居るんだろうし。
「あ、そうなんですね。それは失礼しました。」
「あぁ、いやぜんぜん。気にしなくて良いですよ。」
…なんか心なしか、後ろから視線を感じん気がするけど気のせいだろう。
「えっとそれじゃあ一体…?」
「旅仲間だよ。今は森から出て人の集落に行くために旅をしている。」
「旅、ですか…。」
「うんそう、まぁ話すと長くなるんだけれど俺が森の中で迷ってたらたまたま二人を助けてね。それから…って感じ。」
「なるほど。」
「?いえ、今二人とおっしゃいましたか?そうするともう一人は何方に?」
「?何言ってるんだい、居るじゃないか目の前に。」
「え?」
ファリンの声に答えるように六郎が前に立った。
「ほらコイツだよ、名前は六郎。アイリスの子なんだ。」
「え…っと、なにかの冗談ですか?この子は犬?オオカミ?ですよね…。人がそれを産めるとは思えないのですが。」
「まぁそうだね。でもアイリスはただの人じゃないから。」
「アイリス、見せてくれるかい?」
「承知いたしました、主様。」
アイリスが白狼へと姿を変える。それを見てファリンは目を丸くした。
「え、ええ!ど、どういうことっすか。今、アイリスさん、人でしたよね!?」
「あっはは。まぁそうなるよね。わかるよ初めは僕もそうだったから。」
「なんでも、獣人らしくてね。獣と人の姿を行ききできるんだ。そうだよね、アイリス。」
「はい、その通りです。」
「じゅ、獣人。そんな種族がいるんですね。初めて知りました。」
「…?」
違和感のある言い回しだ。なんというかてっきりよくある異世界ものとかと同じように獣人はポピュラーな種族だと思っていたけど、そうじゃないのか?なら一体…。
「なるほど、お連れのお二人のことは分かりました。けど尚更あなたは一体何者ですか!?」
「あ、僕?」
「そうです。だっておかしいでしょう?アイリスさんと六郎さんが居るとはいえただの人がこの森で生きていけるわけがない。」
「話ではあの植物を倒したのは貴方と言う事ですが一体どうやって…!それにその話口調人の集落を目指してるって、まるで森からでたことごないみたいですし…。」
…鋭いな。俺は素直に感心した。いや、別に舐めていてわけではないんだけれど。俺の話から推測して疑問を言語化できる。なかなかにできる子だ。流石は守り人、と言ったところだろう。
「主様。」
「うん?」
アイリスが目配せをしてきた。…あぁなるほど、そういうことなら。
「ファリンさん。」
「は、はい!」
「僕が何者か知りたい。ということですが、お間違いないですか?」
「え、えぇ、はい。間違いないっす…ですが。」
「なるほど、よろしい。良いでしょうならば僕が何者か明かすとしましょう。」
「ほんとっす…、」
「ただし!」
「!」
「何を知ったとしても僕を疑わない、これだけは約束していただきましょう。」
「…なるほど。分かりました、受けて立ちます。どんな事があっても疑わず、驚かないそう誓いましょう。」
「約束ですよ。」
「はい、約束です。」
「では、正体を明かしますので少し離れてくれますか?」
「え、ええ。」
少し離れたところで立ち止まる。胸中は不安で溢れている。
(さっきはああいう風に約束したっすけど、もし仮に森の平和を乱す悪い人だったら私が…。)
「それでは。」
男はそう言うと身体を大きく震わせた。そして…。
「君は言ったね僕が何者なのか。答えはこうさ。」
身体が大きく変容する。それは見る間に天に届くほどの巨大となり私たちを見下ろした。
これは、ありえない!まさか…さっきまで人だったはず!!こ、こんなの!どうやって…。
『二人の仲間を連れ、君を助け出した僕の正体そう、それは蟲だったのさ!!』
『…ただし、『人の心を持った』だけどね。』
アイリスからの提言を受けて正体を明かすことになった俺だが。普通にやってもつまらないので少しエンタメ性を持ってお披露目することにした。即席だったのでお粗末ではあったかもしれないけれど…。
それでも精一杯やったんだ。きっと驚いてくれたはず…。どれどれ、反応は、うん?アイリスがなにか言って…。
「あるじさまー!聞こえますかー!」
『うん、聞こえてるよー!』
「降りてきていただけますかー!」
『うん、分かったー!』
人の姿に戻りアイリスに駆け寄る。
「どうかした、アイリス?なにかまずったかな僕。」
「いえ、そこまでではないのですが。」
「?」
アイリスが気まずそうに後ろに目をやる。そこには六郎にベロベロと顔を舐められている倒れたファリンのすごたがあった。
「その、実は主様の真の御姿を見て驚きすぎてしまったらしく、あまりのことに気絶してしまったようで…。」
「えぇ…。」
そうして、俺たちは倒れて泡を吹いているファリンを安全な場所まで運んだ。そして俺は今回のことでまたひとつ学んだ。驚かれすぎると悲しいからもう二度とサプライズ的に蟲であることを明かすのはやめた方がいいと。




