第15話 守り人-4
体に残る鈍い痛み、体の下には地面の冷たい感覚が広がっている。ここは、いやそうだ私は。
すぐに体を起こす。そうだった私は白い光に飲まれてそれで…。
「アニキ、姐さん…!」
直ぐに辺りを見回す。目の前にはえぐれた地面があり、その前に姐さんが私たちを庇うように立っている。
「どういう状況ですか!?」
「ファリン!良かった目を覚ましましたね。そのまま六郎と一緒に下がっていてください。」
「姐さん、アニキは…!?」
「とにかく待機です!主様は今…!」
姐さんは苦い顔をし何かを言いたげに視線を送る。私もそれに続くように目を向けた。
「アレは…!」
雷が空を駆ける、炎の波が押し寄せ、氷の槍が降る。瞬間、影が走り抜ける。その先には悠然と立ち尽くす少女の姿がある。
「アニキッ!」
少女が手を振りかざすと先の攻撃がまた雨のように降り注ぎ、その影を弾き飛ばした。
私はアニキの意図を理解した。私たちを逃がそうとしている。間違いない。でなければ人の姿であんなになってまで闘う理由がない。姐さんもそれを理解し機会を伺っている。けど、闘っているあの人は…!
「ファリン、気を見てここから離脱します。それまで待機を…!」
「待ってください、姐さん!」
声を遮り、私はあの少女について説明する。
「それは、本当ですか…!?あの子があなたの…!」
「はい、だから早く止めないと。手遅れになる前に…!」
「随分耐えるのだな。」
冷徹に攻撃を続けながらそれは語りかける。
「まぁ、おおよその意図はわかるがな。」
「仲間を逃がそうと言うのだろう?」
「…。」
「答えんか、実に健気なことだ。自身を犠牲にしてまであのものたちを守ろうとは。」
「まあ良い、どの道貴様さえ倒せば私を阻む障壁はなくなる。それまでせいぜい足掻くといい。」
絶え間ない攻撃が降り注ぐ。その中でも男の目は静かに燃えている。
答えは出ていた。最初の一撃あの事実がどんな分析よりも雄弁に現実を語っていた。これが魔法であると。
少し遅れて分析を終えた脳が結論を出す。勝てない。それほどの差だった。焼け焦げた左腕、人間の身体での戦闘、理由をあげたらキリがなかった。
気づけば身体は吹き飛ばされていた。
(絶え間なく続く中距離からの飽和攻撃、さらには肉体の限界。勝てないな、今の俺じゃ。…でもな。)
悲鳴を上げる身体で少女に向き直す。少女はそんな姿に少し呆れているようだった。それを見て独り言のように呟く。
「悪いな、まだ果たせてないことが沢山あるんだ。例え勝てないと頭で分かってても諦めてはやれねぇよ!」
ドンッ!!!
雨のような攻撃の中を男は走り抜ける。それには先程と違い余裕が感じられる。放たれる魔法を躱し、いなしている。
(動きが変わった…?)
少女の表情に少しの驚きが混ざる。
(予想通りだ。やはり魔法の発生と実際に攻撃が放たれるまでには若干のラグがある。おそらくは威力に比例して、でなければ最初のあの一撃、あれを放ってこない理由がない。…なら後はタイミングさえ分かれば…!)
針に糸を通すように一歩また一歩と少女との距離を縮めていく。そして、攻撃が重なった瞬間大きく踏み込み少女の懐まで潜り込んだ。
(コレで!!)
男が勝機を見出した瞬間だった。男の身体は白い閃光に貫かれた。
(なっ…!?)
全身が焼け焦げ意識を保つのもやっとな男を一瞥すると少女は語り始める。
「終わりだ。もうその身体では動けまい。」
「貴様は魔法の発動速度には威力が関係していると踏んでいたのだろう。」
「それはおおよそ正しい。だが前提にまで考えを回すべきだった。魔法の起動と発動との僅かなズレの発生。それはあくまで複数の魔法を併用していた場合の話にすぎん。」
「読まれて、いたのか…。」
「あぁ、貴様が早とちりして突っ込んできてくれて助かった。おかげで牽制に放つ魔法に意識を削ぐ事なく、安全に罠を張ることができた。」
「さて、無駄話はここまでにしてそろそろ終わらせるとしよう。」
その言葉は冷淡だった。まるで作業でもしているように。
(死ぬのか、また。アイリス達は…?)
最後の力でその姿を探す。だが辺りには見つからなかった。
(居ないか、良かった。せめて彼女たちだけでも守れたなら…。)
「では、さらばだ。」
少女のその言葉を最後に俺は意識を手放した。その裏で聞こえた小さな叫びに気づくことなく。
次に目を覚ますとそこはベットの上だった。俺は戸惑いながらも壁にあった窓から外を覗き込んだ。
外はあの草原だった。奥には森の入口が見え、空には太陽が輝いている。
(ここはどこなんだ、俺は確か殺されたはずじゃ…。)
その時だった、部屋のドアが開きそれが入ってきた。金色の長髪に翡翠色の瞳。俺を倒した少女がそこに立っていた。
「目が覚めたか。」
「なんでお前がここに、いやそれよりもなぜ…!」
「その節はすまなかったな。」
そう言うと少女は深々と頭を下げた。
「どういうつもりだ…?君は一体何者なんだ!?」
「そうだな、まずはそこから話すとしよう。」
「私の名はミネルヴァ、『ミネルヴァ・ステラード』。ファリンの祖母にして守り人の師匠だ。」




